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2018.04.02
「理事長の独り言 (第30号)」を掲載しました。

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Y-ISEF---上を向いて歩こう!(第30回)                                                     

平成30年3月30日

  

(ISEF2とその成果)

  

去る3月3日(土)、約4年前のワシントンDCでの第1回に次いで、第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が東京で開催された。宇宙探査に関心を持つ世界各国等の閣僚級を含む政府の高いレベルの関係者やJAXA等の宇宙機関長など45の国・国際機関から約300名が参加した。宇宙探査は国際宇宙ステーション(ISS)の次のグローバル・プロジェクトになり、世界の宇宙開発の方向性に大きな影響を与えるので、会議の成り行きが大いに注目された。議論の成果は、共同声明、ISEF運営規約、国際宇宙探査に関する東京原則としてまとめられ、建設的なものになった。

  

これらの文書によって、宇宙探査は平和目的と人類への利益を優先して取り組むべきとされ、同時に国際協力によって取り組む意義が確認された。また、共通ビジョンと目標として、月・火星・その先の太陽系の探査活動が広く共有され、有人・無人の各活動を最大限活用した探査の実施が重要とも認識された。更に、学術界や民間との協力を進める重要性や、国際宇宙探査が宇宙の新市場や商業化の機会をもたらすことにも言及された。このような結果から見て、我が国はホスト国としてイニシアティブを発揮したと言ってよいだろう。今後の課題は具体論だ。世界はどんなスケジュールで、どんな探査活動を、どんな役割分担によって実施するのか。まずは月探査に向けて、月周回軌道にGatewayと言われる新宇宙ステーションを建設することからスタートするのだろうか。我が国は我が国が得意とする技術によって、宇宙探査に参加し、存在感のある役割を果たそうとしている。そのためには、我が国のできる(やりたい)ことを見極め、早い機会に米欧等関係国と宇宙探査の進め方について意見交換を重ねることが重要ではないか。また、並行して、2025年以降のISSの国際協力と官民協力の在り方も協議をする必要があるだろう。

  

(ISEF2のサイドイベント:Y-ISEF)

  

興味深いことに、今回のISEF2のサイドイベントとして、若手向けのISEF for Young Professionals(Y-ISEF)と産業界向けのISEF for Industry(I-ISEF)が開催された。前者は2月28日(水)及び3月1日(木)、後者は3月2日(金)である。筆者はY-ISEFに評価者及びキャリアメンターという立場で参加し、若者のエネルギーと意欲に触れ、とても良い経験をしたので、その様子や感想を報告したい。

  

まず、Y-ISEFには日本を含め25か国から79名の参加があり、海外からは約半分の38名の参加があった。ちょっと驚いたことに、ブータン、コスタリカ、イラク、南アフリカなど、地理的に遠い国、宇宙とはなじみの薄い国からの参加もあり、年齢層は18歳から35歳くらいまでである。彼らは学生や社会人で、宇宙関係の仕事についている者もいたが、多くが非宇宙の関係者である。女性も多かった。Y-ISEFの主たる目的は、内外の若手が集まって宇宙探査について活発な意見交換を行い、次世代を担う若手のキャリア形成やネットワーキング、宇宙に対する興味を喚起することである。そのため、彼らに課された議論のテーマは、「月、火星、小惑星における新事業やこれまでにない活動のアイデアを出すこと」であった。いわゆるアイデアソンの競争である。宇宙探査について如何に優れた(great)アイデアを創出するかの勝負だ。79名が10チームに分かれて競う。各チームによる議論は昨年の12月からオンラインを使って始まり、1月、2月とブレインストーミングをし、アイデアを絞り込んでいった。チームのメンバーが顔を合わせて議論したのは、2月28日と3月1日の2日間だけに限られた。しかし、28日の筑波宇宙センター訪問後の午後には、多くのチームが時間制限いっぱいの午後8時までの5時間をグループワークに使い切り、アイデアソン当日の1日も、成果発表の始まる午後3時半までの3時間を使って、ぎりぎりまでアイデアのブラッシュアップための議論がなされていたと聞く。アイデアソンメンターからのアドバイスも積極的に取り入れていたようだ。

  

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グループワークの様子

(Y-ISEFアイデアソンの結果)

  

3月1日の午後3時半からいよいよ10チームによる成果発表が始まった。評価者は筆者の他、藤崎元駐米大使、梅澤高明A.T.カーニー日本法人会長、青木節子慶応大教授、Kenneth Hodgkins国務省宇宙・先端技術部長の5人。評価基準は、①社会への高い影響のある価値、②ユニークで斬新なアイデア、③2020年以降の分かりやすい実施のロードマップ、④情熱とownershipの4つである。また、各チームに対しては、議論の進め方として、①何故それが必要か(問題の定義)、②それが解決できるとどんな価値が生み出されるか(如何なる価値)、③如何に実現するか(アプローチ)の3段階による取組を求めた。各チームからのプレゼンは5分、質疑応答は3分という、まさに分刻みで進められた。ここではすべてのチームのプレゼン内容を紹介できないが、第1位のY-ISEF賞はチーム5に、第2位の情熱賞はチーム10に、第3位のJAXA賞はチーム3に与えられた。これ以外にも3チームが各スポンサー賞の表彰を受けた。1位と2位は筆者も押したチームだったが、3位は筆者の評価では4位だった。

  

