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2018.02.26
お知らせ「理事長の独り言 (第29号)」を掲載しました

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小型ロケットの未来(第29回)

  

                           平成30年2月26日

   

(イプシロンロケット3号機とSS-520 5号機の打上げ成功)

  

イプシロン3号機.打ち上げjpg.jpg我が国の小型ロケットの未来を考える上で、重要な打ち上げがこのひと月くらいの間に2回行われた。一回目は1月18日にJAXAのイプシロンロケット3号機が打ち上げられ、無事に成功した。搭載されていたのは、重量570kgの高性能小型レーダ衛星(ASNARO-2)である。2回目は今月3日、JAXAがSS-520 5号機の打ち上げに成功した。重量約3kgの超小型衛星TRICOM-1Rが搭載されていた。いずれの打ち上げも鹿児島県の内之浦空間観測所から行われ、2つの衛星も予定の軌道に分離・投入された。これら2つのプロジェクトは、経済産業省と文部科学省の支援を受けた研究開発事業で、小型ロケットと小型衛星の国際市場への参入を目指したものである。

  

(搭載衛星も国際小型衛星市場進出を目指して開発)

  

まず、上記の小型衛星について少し触れたい。ASNAROは、国際競争力を持つとされる高性能小型地球観測衛星システムの研究開発プログラムである。ASNARO-1と2を開発することによって、日本のメーカーNECが新興国等において拡大する小型衛星市場参入、システム輸出及び衛星リモートセンシングサービス提供の実現を目指す。因みにASNARO-2には合成開口レーダが具備され、空間分解能1mという精度で地上を監視できる。合成開口レーダを持つ小型の商用地球観測衛星としては世界最高水準の性能を誇る。

  

TRICOM-1Rは東京大学が開発したもので、大きさが約12cm×約12cm×約35cmのごく小さな衛星で、地球を周回しながら、地上端末から送られるデータを収集し、衛星が管制局上空に来た時にコマンドにより地上局にデータを転送するミッション、搭載カメラのよる地球撮像ミッションなどを行う。同衛星には、SS-520 5号機と同様、我が国の民生部品・技術等を活用した価格競争力のある部品等が使用され、宇宙での実証を通じて、国際市場への進出を目指している。今回の2つの衛星の軌道投入成功とその運用は、国際小型衛星市場参入に向けての確かな実績となったと言えるだろう。

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(我が国の小型ロケットの開発の現状と目標)

  

主題の我が国の小型ロケットについて概観してみる。イプシロンロケットは、ロケットの打ち上げが日常的になる時代の実現を目指した固体ロケットと言われる。組立・点検などの運用を効率化することにより、運用コストの低減を実現しようとしている。JAXAは打ち上げ作業をコンパクトにするため、先代のM-Vでは約80人の技術者が管制室につめていたのを、今や同じ仕事を8人に減らし対応している。また、今回の3号機は試験機1号機に比べ機体性能が更に改良された強化型で、打ち上げ能力が30%向上し、搭載可能な衛星サイズも拡大した。ロケット構造や電子機器の簡素化・軽量化も実現している。更に、将来を展望し、100kg以下の超小型衛星の打ち上げ需要へ対応するため、主衛星と数機の超小型衛星及び10cm角の衛星を同時に打ち上げられるシステムを開発中である。世界の小型衛星打ち上げ市場の動向を考えれば頷ける。

  

SS-520については昨年の1月15日に4号機が打ち上げられたが、打ち上げ後約20秒でテレメトリからのデータが途絶え、打ち上げは失敗した。JAXAは原因究明を行い、再発防止策を講じ、今回の5号機の打ち上げに漕ぎつけ、今度は無事に成功させた。将来につながる結果を出したと思う。このSS-520には、ロケットには新参入のキャノン電子が参画したが、更に IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行を含む4社で新会社「新世代小型ロケット開発企画」を昨年8月に設立し、小型ロケット開発を目指すこととなった。このほか我が国では、インターステラ・テクノロジーズも小型ロケットの開発に取り組んでおり、世界中の誰よりも小型で低価格のロケットを作ることを目標にしている。昨年7月30日、同社は観測ロケット「MOMO」の初号機の打ち上げ実験を実施した。しかしながら、打ち上げ66秒後、機体からのテレメトリが途絶し、緊急停止を行わざるを得なかった。当初の目的は果たせなかったが、一定の成果が得られたことを前向きにとらえている。

