宇宙環境利用に関する公募地上研究
平成10年度 研究成果報告書
(研究期間:平成9年度〜平成10年度)





無重力環境下での試料採取の技術の開発

Development of Sampling Technology in Reduced Gravity





藤原 顕(代表者)1)、 安部正真1)、 長谷川 直1)、島田孝典1)、 小野瀬直美1)、森口功一1)、森重和正1)、矢野 創1)、 樋口 健1)、沢井秀次郎1)、川口淳一郎1)、高木 周2)、高木靖彦3)、 高山和喜4)、野中 聡4)、岡野康一4)、三輪治代美5)、奥平俊暁6)、 矢島 暁7)




1)文部省宇宙科学研究所
 〒229-8510 相模原市由野台 3 - 1 - 1

2)電気通信大学電子工学科
 〒182-8585 調布市調布が丘 1 - 5 - 1

3)東邦学園短期大学
 〒465-8515 名古屋市名東区平和が丘 3 - 11

4)東北大学流体科学研究所
 〒980-8577 仙台市青葉区片平 2 - 1 - 1

5)名古屋大学理学部
 〒464-8602 名古屋市千種区不老町

6)日本電気株式会社
 〒224-8555 横浜市都筑区池辺町 4035

7)住友重機工業株式会社
 〒792-8588 新居浜市惣開町 5 - 2





要約
 宇宙空間での各種の物体からの試験片の採取の機会が増えつつある。本研究では小弾丸を被採取物体に衝突させ、出てくる破片群をろうと状の円錐(ホーン)で収束させて採取する装置の設計に必要なデータをとった。衝突したときの破片の生成の様子、破片がホーン内壁で反射しながら移動する様子を調べる実験、理論シミュレーション、および地上1G重力下、航空機による低重力での各捕獲試験を行った。煉瓦のような被採取体から出た破片の少なくとも約 40 % 以上をこの装置によって採取できることがわかった。

ABSTRACT
 Opportunities to collect test pieces from various kind of bodies in space is increasing. In this study we obtained data required for design of a device which collects samples by shooting a small projectile onto the targeted bodies and concentrating ejected fragments through a funnel-shaped horn. We made a series of studies including experiments to investigate production of fragments at impact and motion of fragments reflecting inside the horn, capturing tests both in 1G-environment on the ground and under reduced gravity using an airplane. These investigations show that more than 40 % of the ejecta from brick-like bodies can be caputured by this device.


1 はじめに
2 採取原理と研究方法概要
3 各研究方法とそれらの結果
4 考察と結論
謝辞
引用文献
5 本研究契約で発表した論文


1 はじめに
 宇宙曝露構造物から検査のためにテストピースを採取したり、小惑星、彗星など、低重力環境の天体表面から科学的目的のために試料を採取する技術の必要性が高まりつつある。このような採取技術に要求されることとしては、採取する物体の材質や存在形態によらないこと。低重力下で使える技術であること。広い範囲から試料を集めるが最終的には小さなサンプルケースに収納できること、簡便であること。効率がよいこと、経済的であること、などがある。このような条件を満たす一つの採取方法である、打ち込みホーン方式の有用性を実証するための実験を無重力状態で行うのが目的である。


INDEXへ戻る


2 採取原理と研究方法概要
 この方法は、対象物に向かって小物体を発射し、飛び出してくる破片を採取するものである。実際には次のように行う(図1)。対象物体に細長い漏斗(ろうと)状の円錐(ホーン)を被せ(漏斗の広い口を対象物側に向けて)、この中で、発射器(プロジェクター)で弾丸(プロジェクタイル)を発射して対象物体に衝突させる。衝突によって出される破片は漏斗の内面で反射されながら狭い口の側に移動していく。低重力状態であるので、いったん放出された破片は重力の影響を受けずに漏斗の中を飛んでいく。この出口にサンプルケース(キャッチャー)を設けておいて、最終的にこれらの破片試料を収納する。漏斗の役割は破片を効率よく移動させ破片密度を小さなサンプルケースに向かって高めていく、いわば 収束器 とでもいうべき役割を演ずる。

