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メッセージ

就任一年を振り返って

平成28年7月12日
理事長 坂田 東一

昨年6月26日に理事長に就任して、約一年が経過しました。この機会にこの一年のJSF事業等を振り返り、そのご報告と思うところを述べることにしたい。

この一年の宇宙活動

この一年の日本の宇宙活動は活発だったと言えます。即ち、

  1. 昨年7月、ソユーズ宇宙船で打ち上げられた油井亀美也宇宙飛行士による国際宇宙ステーション(ISS)での約5か月間の活躍、
  2. 同8月のH-IIBロケット5号機による宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機(HTV5)の打ち上げ及びISSへのドッキングの成功、
  3. 同11月のH-IIAロケット29号機によるカナダの通信衛星Telstar 12 VANTAGEの打ち上げ成功、
  4. 同12月の小惑星Ryuguを目指す「はやぶさ2」の地球スイングバイ成功、
  5. 同12月の「あかつき」の約5年ぶりの金星周回軌道への再投入成功、
  6. 本年2月のH-IIAロケット30号機によるX線天文衛星「ひとみ」の打ち上げ成功、しかし軌道投入後の「ひとみ」の異常事象発生、
  7. 本年7月の大西卓哉宇宙飛行士搭乗のソユーズMS宇宙船初号機(47S)によるISSへのドッキング成功と滞在開始、

と続きました。6の「ひとみ」がバラバラに壊れ、その機能を発揮できなかったことを除けば、我が国の宇宙活動は、各種衛星のとりあえずの運用もロケット打ち上げも有人飛行も良い成果を上げています。

上記宇宙活動支援のための広報業務及び宇宙利用実験に関わる事業

JSFは、これらの宇宙活動との関係では、油井宇宙飛行士関連の広報イベント業務の実施、H-IIAやH-IIBの打ち上げ中継や広報活動、「はやぶさ2」や大西宇宙飛行士のメディア対応の支援等を行いました。
また、ISSの重要な目的の一つである「宇宙利用実験」の支援があります。JSFの専門家が、生命科学、宇宙医学、物質・物理科学などの分野において大学の教官等が提案したISSの日本の実験棟「きぼう」内または地上で行う計50テーマ以上の実験の支援や準備作業を適切に行いました。

油井宇宙飛行士が「きぼう」内で実施した実験も含まれます。これによってJSFは、宇宙実験支援者としての信頼性と評価を一層高められたと考えています。今後もこの重要な宇宙利用事業に最善を尽くします。

以上のほかにこの一年間にJSFが関わった業務で主なもの、ユニークなものを以下にご紹介します。

宇宙の安全保障の確保に関わる事業

まず、「宇宙の安全保障の確保」に関係する事業です。JSFが岡山県に所有するレーダ観測施設の上齋原スペースガードセンター及び光学観測施設の美星スペースガードセンターにおいて(※編注)、低軌道や静止軌道近傍のスペースデブリ(宇宙ごみ)の観測、大型物体の地球落下観測、地球近傍小惑星等の観測等を実施しました。

特にスペースデブリの観測データはJAXAに提供するとともに、JAXAから米軍にも提供され、衛星がデブリと衝突しないよう、その軌道の調整に役立ててもらっています。また、去る3月には内閣府宇宙戦略室(現宇宙開発戦略推進事務局)主催の「宇宙空間の安定的利用の確保に関する国際シンポジウム」(通称SSAシンポジウム)の開催支援を行い、米、英、日、仏、独等各国の参加者によるスペースデブリ増加防止や除去などの方法、国際ルール作りなどの議論に貢献しました。

また、5月に、研究者や関係府省の担当官の参加を得て、人工衛星から海上交通の状況や津波など海の自然災害の様子を監視するための「海洋状況監視(MDA)」に関するワークショップを主催したことも新たな取り組みです。この分野は最近とみに重要性が増しており、JSFとしてもこれまでの経験を生かし、政府機関やJAXAに対し最大限の協力をしていくつもりです。

民生分野の宇宙利用の推進や産業基盤の強化に関わる事業

「民生分野の宇宙利用の推進」や「産業基盤の強化」の観点からもいくつかの事業に携わりました。
まず、国家的に重要な実用準天頂衛星システム・プロジェクトについて、関係会社主催のイベント開催支援やウェブサイトの運営などを受注し、同衛星システムの利用が国内外で一段と拡大するようプロモーション業務に尽力しました。

また、宇宙戦略室からの新しい事業ですが、宇宙インフラや宇宙技術を日本企業が新興国に輸出することを目指す「海外展開タスクフォース(TF)」の活動支援、更に同室による非宇宙企業の参入を促し宇宙関連の新産業や新サービス創出を目指す「スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク(S-NET)」構築への支援を行いました。

特に海外展開タスクフォースの取り組みでは、官民挙げての働きかけが功を奏し、三菱重工業がアラブ首長国連邦(UAE)から火星探査機の打ち上げ輸送サービスを受注するといった成果があがりました。
今後もTFやS-NETの活動が、国内外における我が国宇宙産業発展に向けた具体的な動きに繋がることを期待します。

