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2018.09.03
お知らせ「理事長の独り言 (第32号)」を掲載しました。

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スペースプレーンによる宇宙旅行の夢(第32回)  

平成30年9月3日

 

(なぜ、エベレストに登りたいのか)

 

19世紀から20世紀にかけて生きた英の登山家、ジョージ・マロリーは3度のエベレスト登頂に挑戦した。3回目の登頂の1924年6月、パートナーとともに頂上を目指したが、頂上付近で行方不明となった。時は下り、1999年5月1日、計らずも国際探索隊によって彼の遺体が頂上付近の北壁で発見された。うつぶせ状態だったという。彼への興味が尽きない理由の一つは、彼が世界初の登頂を果たしたか否か、未だに論議が続いていることである。さらに、彼を有名にした逸話が、「なぜ、あなたはエベレストに登りたいのか?」と問われて、「そこにエベレストがあるから」と答えたことである。日本では、「そこに山があるから」と意訳されている。

 

(なぜ、宇宙に行きたいのか)

 

では、人に「なぜ宇宙に行きたいのか」と問えば何と答えるのだろうか。「そこに宇宙があるから」という答えが返ってくるとは思えない。心奥深く冒険への願望があるだろう。そして、高いところからはるかかなたの地平線までの広い美しい世界を見たいという直感・本能があるからではないか。東京タワーやスカイツリーに登るのも、飛行機で地上を眺めるのも、いつも地上から"もの"を見ている視点を変えて、はるか高い位置から、地上に広がる世界を見たいからではないか。それが宇宙からとなると、中世に遡れば「神の眺望」とも言える視座を得ることになる。どれだけ興奮することだろう。今、そのような時代が近づきつつある。宇宙輸送技術の進展により、普通の人々が宇宙旅行をできるかもしれないのだ。

 

(スペースプレーンの開発)

 

1960年代の米国のアポロ計画では、人を月に送ることが目標とされ、69年7月にニール・アームストロング船長やバズ・オルドリン宇宙飛行士が人類初の月面着陸を達成した。この時同船長らは米国の威信と国益のために月面に降り立った。今でも宇宙に飛び立つことができるのは、特別の訓練を受けた宇宙飛行士にほぼ限られる。しかし、過去約60年間に渡る世界の宇宙開発利用の進展により、通信、放送、気象、測位などの分野の人工衛星の利用が、人類の生活の豊かさや便利さを確保するためになくてはならないものとなった。同様に、普通の人々でも気軽に宇宙に行ける機会が訪れようとしている。宇宙旅行の実現のためのスペースプレーンの開発が世界各国で精力的に進められつつあるからだ。

 

スペースプレーンは通常のロケットとは異なり翼をもち、普通の航空機のように、滑走路から離陸・上昇し、大気圏(地上約100km以下)を抜けて、一定の時間飛行し、大気圏に再突入、その後再び滑走路に着陸する。この大気圏外での一定の時間が、宇宙旅行の時間となる。弾道飛行では、この時間が数分~十数分程度となり、衛星軌道を往還する再使用型宇宙往還機では、時間単位から日単位となる。2011年7月に30年間に渡る運航が停止となったスペースシャトルは、打ち上げ時はロケットの背に乗って垂直に宇宙に飛び出したが、帰還時は航空機のように滑空した。形はスペースプレーンとほぼ同じである。

 

(米国はスペースプレーンの開発で先行)

 

スペースプレーン開発で先行しているのは米国だ。ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic(VG))(ジョージ・T・ホワイトサイズCEO)は7月26日に、同社が開発中の有人サブオービタル往還機「スペースシップ2(SpaceShipTwo(SS2))2号機による超音速、ロケット動力飛行試験がカリフォルニア州モハヴェ宇宙港を離着陸地として成功したと発表した。「VSSユニティ(Virgin Spaceship)Unity」と命名された同機にはパイロットが2名搭乗、高度約14.2kmで母機から分離後、ロケットモータを42秒間燃焼させ、マッハ2.4、高度約52kmを達成した。これはVSSユニティとして、最高高度の達成である。VG社は2014年10月、VSSエンタープライズが飛行試験中に空中分解し、副操縦士が死亡するという苦い事故を経験した。それだけに、今回の飛行試験を含め、この4か月間で3回の超音速・ロケット動力飛行が成功したのは、宇宙旅行実現に向けて重要な実績を積んだと言える。

  

                       VG社 SpaceShipTwo

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また、今月20日には、ストラトロンチ・システムズ社(ギャリー・ウェンツCEO兼社長)が、世界最大規模の空中発射式打ち上げ母機を利用し、2020年から4種類の空中発射打ち上げ機による定常サービスを提供する旨発表した。打ち上げ機の中には、物資輸送のため、既に35回の打ち上げに成功しているペガサス(Pegasus)や2種類の新中型打ち上げ機があるほか、はじめは荷物運搬、後に人の輸送にも利用する完全再使用型のスペースプレーンがあるという。シエラ・ネヴァダ・コーポレーションもアトラスⅤロケットに搭載されて打ち上げられ、帰還はスペースシャトルのように滑走路に着陸する有翼機ドリームチェイサーを開発中である。もともとは低軌道への有人宇宙機だったが、今は無人補給船としての運用を想定しているようだ。有人宇宙旅行を目的とした事業には、ブルーオリジン社もカプセル型の宇宙船ニューシェパードの開発で参入しようとしている。誰でも宇宙に行くことを手伝い、大幅に宇宙旅行を安くするのが目標とか。