 本研究では設計に必要となる基礎実験を次のような段階を踏んで進めた
(1) 弾丸を対象物体に打ち込んだときに出る破片の速度とサイズ、量に関する情報を知る実験を行った。試料として必要な量を生む弾丸のサイズと速度を決めるのが目的である。
(2) 破片が漏斗の内壁にぶつかった時の反射の挙動を調べるための実験を行った。
(3) 同様のことを理論的にも調べるために数値シミュレーションを行った。
(4) 放出された破片のうちどれだけが回収できるかを地上1G下で調べた。
これは次に行われる低重力下での実験に備えて行われたものであり、目的は以下のようなものであった。
- 無重力実験で得られる結果と比較して重力の効果がどのように現われるかを知ること。
- 航空機のパラボリック飛行を利用した低重力実験では、保安上のためプロジェクター(弾丸発射器)に装填する火薬量を低い値に抑えざるを得なかったため、本来の性能を地上実験を使って外挿する必要があったこと。
- 無重力実験では排気装置を搭載できなかったため、真空度を十分高くできなかった。真空度を地上実験では変化させて試験を行って、真空度が良い時にデータの外挿を行う必要がある。
- 航空機に搭載する機器の機能試験と安全確認試験。
(5) 航空機に装置を搭載し、パラボリック飛行を利用して低重力状態で性能を調べた。航空機での実験では採集効率など原理的な部分を検証するとともに、実用上重要となることがらについても調べた。
以下の項で、上の各段階に対応して行われた研究について順に述べていく。

図1 採集器原理


INDEXへ戻る


3 各研究方法とそれらの結果
3-1 地上でのクレーター実験
 まず、弾丸を標的に衝突させたときの現象を理解する必要がある。そのため、実験室内でガス銃をつかって弾丸を打ち出し、耐火煉瓦に衝突させ、クレーターの大きさ、放出される破片の量、破片の速度、弾丸の跳ね返り速度を求める実験を行った(弾丸の質量約 7 g、速度約 250 m / s)。耐火煉瓦は小惑星表面を模擬するものの一つとして使ったが、小惑星の表面物質が空隙の多いものであろうという予想もあることと入手のし易さから選ばれた。使用した耐火煉瓦のバルク密度は 2.0 g / cc、空隙率40 %である。以後の実験ではすべて同じ耐火煉瓦を用いている。衝突の様子は高速度ビデオによって記録された。得られた多くの結果の中から一例として破片生成量を衝突エネルギーの関数として図2に示す。今回行った実験は鉄を耐火煉瓦に衝突させたもののみである。これらの結果に基づき、発射する弾丸の質量、速度の現実的なノミナル値をそれぞれ 5 g、 300 m / s に設定した。これらはこれ以降の採集器開発の基本パラメーターとなった。この弾丸によって煉瓦様の強度の低い物質ならば、数ないし5 cm 程度のクレーターができ、約 5 g の破片が生成され、cm から mm の破片の速度が m / s から10m / s オーダーの範囲にあること、さらに小さな破片は 100 m / s 程度の速度をもつことががわかった。

図2 クレーターからの放出物質量
鉄と耐火煉瓦の組み合わせが今回行った実験。
それ以外は文献1)、2)による

3-2 地上1G下での破片のホーン上での反射則と回収率を調べる実験
 次に衝突で出た破片がホーンの表面に衝突してどのように反射していくかを調べる必要がある。つまり破片の平面での反射則を知る必要がある。また1G下での破片の回収率(捕獲された破片の重量/衝突で放出された破片の総重量、ここではホーンの細いほうの出口まで達したものとする)もあわせて知りたい。そこで、以下に示すような衝突実験を行った。
 透明アクリル製の真空容器を製作し、これを横置型軽ガス銃の下流側に継いだ。弾丸は水平方向にチェンバー内を飛ぶ。弾丸の経路を挟むようにして、アルミの平板を2枚ハの字型に立て、ハの字の狭い側が銃の出口に向くように置く。ハの字の広い側の出口には弾丸の標的として煉瓦のブロックを置く。弾丸は標的に衝突して標的から破片を飛び出させる。これらはホーンの内表面で反射しながら 上流へと(銃の出口の方へと)向かう。ホーンは本来はろうと型(円錐)であるが、この実験ではこのような2枚板ホーンとし、板の間の空間を破片が反射しながら移動していく様子を側面から高速度ビデオカメラで観測できるようにした。
 弾丸はアルミニウム製、形は先端を丸くした円柱形、代表的な速度は約 300 m/sである。ターゲットは耐火煉瓦を用いた。
 この実験では撮影されたビデオ画面から、個々の破片の速度とホーン表面での速度反射率(反射後の速度/反射前の速度)、反射方向を計測した。実験の結果が図 3 a, 図 3 b に示されている、入射角度(壁面からの角度)と速度反射率の間に負の相関があるということや、入射角と反射角の関係がこれらの図からわかった。またこれらの分散の程度がわかった。
 またホーンの上流側入り口までたどり着いたものは重量にして全体の約 30 % 程度であった。