調査研究及び国際関係業務

昨年1月に策定された「宇宙基本計画」とも関係しますが、今後の宇宙活動のあるべき方策について、JSFは外部からの助成金を得て、自ら「調査研究」を進めています。最近終了したものに、「新しい宇宙活動を創出するための官民連携方策に関する調査研究」及び「小型衛星を通じた宇宙の人材育成に関する調査研究」があり、新たに採択されて研究実施中のものに、「国際宇宙ステーションを活用した有人宇宙探査に関する調査研究」及び「欧州における宇宙を用いた海洋状況認識(MDA)の現状と国際協力に関する調査」があります。

これらの調査研究は、いずれも今後の我が国の宇宙開発利用にとって、重要な政策テーマであり、その結果については政府やJAXAの関係者にも参考にしていただきたいと思っています。

また、「国際関係業務」は今後ますます重要になるだろうと予想しており、この一年も、JAXAに協力し、世界の宇宙航空関係活動状況の調査、第22回アジア太平洋地域宇宙機関フォーラム(APRSAF)や国際災害チャーターの事務局支援、宇宙技術を用いた環境監視(SAFE)ワークショップの開催支援、アジア・太平洋地域における宇宙環境利用推進のための業務支援にも取り組みました。今後もこれらの分野でのアジアの国々への息の長い協力が、我が国への信頼感を高いレベルで維持することになると考えます。

宇宙産業や科学技術の基盤の強化に資する人材養成業務

「宇宙産業や科学技術の基盤の強化」の中で、「人材養成」は非常に重要です。JSFとしても、高校生や大学生、大学院生向けの「衛星設計コンテスト(第23回)」の開催、宇宙の日(9月12日)を記念した小中学生向けの作文絵画コンテスト(第23回)の開催、JAXAのコズミックカレッジの開催支援、宇宙新興国向け人材育成テキストの整備、トルコ(三菱電機が2機の通信衛星を受注、2014年2月と2015年10月にプロトンロケットで打ち上げ)における地球観測に係る人材育成等の方法に係る調査分析などを手がけました。

これらの人材養成への取り組みが、日本の宇宙産業や科学技術の基盤強化に貢献することを願っています。

広報普及活動に関する業務

最後に宇宙の開発利用全体について、国民の理解を幅広く得るために取り組んでいるその他の「広報普及活動」をご紹介します。JAXAとの関係では、国際宇宙会議(IAC)やAPRSAFなどでの展示会開催や日本科学未来館でのG空間エキスポへの出展支援、映像、印刷物などの各種広報ツールの企画・制作を担当しました。また、宇宙教育センター、航空技術部門、各本部や事業所等の広報関係の企画・制作にも幅広く参画し、期待された成果を上げることができたと考えています。

また、人材養成にも効果があると思われる広報普及事業として、全国の科学館(JSFは126の科学館と情報ネットワークを構築)、地方自治体、学校法人、企業などが実施する展示やイベントの企画・制作及び開催支援も行っています。特にJSFは契約によって、NASAのアポロ15号及び16号が回収した「月の石」並びにロシア科学アカデミーのルナ16号、20号及び24号が回収した「月の砂」を保有している世界で唯一の機関です。従って、展示会では米ロが月から回収したものを一緒に展示できるという特別の立場にいます。

JSFのそのような能力もあり、この一年間に11の展示会とイベントの開催に関わりました。このうち科学館関係では、1.バンドー神戸青少年科学館特別展「宇宙への挑戦」(昨年7月~8月)、2.余市宇宙記念館特別展「世界のロケット、ペーパークラフト展」(昨年9月~11月)、3.五反田文化センター「五反田宇宙ミュージアム」(昨年9月)、4.佐久市子ども未来館秋の特別企画展「知ろう!宇宙開発」(昨年9月~11月)、5.福井県児童科学館特別企画展「宇宙開発物語~月への挑戦~」(昨年11月)、6.かかみがはら航空宇宙科学博物館20周年記念「中川義通氏ロケットペーパークラフト展」(本年2月~3月)があります。いずれも好評を博し、多くの入場者でにぎわったと聞いています。

今後、このような実績が評価され、JSFがさらに日本各地の科学館で“宇宙展”をオーガナイズできることを望みます。同時にそれによって幅広い国民各層に宇宙技術や科学技術の重要性を訴えていきたいと考えます。

新しい事業の開拓

以上の通り、この一年間の事業展開は概ね順調に推移したと思いますが、収支状況には依然として厳しさが残っています。
そのため、「新しい事業」を掘り起こす努力をする必要があります。既に、国立天文台のアルマ望遠鏡等に関係する業務の一部に取り組み始めており、更に平成28年度からは、中核事業の「広報普及」と「宇宙利用実験」の両事業を着実に進めるとともに、より積極的に「調査研究」業務と「国際」業務に取り組みます。

いわゆるThink Tank機能を一層充実させ、その業務を推進する中から新たな事業を立ち上げることも視野に入れたいと考えています。そのための実行部隊として、従来の企画室と広報・調査事業部の調査国際グループを統合し、この7月から「事業創造部」を発足させたところです。事業創造部には、未来のJSFを創る意気込みで頑張ってほしいと思っています。

引き続き、皆様方のご支援、ご指導をお願い申し上げます。
(編注):両スペースガードセンターは、平成29年4月に国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)に移管されました。
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