  

(小型ロケットの特徴を活かせる打ち上げ市場)

  

このような我が国小型ロケットは世界市場での勝負に勝てるだろうか。今、世界の衛星市場では何と言ってもメガ・コンステレーションの構築が話題だ。Space-X, Boeing、One-Webなどがそれぞれ数千機の衛星を地球軌道に展開してサービスをするという構想で競い合っている。すべて実現すれば、10年後には2万機を超える通信及び地球観測の小型衛星が宇宙を飛び回っているかもしれない。また、それだけの需要に応えられる打ち上げビジネスが構想されている。しかし、これだけ多くの衛星を打ち上げるとすれば、1回に数機や10数機単位で打ち上げていては間に合わないだろう。それこそ数十機から100機単位で打ち上げる必要があるのではないか。だとすれば、それは大型ロケットの役割になるだろう。やはり、大型ロケットで世界市場に食い込まなければならない。

  

小型ロケットは、特定の目的の限られた数の小型衛星を打ち上げる必要がある時、あるいは大型ロケットでの相乗りでは到達できない軌道に投入する必要がある場合に出番があるのではないか。地上の輸送システムで例えれば、大型ロケットによる打ち上げはバスの相乗りであり、小型ロケットはタクシーの役割を担う。小型ロケットは少々割高でも、小型衛星を希望の場所に届けることができる。メガ・コンステレーションの中で故障あるいは寿命の来た衛星の取り換え、単機あるいは数機程度で構成される教育、科学、地球観測、通信等を目的とする小型衛星の打ち上げの場合などに小型ロケットの出番がある。宇宙に熱心な新興国からもそのような需要が期待される。小型ロケットの特徴を活かすとともに、大型ロケットとの棲み分けを考慮すべきだ。市場では、やはり経済性と信頼性(性能を含む)が主要な競争力指標になるだろう。

  

(世界の小型衛星打ち上げビジネスは群雄割拠)

  

更に世界の小型衛星打ち上げビジネスには、宇宙先進国に多数の競争相手がいる。米の連邦航空管理局の年報「The Annual Compendium of Commercial Space Transportation: 2018」(2018年1月)によれば、今や世界で開発中の小型ロケットは、多くが概念段階とはいえ、約50種類にも及ぶとしている。最近の報道でも以下のような発表記事を目にした。

  

○米Vector Space Systems社は2月14日、開発中の超小型衛星打ち上げ用のベクターRロケット(低軌道へ50kg打ち上げ)を使用して、2019年から2023年までに5回の軌道打ち上げを予約する契約を英Open Cosmos社と締結。

○米Rocket Lab社は1月21日、ニュージーランドの射場から3機の超小型衛星を搭載したエレクトロン試験機2号機の打上げに成功。

○ESAは2月8日、将来型打ち上げ機準備プログラムの一環として、小型衛星打ち上げ用の小型ロケットのフィージビリティ・スタディ(FS)を欧州の5社(仏アリアングループ、独エアロスペース社、伊ELV社、ポルトガルのDeimos Engenharia社、スペインのPLD Space社)に発注。各社は独自に開発した小型ロケットについてFSを検討。

○中国は2月2日、長征2Dロケットで、地震電磁場観測衛星「CSES」及び小型衛星6機、計7機の同時打ち上げに成功。小型の6機はアルゼンチンの地球観測衛星2機、デンマーク及びESAの技術実証衛星各1機、中国の技術実証と地球観測の衛星2機。

○インド宇宙研究機関(ISRO)は、2017年6月23日、極軌道衛星打ち上げ用ロケット「PSLV-C38」により、印の地球観測衛星及び小型衛星30機、計31機の衛星の同時打ち上げに成功。小型衛星は、印1機、残り29基は海外14か国のもので、米10機、英5機、伊3機、その他欧州9か国、日本、中国が各1機。

  

(我が国小型ロケットの未来:世界の打ち上げ市場で存在感を示せるか?)