図3 出射速度(上図 a )と反射角(下図 b )

3-3 ホーン内での破片の反射に関する数値シミュレーション
 ホーン内で破片が反射して移動していく状況を理論的に調べた。
 破片は回転楕円体と仮定し、1個の楕円体が平面上で反射するときの、反射前後の速度変化、角度変化、自転角速度変化を、楕円体の表面接触時の姿勢(位相角)、入射前自転角速度、摩擦係数 μ、反発係数 e をパラメーターとして、楕円の短軸と長軸の比と、衝突時の姿勢(位相角)を乱数で与えて、入射角に対する反射角、速度反射率などを求めた。ただし、0 G下でのシミュレーションである。
 結果の一例として、 e = 0.2 、μ= 0.5 の場合について 140 個の粒子を飛ばした場合が図 4 a, 4 b に示されている。分布の傾きや点の分散に微妙な差異は見られるものの前項で述べた実験結果(図 3 a, b )と似た傾向を示している。これらの計算により、摩擦係数が大きくなると分散が大きくなり、入射角と速度反射率の負の相関の傾きが小さくなること、反発係数が小さくなると反射率が小さくなり、入射角と速度反射率の相関が正から負へと移行することなどが明らかになった。
 このように1回の反射の様子がほぼシミュレートでき、実験をほぼ再現できることがわかったので、次の段階として、ホーンの形を決めて、これに粒子を多数投入して、多数回反射しながらホーン内を移動する状況をシミュレートした。ホーンの形としては図 5に示すように円錐型のものとつりがね型のものを使った。これらの図では破片の初速度はすべて代表速度 5 m / s で放出されたものである。ホーン上方への到達に要する時間とその分布および破片の量に違いが見られる。予想されるように円錐型のものの方が破片の収率がおよそ数倍以上良いという結果が出た。また円錐型の場合、収率の最高値は 40 % であった。

図4 出射速度( 左図 a )と出射角(右図 b )

図5 ホーン(左図)中で反射して出口に到達した破片数の時間履歴

3-4 捕獲効率の真空度による影響の見積り
 航空機による低重力実験では種々の制約上、真空ポンプの機内持ち込みが困難であると予想されたため、あらかじめ真空度が悪い場合の影響、すなわち破片の飛翔における残留空気の抵抗の効果を考察した。破片が重力に逆らって空気抵抗のある中をどこまで飛ぶかを推定したものを図6に示す。ただし、これらはホーンの壁に衝突せずに真直ぐに上昇するとして計算したものであり、実際のホーンの内壁に衝突しながら上昇する場合と状況が異なるが、ひとつの目安となるであろう。いま距離 50 cm の距離(地上、航空機実験での標準的なホーン+チューブ部分の長さに相当)まで到達できるかどうかをみてみることにする。
 たとえば、半径 100μm 程度の破片は速度数 10 - 100m / s 程度の速度を持っていると思われるが、1 G 下で、これらの破片は 760 Torr の時は到達できないが、70 Torr は到達できることがわかる。また、同じ 70 Torr の場合 でも 0.01 G では速度数 m / s 程度の破片も到達できることがわかる。

図6 破片の上昇距離
3枚の図は重力と真空度が異なる。 パラメーターは初速。

3-5 捕獲効率の真空度による影響の見積り
 航空機による低重力実験に先立って、地上1G下での実験を行った。この実験では捕獲装置1式(プロジェクターと被捕獲材である耐火煉瓦ブロックを含む)を真空チェンバー内にセットし、破片の収率を真空度と発射速度の関数として求めた。