 

(我が国のスペースプレーン開発状況)

 

我が国にもスペースプレーンの開発に取り組んでいる会社がある。2007年5月に創業したPDエアロスペース(代表者猪川修治)は、有人有翼機のペガサスを開発している。ペガサスは弾道飛行によって高度100kmの宇宙空間に到達する能力を持つという。ペガサスの離着陸空港は、民間機の離着陸訓練場だった鹿児島県の下地島空港が想定されている。ペガサスがユニークなのは、パルス・デトネーション・エンジンを用いる点であり、このエンジンだけで、高度15kmまでは空気を利用したジェット燃焼を、それ以上の高度では酸化剤を用いたロケット燃焼を行うことである。一つのエンジンだけで宇宙まで飛ぶ機体は世界中でどこも実現していない。同社では、全長5mの無人機を2020年にサービス開始し、その後全長14.8mの有人機を2023年末に運用開始することを目指している。出資者には、ANA、H.I.S、みずほ銀行などが含まれる。

  

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PDエアロスペース社 ペガサスイメージ図 

  

  

もう1社がSPACE WALKER(SW)(代表者大山よしたか)である。昨年12月に設立されたばかりであるが、日本初の有人宇宙飛行を目指している。具体的には、2027年からの運用を目指して、LNGロケットエンジンを搭載した再使用型有翼宇宙機による弾道飛行を計画している。乗員2名、乗客6名を乗せ、3~4分程度の無重力体験ができるようにするという。もちろん、有人飛行の前には、無人のサブオービタル飛行で実績を積むことにしており、2021年に少し小型の科学実験用有翼機の初飛行が予定され、2023年からは小型衛星投入の実用化が予定されている。この有翼宇宙機の開発は2005年以来の九州工業大学の有翼ロケットプロジェクトが源流となっている。大変意欲的な計画であり、JAXAやIHIなどのメーカとも連携する。JAXAによる協力は、これまでLNGエンジンや宇宙往還機HOPEの開発、スペースプレーンの研究の経験がある故であろう。SWへの協力は最近JAXAが始めた「宇宙イノベーションパートナーシップ」(J-SPARC)の第1号案件である。ただ、これら科学実験用や小型衛星投入用の宇宙有翼機の開発には相当規模の資金が必要とされることから、最大の課題は資金調達だと言われている。

 

(より多くの人々を宇宙旅行に)

 

世界におけるスペースプレーンの開発は、1950年以降20を下らないプロジェクトの数の歴史があるが、中止となったものも多い。それだけ、技術的にハードルが高いのであろう。上記の関係者にとっても、今後も苦難の道が続くのかもしれない。しかし、今や実験・実証が積み重ねられて実現の可能性が高まっているのも事実だ。しかも宇宙旅行ビジネスを視野に置いて、民間ベンチャー主導で進められている。人間の本能から来るニーズともいえる「宇宙から地球を観たい」という望みに応えるべく、是非成功してもらいたい。スペースプレーンの乗船者は、漆黒の大空間に浮かぶ宇宙船地球号を感動をもって観るだろう。そしてただ感動するだけでなく、人間、自然、生命、地球、人種、国境などの意味を深く考えることになるのではないか。それは地球の平和を求める人々を増やすことに繋がるだろう。それだけに、できるだけ多くの人々が宇宙旅行に参加できる機会があればと思う。比較が適当かどうかわからないが、運航開始から約28年、2003年11月に退役した超音速旅客機コンコルドが商業的には失敗だった理由の一つに、高額運賃で一度の乗客数が100名に限られていたことがある。宇宙旅行が、コンコルド乗客よりもさらに限られたいわばエグゼキュティブしか乗れないということにならなければよいがと思う。私も生きている間に乗れることを希望している。

 

(参考)

〇Wikipedia: ジョージ・マロリー、スペースプレーン、スペースシャトル、ドリームチェイサー、ニューシェパード、アポロ計画、PDエアロスペース、SPACE WALKER

○2018年7月26日付 Virgin Galactic News

http://www.virgingalactic.com/articles/Into-the-Mesosphere-at-Mach-2

○2018年7月26日付 Virgin Galactic Press FTP via image.net、Human

Spaceflight Vehicles Fact Sheet(pdf、338KB)

https://www.image.net/virgingalactic

○Virgin Galactic http://www.virgingalactic.com/

○2018年8月20日付 Stratolaunch Press Release

https://www.stratolaunch.com/2018/08/20/stratolaunch-announces-new-launch-vehicles/

○Stratolaunch Systems http://stratolaunchsystems.com/

○Sierra Nevada Corporation http://sncorp.com/

○Blue Origin http://blueorigin.com/

○JAXAプレスリリース

「新たな事業を共創する研究開発プログラム『宇宙イノベーションパートナーシップ

(J-SPARC)』の開始について(平成30年5月11日)

http://www.jaxa.jp/press/2018/05/20180511_jsparc_j.html

○JAXA新事業促進部 宇宙イノベーションパートナーシップJ-SPARC

http://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/

 

 

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