  

まさに、世界は小型衛星打ち上げ市場めがけて雪崩を打つかのごとく走り出している。小型衛星打ち上げを国内外の市場から受注し、ビジネスとして成り立ちつつあるのが目に見える。しかし、我が国のイプシロン・ロケットの打ち上げ頻度は今のところ2年に一回程度で、最新の宇宙基本計画工程表でも将来の運用がどうなるかははっきりしない。民間の小型ロケットについても、衛星打ち上げの将来需要をどう展望するのか、そして政府の一定の支援は必要だろうが、事業会社がリスクを負って需要を取りに行く強い覚悟が必要ではないだろうか。我が国は素晴らしいロケット技術を持ちながら、衛星打ち上げ市場への参入については、確たる将来像を描けず、他の宇宙先進国の民間や宇宙機関の活動に比べ、いつも半周遅れのような状態にある。これは、モデルを追いかけてきたやり方の名残なのかもしれない。手本がなくても、自分で道を切り開くという姿勢で、先んじて取り組むという気概がないかぎり、小型ロケットの世界市場参入も壁は高い。政府を含めJAXA, 関係企業等の奮闘を期待したい。

  

(参考)

1-1 JAXAプレスリリース 

イプシロンロケット3号機による高性能小型レーダ衛星(ASNARO-2)の打ち上げ結果について 2018年1月18日

 http://www.jaxa.jp/projects/rockets/epsilon/index_j.html

1-2 JAXA 第一宇宙技術部門 ロケットーイプシロン

   http://www.rocket.jaxa.jp/rocket/epsilon/

2-1 プレスリリース

SS-520 5号機による超小型衛星打ち上げの実証実験の結果について

    平成30年2月3日 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

2-2 経済産業省プレスリリース 小型ロケットSS-520 5号機の打上げに成功しました

   平成30年2月3日(土)

3  ファン!ファン!JAXA ASNARO-2 イプシロンロケット3号機特設サイト

   http://fanfun.jaxa.jp/countdown/epsilon3/asnaro2.html

4  平成29年8月9日 日本経済新聞

「ロケット開発、キヤノン電子など4社が新会社 」

5  INTERSTELLAR TECHNOLOGIES NEWS 2017/08/01

観測ロケット「MOMO」初号機打ち上げ実験の実施結果について

6  Vector Announces Five Orbital Launch Reservation With Open Cosmos.

Nanosatellite launch company and space mission provider announce launch agreement. NEWS PROVIDED BY Vector-àFeb 14, 2018, 10:00 ET

2018年2月14日付 Vector News via PR Newswire

https://www.prnewswire.com/news-releases/vector-announces-five-orbital-launch-reservation-with-open-cosmos-300598391.html?tc=eml_cleartime

7  2018年1月21日付 Rocket Lab Updates

https://www.rocketlabusa.com/news/updates/rocket-lab-successfully-reaches-orbit-and-deploys-payloads-january-21-2018/

8  2018年2月8日付 ESA Space Transportation News

http://www.esa.int/Our_Activities/Space_Transportation/ESA_explores_microlaunchers_for_small_satellites

9 中国、長征2Dロケットによる7機の衛星の同時打ち上げに成功

2018年2月2日付 NASASpaceflight.com

https://www.nasaspaceflight.com/2018/02/long-march-2d-zhangheng-1-earthquake-investigator/

2018年2月2日付 Spaceflight Now

https://spaceflightnow.com/2018/02/02/china-lofts-earthquake-research-craft-with-cluster-of-smaller-satellites/

10 印ISRO, PSLV-C38ロケットによる31機の衛星の同時打ち上げに成功

2017年6月23日付 ISRO News

http://www.isro.gov.in/launcher/pslv-c38-cartosat-2-series-satellite

2017年6月23日付 ISRO Updte

http://www.isro.gov.in/sites/default/files/flipping_book/PSLV-C38_Brochure/files/assets/common/downloads/PSLV-C38%20.pdf

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