【装置】
 装置本体は、発射器、ホーン、チューブ、キャッチャーから構成される(図7)。標準的なものは航空機実験で使われるものと同じ仕様として実験を行った。図には円錐型とつりがね型両方のホーンが重ねて描かれているが、地上実験では円錐型のみを使用した。発射器は弾丸を発射する部分である。弾丸はホーン表面に開けられてある小穴を通してターゲット表面に衝突するようになっている。ホーンは長いろうと状の部分で広い口を採取しようとする試料に向け、細い側はチューブを経てキャッチャーにつなげる(ホーンの長さは 40 cm, 口の直径は 24 cm, 2 cm, ステンレス製 で、その上部に継がるチューブは長さ10 cm、口径 2 cm である)。破片群はろうと内面で反射、収束されて、チューブを通ってキャッチャーの方へ向かう。キャッチャーはやってきた破片群を最終的に捕獲する容器である。 射出器は無煙火薬( NY 500 ) によって駆動される。弾丸はステンレス製、質量は 5.0 gである。弾丸の速度は火薬量によってコントロールされる。速度の範囲はおよそ18 m / s から 300 m / s の範囲であった。弾丸はアルミニウム製サボに乗せて射出され、サボは射出口で止められ弾丸のみが外に射出される。これは火薬の燃焼ガスが射出口から出て採取しようとする試料を汚染することを防ぐためである。

図7 真空チェンバー中の装置

【実験】
 先に述べたように真空度による影響を推定するために、実験は大気圧中 ( 760 Torr ) および 70Torr, 1 Torr の真空中で行った。実験装置はホーンの広い口側を下に、キャッチャーを上方になるように垂直に立てて行った。標的(被採取試料体)としては耐火煉瓦を使用した。

【結果】
 図8に破片の収率(クレーターからの総破片量のうち、キャッチャー内に入った破片の割合)を弾丸の運動エネルギーに対して示してある(ただし実際に変えたパラメーターは速度のみ)。この図によって(白抜きのデータ点が地上実験)、真空度が同じならばエネルギーが上昇するにつれて収率が上昇することがわかる。収率は大気圧(760 Torr ) 下で一番低く、真空度が上昇すると上がることがわかる。真空度が 70 Torr 程度ではまだ大気圧との差は顕著ではないが、1 Torr にもなればその差が1桁近く変わる。なお収率はエネルギーの上昇とともにどこかでストップするはずである。今回行った最高エネルギー(ほぼ当初の計画値のエネルギー 225 J に近い)のところでデータ点が 40 % 付近で停留ぎみであり、この付近が上限値になっているように見える。
 以上により真空度が収率に大きく影響することがわかる。これは先の考察からもわかるように、小さい破片が残留大気の影響を受けて減速されるためであると考えられる。その様子を見るために、キャッチャー内に捕獲された破片のサイズ分布をふるい分けによって調べた。図9は、捕獲された破片のサイズ分布をクレーターからの総破片のサイズ分布に対する比で表わしたものである。ただし、ふるいは4種類使用し、メッシュサイズ D1と D2(D1<D2)のビンに入るものを横軸 D1の位置に表示してあるので注意がいる。この図から(図中の白抜きの点)つぎのことがわかる。まず衝突速度 150 m / s で行ったものについてみると、1気圧大気中では破片直径が小さくなるにつれて捕獲された粒子の割合が急激に減少している。70 Torr の真空に排気したものではサイズの減少とともに増大し、直径 100 μm 付近から残留空気の抵抗によると思われる収率の下降傾向が現われる。さらに 1 Torr ではこの折れ曲がりは見られない。次に衝突速度が 300 m / s の時も折れ曲がりの有無や折れ曲がりの位置など、 150 m / s の時と大きな差はないが、全般に破片の収率が上がっている。

図8 破片の捕獲収率


図9 サイズ領域ごとの捕獲収率

3-6 航空機による低重力状態での採取実験
 航空機のパラボリックフライトを利用して行った低重力実験の目的は以下のように2つに大別できる。

(1)収集原理に関するもの
 クレーターから放出された破片がキャッチャーにどれくらい集められるか、すなわち収率を調べ、地上での 1 G 下での実験との比較を行う。また数値計算によりホーン形状として円錐型が収率の点でつりがね型より優れていることが予測されたが、この確認を行うこと。さらに捕獲のために要する時間と数値計算との比較を行うことなどである。またキャッチャーと被採取物体との距離が離れている場合を想定してホーンを2段にしたものについても実験を行った。ターゲットは地上実験の場合と同じく耐火煉瓦を使用した。

