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2018.06.21
「理事長の独り言 (第31号)」を掲載しました。

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飛び立て!日本のNew Space!(第31回)

 

平成30年6月21日

 

(NEW SPACEの時代が到来)

 

4月以来、わがJSFはNew Spaceでとても忙しい。内閣府から「S-Booster 2018」と「平成30年度先進的な宇宙利用モデル実証プロジェクト」の2つの事業を、経済産業省からは「平成30年度衛星データ統合活用実証事業」を受託したからだ。いずれもいわゆる「New Space」を育成・支援しようという事業だ。既存の宇宙企業がOld(Established) Spaceと呼ばれるのに対し、新たに宇宙ビジネスに参入する企業をNew Spaceという。Old Spaceにはロッキードマーチン、ボーイング、三菱重工など大企業が多いが、New Spaceは企業規模は小さくても、簡素、低コスト、リスクテイク、イノベーション、民間資金活用などで特徴づけられる。世界の宇宙開発利用は、これまで「官」(政府)とその支援を受けた大企業が主役だったが、今や「民」の役割が重視される時代になり、世界の宇宙の主役は官から民への流れが加速し、「民」の中でもNew Spaceの活躍が目覚ましい時代になった。

 

(JSFの今年度NEW SPACE支援事業)

JSFが今取り組んでいる上記3事業は以下のような特徴がある。

 

1.S-Booster 2018は昨年度に続く2度目の事業で、宇宙を利用して新規ビジネスを生み出す、日本では珍しい賞金付きアイデアコンテストだ。6社の非宇宙民間企業の供託金が賞金の原資である。ベンチャー、個人、学生、非宇宙の異業者等、誰でも参加できる。28人のメンターがいてアドバイスを受け、アイデアを更に改善し、投資家からの資金調達を目指すものだ。原則3年以内の事業化が見込める「ビジネスプラン部門」、10年程度以内の実現を目指す「未来コンセプト部門」の2部門に分かれて応募してもらう。ビジネス部門の最優秀賞には1,000万円もの賞金が与えられる。このほかにも審査員特別賞200万円などがある。既に5月31日で募集を締め切った。

 

 <宇宙シンポジウムでの「先進的な宇宙利用モデル実証プロジェクト」

成果パネル展示の様子>

モデル_展示.jpg2.内閣府の「先進的な宇宙利用モデル実証プロジェクト」はJSFとして昨年度に続く仕事となった。この事業では、あらゆる宇宙ビジネスが対象である。昨年度は7事業が選ばれ、約1100万円/件の経費が提供された。「衛星データを利用したドローン自律航法管制プラットフォーム」や「GNSS(全球測位衛星システム)と地上データの融合による新たなスポーツ市場の開拓」などの事業の実証が試みられた。この事業は、衛星データや宇宙技術を利用したソリューションビジネスを実証するためのもので、それによって、国や地方自治体等の大口の潜在的エンドユーザーの顕在化・拡大を目指し、国内企業の衛星データ利用等の呼び水とする。今年度のプロジェクトとして、7件の採用が予定され、約1000万円/件の実証経費が支給される。6月15日で募集を締め切った。

 

3.経済産業省の「衛星データ統合活用実証事業」は、今年度が初年度で、衛星データとその他の地上データを組み合わせて活用することで、将来的なビジネスを見据えたアプリケーションの社会実装に資する開発・実証を進めるためのものである。2.の事業と類似性があるので、応募者は双方に応募することも可能だろう。この事業によって、民間企業等によるデータ・アプリケーションビジネスの創出を加速することを目指している。衛星データとしては、11月から実運用される準天頂衛星システムや内外の小型衛星などからの測位や地球観測のデータが想定される。8,000万円の事業を一件及び1,500万円の事業を4件ほど採用することを予定している。こちらも6月4日に募集を締め切った。

 

(NEW SPACE支援のための国の政策)

 

このような新宇宙ベンチャーの創造・育成に向けた事業が矢継ぎ早に打ち出されている背景には、強い政策的な理由がある。まず、昨年5月、宇宙政策委員会が「宇宙産業ビジョン2030」をまとめ、我が国宇宙産業を活性化し、宇宙産業全体の市場規模を現在の1.2兆円から2030年代早期の倍増を目指すとした。その主役が衛星データの利用促進など宇宙利用産業の拡大であり、宇宙ベンチャーには特に貢献してもらいたいとの期待がある。更にこの宇宙産業ビジョンを受けて、本年3月20日に開催された宇宙開発利用大賞の式典(JSFが運営支援)において、内閣総理大臣賞の表彰に登壇した安倍総理は「宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージ」を公表した。宇宙ベンチャーにとってはとても勇気づけられる政府・関係機関が一丸となった施策パッケージだ。

 

   <宇宙開発利用大賞 表彰式での安部総理のご挨拶の様子>

宇宙シンポ.jpgその中味は、「公的機関を含め官民合わせて、今後5年間に宇宙ビジネス向けに約1000億円のリスクマネー供給を可能とする」「JAXA/民間企業の専門人材を集約したプラットフォームを創設し、宇宙ベンチャーに人材と技術の両面から支援する」などで、かなり思い切った施策が並ぶ。宇宙ベンチャーが成功するためには、seedになる技術やサービスがなければならないが、それがビジネスとなるためには、スタートアップやその後の成長段階で、エンジェル、ベンチャーキャピタル、機関投資家等がリスクマネーを供給することが不可欠である。本当に1,000億円のリスクマネーが宇宙ベンチャー市場に供給されるかどうかである。そのため、大企業を巻き込むことも重要だろう。世界には大企業がベンチャーを買収した例は沢山ある。リスクマネー供給を支援するため、3月20日に、内閣府と経産省のイニシアティブで、新たなビジネスアイデアを持つ個人、起業家、ベンチャー企業などと投資家・事業会社とのマッチングを実現する場として、「S-Matching(宇宙ビジネス投資マッチング・プラットフォーム)」が創設された。当日の時点で、46社・個人の投資家・事業会社が入会したという。起業を考えている個人やベンチャーには目に見える支援だ。問題は、両者のマッチングが今後具体的にどの程度実現するかである。

