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2018.01.05
お知らせ「理事長の独り言 (第28号)」を掲載しました

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【第28回】種子島の"龍"         

平成30年1月5日

 

(H―ⅡA37号機打ち上げの朝)

昨年12月23日の朝はほぼ快晴だった。ホテルから見る朝日は真っ赤に輝き、間もなく行われるH―ⅡA37号機の打ち上げに力を与えるような朝だと思えた。種子島宇宙センターに着いたのは、打ち上げ時刻午前10時26分22秒の1時間以上前の9時過ぎである。約23年前に種子島でH―Ⅱ2号機の打ち上げを見て以来の打ち上げだが、射場や周辺の風景はなじみがある。しかし、H―Ⅱ2号機の打ち上げでは衛星の軌道投入に失敗した。スクリーンで見た約14年前のH―ⅡA6号機の打ち上げは、直後に技術トラブルで指令破壊をせざるを得ない事態となった。苦い経験をしているので、自分が今回の打ち上げで、疫病神にならなければよいがと気にしたが、それは全く杞憂だった。

 

(種子島の"龍"、打ち上げ成功)

種子島の龍c.jpg打ち上げ5分前からカウントダウンが始まった。1秒1秒経過とともに、見学者を取り巻く雰囲気の緊張度が増していく。10秒前からは、祈るだけである。約5秒前にはH―ⅡAのメインエンジンが着火、0秒で2機の固体ロケットブースター(SRB―A)が猛然と火を噴く。そしてH―ⅡAは正視しづらいほどのまばゆいばかりの火の玉をまとい、大量の白煙を一気にまき散らしながら、徐々に上昇する。青空を背景に飛ぶ白とオレンジの機体を目で追いかけると、10秒足らずで日常からは想像すらできない爆音がとどろく。まさに周辺の空気をバリバリと切り裂く。ちょっと恐ろしくなるほどだ。ロケットの迫力、宇宙技術のすごさを実感する。H―ⅡAがSRB―Aを切り離す瞬間が肉眼で見えた。予定通りだ。その後はメインエンジンの火だけが遠ざかっていく。とうとうロケットは視界から消える。後には、H―ⅡAの軌跡かとも思える一筋の煙が地上からくねりながら天高く登る。それは、上昇する"龍"の形に見える。H―ⅡA37号機は、種子島の"龍"になり、打ち上げは成功した。

  

  

   

(搭載衛星は「しきさい」と「つばめ」)      

しきさいa.jpg"龍"が吐き出した2つの衛星、一つは気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)、もう一つは超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)が所定の軌道に投入された。

「しきさい」は、雲、エアロゾル、植生、地表・海面温度、積雪・海氷分布などを観測し、気候変動による地球環境変化の監視や温暖化予測の改善に貢献する。また、赤潮や黄砂といった生活環境の把握や漁業の効率化等に役立てられる。更に2015年に国連で採択されたSDGsの達成への寄与も期待される。かねて宇宙環境の観測業務にも取り組んでいるJSFとしても、このような"環境衛星"の機能や能力には注目している。「つばめ」は、超低高度(300kmより低い軌道)での飛行を可能にすることで、地上により近くなるため、光学画像の高分解能化、観測センサ送信電力の低減、衛星の製造・打ち上げコストの低減などが期待されている。更に、燃料使用効率の良いイオンエンジンの採用などが行われている。いずれの衛星も今後の運用で期待通りの成果を上げることが楽しみだ。

今回、H―ⅡAは、2基の衛星を異なる軌道高度に打ち上げるという新しい試みに成功し、打ち上げ需要により柔軟に対応できることになった。このことはH―ⅡAの国際競争力強化に寄与するだろう。

 

(画期的な打ち上げ回数の実現)

昨年の打ち上げに関し、メディアで目立った取り上げられ方はされていないようだが、我が国として画期的な成果が一つある。それは、昨年一年間にH―ⅡAが6回打ち上げられ、すべて成功したことである。一年間の打ち上げ回数の新記録を達成したものであり、我が国のロケット技術と打ち上げ技術が成熟し、高い信頼度のものになった証左である。

将来、本格的に世界の打ち上げ市場に出ていくためには、打ち上げ回数の確保や打ち上げ時期の柔軟性は重要な要素である。それなくして、国際競争力は持ちえない。その意味で、三菱重工とJAXAが、昨年1月のH―ⅡA32号機による「きらめき2号」の打ち上げから、今回の37号機まで、2か月前後の間隔で計6回の打ち上げをこなした実績は将来に期待が持てる。また、昨年11月に宇宙活動法が一部施行になり、我が国でもいよいよ民間打ち上げビジネス推進に向けて重要な前進をした。

 

(世界の打ち上げ市場の激化)

そうは言っても、世界の打ち上げ市場でしかるべき立場を確保するには、なお官民の協力による相当の努力が必要だろう。H―ⅡA37号機が打ち上げられた同じ日に、米スペースX社はファルコン9によって、米イリジウム社の次世代通信衛星群「イリジウムNEXT」10基の打ち上げを成功させ、中国では長征2Dロケットにより、リモートセンシング衛星「陸域資源探査衛星2号」の打ち上げを成功させた。世界においてロケット打ち上げは日常化し、宇宙先進国は市場でしのぎを削っている。

新型ロケット開発をみても、我が国がH3の開発を進めているのに対し、アリアンスペースはアリアン6を、米ULAはVulcanを、米Blue OriginはNew Glennをそれぞれ開発しており、この4機とも2020年までに初号機の打ち上げが計画されている。中国やロシアにも同様の新型ロケット開発の動きがある。ファルコン9の第一段の回収再利用はほぼ定常化している。競争はむしろ激化している。一歩先んじるということの重要性と難しさがよく分かる。我が国はこのような世界の打ち上げ市場の中で、"龍"のような存在感を示せるだろうか。

 

(国際宇宙探査と我が国の輸送技術)

もう一つ大きな課題がある。2018年は国際宇宙探査、有人月探査の元年とも言える年になるのではないかと思う。3月のISEF2で、我が国は国際宇宙探査の共通原則や国際協調体制づくりにイニシアティブを発揮したいと考えている。H―ⅡA,H―ⅡB,HTVを持ち、H3とHTV―Xを開発している我が国が、その技術や将来の発展型の技術で国際宇宙探査にどんな役割を果たせるのだろうか。ISSは1988年に参加国による国際協力協定が調印されてから29年が経過した。2024年までとしても36年にわたる長期プロジェクトである。国際宇宙探査も同様に長丁場になることは容易に想像される。我が国がどう貢献できるのか、国力が試される。

 

(参考)

○平成29年度ロケット打ち上げ計画書

 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)/超低高度衛星技術試験機

 「つばめ」(SLATS)/H-ⅡAロケット37号機(H-ⅡA・F37)

 平成29年10月 三菱重工業株式会社 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

○H-ⅡA37号機による気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)、超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の打ち上げ

 2017年12月23日 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)

○文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会(第39回)

 H29.12.6 資料39-1-1、資料39-1-2

 (了)

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