(2)実用化のためのもの
 この研究では主として破片の収率という観点を中心に進められているが、実際に装置として実用化するためにはいくつかの機構を必要とし、それに伴う問題点をクリアしなければならないので、そのための実験を合わせて行った。この種の問題点でももっとも重要なものは、衝突でできる粉塵環境下での機構部分のしゅう動に関するものである。この実験では、サンプルを複数箇所から採取して互いに混じり合わないように収納するための一つの方法として、サンプルキャッチャー部分を複数個の部屋に分割して、各部屋にそれぞれの採集箇所からのサンプルを導くようにした。そしてこのための作動機構が必要となり必然的にしゅう動部分が発生する。スペースでのしゅう動はそれだけで一研究分野を形成しているが、砂や粉体環境下でのしゅう動に関してはまったく未知の部分となっている。ここでは、とにかくキャッチャー部にしゅう動部分のある装置を取り付けて作動するかどうかの確認をして、この装置の現実性を調べることとした。

【装置】
 ノミナルな実験装置の仕様はつぎのように、地上実験と同じものを用いた。ただし、先にも述べたように保安上の問題から、プロジェクターの火薬量は地上実験の場合より少なく、また真空度は低い状態で行った。以下の装置仕様で ( G ) 印は地上実験で使用したものと同じものを表わしている。
構成品の主な仕様は以下の通りである。

(1)収集装置(図7参照)
ホーン :次の3種を用意した。
 - 円錐型(G)(長さ 40 cm、上端口径 2 cm、下端口径 24 cm )
 - つりがね型(長さ 40cm 、図 9 参照)
 - 円錐2段型およびつりがね2段型(上記円錐型あるいはつりがねホーンの下にさらに
  長さ 40 cm 、上端径13cm、下端径 26 cmの円錐型ホーンを付加したもの)
キャッチャー:次の2種を用意した。  
 - 箱型(G) 内部に構造のない透明アクリル製箱を使用した。
 - 回転型 容器が3部屋に仕切られていて容器が回転することによって、
  3ヵ所から収集したサンプルが3部屋に分別収納される。
  その後チューブが引き抜かれる。これら、回転、引き抜きのための機構が付属している。
チューブ: 長さ10 cm ( G ) を使用した。
プロジェクター:無煙火薬 0.5 g 使用し、質量5 gのステンレス製弾丸を150 m/s までの速度に加速。地上実験と同様にサボを使用した。

(2)ターゲット:  耐火煉瓦(G)を使用した。

【実験】
 フライトは平成10年6月18日から25日の間ダイヤモンドエアサービスのMU 300 機で行われた。すべての実験はサンプラー一式(ホーン、キャッチャー、プロジェクター)およびターゲットを真空容器に入れて行った(図 7)。真空排気は地上にてロータリーポンプにて行った後切り離し、離陸した。上空での実験時の真空度は約 70 Torr であった。発射後、キャッチャー部へ破片の入る様子をビデオカメラなどでモニターした。またつりがね型ホーンについては一部分内部が観察できるようにしてモニターした。フライト後、地上にてクレーターから出た破片総量とキャッチャーに入った破片を回収し、それぞれの重量を測定するとともにそれぞれのサイズ分布、さらにキャッチャーの破片収集率を調べた。また回転型キャッチャーについては回転、チューブ引き抜きなどの動作をビデオで確認した。

【結果】
 これらの実験で、以下の結果を得た。

(1)各ショットでターゲットの耐火煉瓦から放出された破片の質量はショットあたり、0.9 g から 2.2 g まであり平均は 1.63 g であった。またキャッチャーに捕獲された破片の質量は 0.008 g から 0.238 g にわたった(平均 0.098 g)。キャッチャーで捕獲された破片の収率を図8に示してある。図中 A 08, A 10 , A12, 13 , A 16, 17 は円錐型ホーンを使用したもので、このうち A 16, 17 は円錐二段型ホーンである。データ点は全体にばらつきが多いが、図に見るように地上実験での同じ真空度での実験より高いところに位置しており、無重力環境の効果が現われている。しかし、真空度の良い状態 ( 1 Torr ) で1G下で行ったデータより低い位置にある。なお、2段ホーンと1段ホーンとの場合の差はデータのばらつきの中に埋もれてしまっているようにみえる。

(2)収集されたサンプルのサイズ分布を測定した結果が図9の中に示されている。とくに折れ曲がりがなく、左上がりの傾向を示している。

(3)ビデオおよび高速度カメラでホーン、チューブ、キャッチャーの中を記録した結果、破片の運動の様子(破片の移動速度、破片群の発生と移動の時間、量の時間的変化)が把握できた。多くの破片は約数秒以内にキャっチャー部に入ることがわかった。