1位のチーム5は、「我々は宇宙で如何に持続的なたんぱく質の生産を可能とできるか」とのユニークな問題を設定し、その答えとして、FUNGIというキノコを利用したMYCOMEATによるたんぱく質を持続的に確保するとのアイデアを提案した。2050年ころまでのロードマップも示し、その頃には持続的な供給を目指すとした。この提案には、とても斬新でインパクトのある面白いアイデアだとの印象を強くした。このチーム5には、2日のI-ISEF及び3日のISEF2においてプレゼンの機会が与えられた。2位のチーム10は、「(宇宙探査で)より大きなより良い国際協力を成し遂げるための最初のステップは如何にあるべきか」との問題設定をした。答えとしては、月面の環境を利用して人類の生活可能な環境を確立することを目標に、月面の縦穴を利用し2段階の太陽光反射システム等を利用し生活環境の構築を目指すとのアイデアを出した。興味深い内容だったが、具体性のあるロードマップが足りなかった。3位のチーム3は、「通信や測位航行上の問題を減ずることにより、如何に宇宙ミッションの成功確率を上げるか」との問題設定をした。この解決策として、小規模衛星の配置及びレーザ通信による宇宙ネットワークの構築が鍵であるとし、それらは将来的に規模拡大が容易であり、リアルタイムの通信などが可能だと訴えた。国籍、専門、年齢、ジェンダー等背景の異なる多様な若者が昨年12月以来コミュニケーションを続け、最後は一堂に会し、集中的に議論し一つのアイデアに到達した努力に拍手を送りたい。

  

(Y-ISEFとグローバル人材育成)

  

Y-ISEF開催には若手に宇宙に興味を持ってもらい、自律的に次世代の宇宙コミュニティの形成に参画してもらいたいとの動機がある。従って、参加した若者の多くが将来宇宙ビジネスで重要な役割を果たすことが期待される。しかし、筆者はY-ISEFの参加者には、宇宙に限らず、国際社会の如何なる分野であれ、しっかりと役割を果して活躍できるような、いわゆる"グローバル人材"に成長してもらいたいと思う。今回のアイデアソンの過程で、内外の若者は対話と共同作業を繰り返し、チームとして目指す目的地にたどり着いた。チームは、小さいけれども一つの「国際社会」であり、異なる皆の意見をどう吸い上げてまとめるか、そして皆が納得できる結論を得るか、そのために各メンバーはどんな貢献ができるかを自問したことだろう。

  

Y-ISEFのような濃密な経験ではないが、筆者にも国際社会を強く意識した若いころの経験がある。大学院学生時代の1973年の夏、モスクワで開催された欧州ボート選手権に、日本代表団のマネジャー(漕手の世話役)として参加する機会があった。人生初めての海外体験だった。会場で、日本の漕手とともに、欧州数か国のボートのサイズや練習方法などを調べて回った時、当然その国の漕手や関係者と話をしながら、お互いの国の事情を伝え合う。しっかりとした対話が必要になった。しかし、我々は語学力の問題もあって、思うようには対話が進まない。消化不良のやりとりで、同じ「ボート仲間」という意識を共有できる段階にも達しなかった。一方、欧州各国の漕手は週末ごとの各地での国際レースで顔を合わせ、既に良き友人であった。彼我の格差にはショックを受けた。これを契機に「国際社会」の一員となるために、個人としてどうすべきか、国としてどうすべきかを考えるようになった。モスクワでの経験は、筆者にとって「国際社会」への窓となった。

  

Y-ISEFのアイデアソンを通じて経験したことは、参加した若者にとって間違いなく国際社会への窓、国際社会に入っていく重要な場になったはずである。この経験は必ず将来に生きてくるし、本人の世界を見る考え方や価値観を広げたと思う。日本の参加者は概して英語力にハンデキャップがあり、日本人がモデレーターを務めたチームも2チームしかなかったようだが、チーム内で経験した苦労や課題を教訓として今後に生かしてほしい。それができれば、今回の参加は十二分に意義のあったことになる。

  

(若者よ、上を向いて歩こう!)

  

アイデアソンの表彰式が終わって、参加した若者や関係者とともにレセプション会場のホテルに移動した。会場での若者は、皆事業をやり遂げたという晴れやかな表情をしていた。会話をした5,6人は、将来への自分の目標を持つ頼もしいマインドの持ち主だった。宴もたけなわとなった頃、ギターを持った日本の若者が舞台に上がった。すると次々に各国の若者が舞台に登っていく。30名くらいには達しただろうか。「上を向いて歩こう」の合唱になった。その歌声を聴きながら、筆者は会場を後にした。この歌が選ばれたのは「将来への夢の実現のため頑張るぞ」という彼らの思いからだろうと直感した。加えて、彼らは心では、「宇宙に向かって飛び出そう」と歌っているのかもしれないとも想像した。無意識に、「彼らに『幸運』を!彼らに『成功』を!」と祈っていた。

  

掲載3.jpgJAXA筑波宇宙センターでの集合写真

   

  

(参考)

○The 2nd International Space Exploration Forum, Tokyo, Japan, 3 March, 2018

Joint Statement

○INTERNATIONAL SPACE EXPLORATION FORUM
Terms of Reference (3 March 2018)

○Tokyo Principles for International Space Exploration (3 March 2018)

○Discussing the future and the expansion of human's sphere,

ISEF2 Side Event Y-ISEF for Young Professionals -Progress of Group Work

Feb 27 2018

                                   (了)

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