 

  

(JAXAによる支援策)

 

JAXAもまた、上記の政府施策に貢献する事業を始めた。先月11日に、「J-SPARC(宇宙イノベーションパートナーシップ)」の開始を公表した。これは、事業化までをスコープに入れた民間事業者等とのパートナーシップ型の新しい研究開発プログラムである。宇宙ビジネスを目指す民間事業者等と共同で、事業コンセプトの検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新事業の創出を支援しようというものである。JAXAの蓄積した技術力、ノウハウ、専門人材等を活用して、共創によってベンチャーの起業を助ける事業だ。技術開発機関のJAXAが、宇宙ベンチャーのビジネス化のために自分の能力で貢献する事業とも言え、社会に新たな価値を生み出す活動で期待は大きい。

 

(我が国の先行宇宙ベンチャー)

 

以上のように、新たな宇宙ベンチャーの創出・育成・成功に向けて、官民を挙げた取組が進みつつある。一方で、我が国には既に先行している宇宙ベンチャーがある。小型衛星開発・画像販売のAXELSPACE(アクセルスペース)やキャノン電子、宇宙デブリ除去のASTROSCALE(アストロスケール)、月等の宇宙資源開発のiSPACE(アイスペース)、小型衛星用ロケット開発・打ち上げのインターステラテクノロジズ、人工流れ星のALE(エール)、最軽量の地球観測用小型レーダー衛星開発のQPS研究所などである。この中には既に一定額のリスクマネーの確保をしている企業があり、アイスペースは総額で100億円以上、アストロスケールも総額70億円以上の資金調達を成し遂げている。今や、宇宙スタートアップへの投資において、日本はアメリカに次ぐ2位に躍進しているという(大貫美鈴著「宇宙ビジネスの衝撃」p252から253)。

  

(競争の激しい世界市場で生き残るためには)

 

しかしながら、世界のNEW SPACEの競争は激しい。NEW SPACEと言われる企業は今でも1,000社を超え、10年後には10,000社に達するとの見方もある。アクセルスペースはこれから50機の小型観測衛星を打ち上げる計画だが、同社と同様の準リアルタイムの地球観測事業には、今や世界で100社以上が参入しているといわれ、例えば米のPlanet社は既に100機以上を打ち上げてビジネスを開始している。インターネット等の通信事業でも、米のOne Web社は2,000機以上、SpaceX社は4,000機以上の小型衛星を打ち上げ、グローバルな通信衛星コンステレーションを構築しようとしている。小型ロケット打ち上げビジネスでも、世界には50社以上がしのぎを削っている。先月、JSFのシニアマネジャーが北海道の関係者とニュージーランドのRocket Labの射場を訪問した。同社はすでに一度打ち上げに成功している。会合で先方の関係者は、世界で生き残れる小型ロケット打ち上げ会社は、せいぜい5社、場合によっては1.2社しか残らないのではないかと述べたようだ。我が国はNEW SPACE育成施策の強化に舵を切ったが、それでも世界の動きに比べると『出遅れ感』が否めない。追いつき、追い越すためには、スピードを上げねばならない。しかも提供できるサービスの中味が重要だ。官民協力の下、頭一つ飛び出ていると言われるほどに、我が国の強みやユニークさで差別化をアピールできるようなビジネスを創る必要がある。現場で毎日汗を流している方々ほど、そう感じておられるのではないだろうか。

 

(まずはTryすることだ!)

 

日本のNEW SPACEが世界に飛び立てるのか、心配がないと言えばうそになる。しかし、米国の作家Mark Twain(1835-1910)は次のような言葉を残している。

 

「成功する秘訣は始めることだ。始める秘訣は、複雑で圧倒されそうな自分の仕事を処理しやすい小さな仕事に分けてから、その最初の一つに取り掛かることだ。」

 

NEW SPACE関係者のご奮闘を期待したい。

 

 

(参考)

 
1. S-Booster2018 https://s-booster.jp/

2. 内閣府 平成30年度先進的な宇宙利用モデル実証プロジェクト 

http://www.uchuriyo.space/model/

3.経済産業省 平成30年度「衛星データ統合活用実証事業」

http://sat-data.space/

4.第3回宇宙開発利用大賞受賞事例集 内閣府

5.宇宙産業ビジョン2030 2017年5月29日 宇宙政策委員会

6.宇宙ベンチャー育成のための新たな支援パッケージ

   平成30年3月20日 内閣府、総務省、外務省、文部科学省、経済産業省

7.新たな事業を共創する研究開発プログラム『宇宙イノベーションパートナーシップ

  (J-SPARC)』の開始について(プレスリリース) 

平成30年5月11日 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

8.宇宙ビジネス投資マッチング・プラットフォーム(S=Matching)投資家・事業会社の初期メンバーの発表        3月20日 内閣府・経済産業省

9.「宇宙ビジネスの衝撃―21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ」大貫美鈴著

 

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