(4)ホーン形状の違いによる収率の差がはっきりと現われた。図8の中でA 07 と A 14, 15 がつりがね型ホーンを表わしている(ただし、 A 14, 15 はつりがね2段型)。つりがね型は1桁近く円錐形状のものより収集効率が悪い。つりがね型ホーンを縦に切ってホーンの内部での破片の挙動を記録したビデオ画像からも、つりがね型では、ホーン上端部で破片のキャッチャー側への輸送効率が落ちているのがはっきりと認められた。

(5)回転式キャッチャーおよび引き抜き部の機構が砂ぼこりのなかで正常に動作することを確認した。


INDEXへ戻る


4 考察と結論
 地上実験と航空機実験で得られた収率の比較、検討を図8および9によって行ってみる。
 まず収率に関して。航空機実験での結果は一部を除いて1 G 下1気圧でのテストの場合より高いところに位置しており、無重力環境の効果の現われであろうと考えられる。しかし、1G下での真空度の良い状態 ( 1 Torr ) のデータより低い位置にあり、航空機実験のデータ点は空気抵抗の影響を明らかに受けていることがわかる。したがって、無重力下、高真空下で実験が行えれば、地上高真空下の収率を上回る可能性がある。また地上での実験では衝突エネルギーの増加とともに破片の収率が増大し、当初の設計衝突速度 300 m / s のところでは約 40 % に達している。したがって、無重力下、高真空、衝突速度 300 m / s ではホーンの収率が少なくとも 40 % になることが期待できる。
 なおこの収率 40 %という値 は3ー2で述べた反射を調べた実験の時の値 30 % よりもやや高く、数値シミュレーションで得られた最高値と等しいことが注目される。
 次に回収された破片のサイズ分布について考察を行う。
 まず衝突速度 150 m / s のものについてみる。地上1G下では、大気圧では数 100 - 1000 μ m 以下のサイズ領域で大気による抵抗を受けているが、70 Torr では約 100 μ m 付近以下のサイズ領域で空気抵抗の影響によると思われる折れ曲がりが現われる。1Torr ではこの効果は見えていないが、さらに低いサイズ領域で空気抵抗の影響が現われるものと推測される。これらの様子は図6a, b について 3 - 4 節で例をあげて検討した傾向とほぼよく合っている。無重力状態では 70 Torr でも折れ曲がりが見えないが、 1 m /s もの非常に遅い破片が捕獲されている可能性が、図6 c から示唆される。また収率が 重力や真空度、また衝突速度とともに変化していく様子は上のパラグラフで述べた一般的傾向に対応している。
 またホーンに破片が集められる時間や、つりがね型ホーンが円錐型ホーンに比べて収率が落ちること、などの結果は数値シミュレーションで得た結果と傾向はよく合っていることが確かめられている。
 最後に複数箇所からのサンプリングに対応するための分別収集動作の機構が粉塵環境下で正常動作することが確かめられ、本研究で提案された収集装置が原理的な面のみでなく十分実用可能なものであることが実証された。


INDEXへ戻る


謝辞
 本研究を行うにあたり、 大橋敏次氏、筧幸次郎氏をはじめとするダイヤモンドエアサービス(株)の方々、日油技研工業(株)辻進三氏、宇宙科学研究所 霜田正隆氏 ほか多くの方々に御尽力頂いた。厚く御礼申し上げる次第である。


INDEXへ戻る


引用文献
1) MUSES-C 計画概要 宇宙科学研究所 (1996)
2) Kato, M., Iijima, Y., Arakawa, M., Okumura, M., Fujimura, A., Maeno, N., and Mizutani, H.
Icarus 113, 423 - 441 (1995)


INDEXへ戻る


5 本研究契約で発表した論文
高木周、藤原顕、安部正真  実験とシミュレーションによる衝突破片の反射現象の研究、日本惑星学会秋季講演会 1998年 10 月 13 日 - 15 日 神戸大学

高木周、藤原顕、安部正真 MUSES-C サンプラー設計のための衝突破片反射のシミュレーション  第20会太陽系科学シンポジウム 宇宙科学研究所 1998 pp..17 - 20.

安部正真、藤原顕、長谷川正直、小野瀬直美、島田孝典、森口和正、高木靖彦、三輪治代美 無重力環境下でのサンプラー実験 日本惑星学会秋期講演会 1998 年 10 月 13 日 - 15 日 神戸大学。


INDEXへ戻る