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2017.10.17
お知らせ「理事長の独り言 第26号」を掲載しました

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(第26回)米国は月へ、日本も月へ?

 

                           平成29年10月17日

 

(米国の国家宇宙会議)

第24回の独り言(平成29年5月11日)で国際宇宙探査を取り上げた。その中でも述べたが、有人探査はかねて月から火星に向かうというのが国際的にほぼ固まった流れとみられていた。この流れが最近の米国の動きで一段階前進したと言える。米国のトランプ政権は去る5日、ペンス副大統領が議長の国家宇宙会議を開催した。

 

同会議は米国の国家宇宙政策の最高助言機関だが、クリントン政権以降は開催されなかった。今回復活し、出席メンバーは国務長官、商務長官、運輸長官、大統領補佐官(国家安全保障担当)、国家情報長官、NASA長官代行、国防副長官等、基本的に閣僚クラスである。民間からも、ロッキードマーチン、ボーイング、オービタルATK、SpaceX等の米国を代表する宇宙企業のCEOが出席した。これだけの官民のメンバーが揃ったということだけでも会議の重要性が分かる。因みに今回の会議のタイトルは、"Leading the Next Frontier"であり、米国の宇宙への強い意欲が窺われる。

 

火星構想B.jpgこの会議でペンス副大統領は、「米国の宇宙飛行士を月に送り、旗を立てるだけでなく、火星やより遠くに行くために必要な土台を作る」(注1)と表明した。米国ではまだNASAの長官が就任していないし、国際宇宙探査で十分な政策論議が行われているとも思えなかったから、ペンス副大統領の発言には少し驚き、同時に感心もした。これには政治的背景もあるだろうが、これこそ米国のリーダーシップというものか。オバマ政権時代の米国は、月面有人探査計画は具体化していなかったから、トランプ政権の有人探査への意気込みが分かる。月への回帰は火星やそれより遠い深宇宙に人を送るための基盤を築くためだという。                                                         

 

月面有人探査の今後の問題は、今回議論が全くなかったと言われている予算や具体的な計画、さらには官民協力や国際協力への取組がどうなるかである。45日以内にそれらの計画がトランプ大統領に提出されるという。それは、我が国を含め、有人探査に関心を持つ関係国にとって注目すべき内容となるだろう。

 

 

(深宇宙探査に関する米露協力)

この国家宇宙会議の少し前、9月27日に興味深い動きがあった。NASAと露のロスコスモスが深宇宙探査・研究で共同声明に署名したのである。豪アデレードで開催中の第68回国際宇宙会議(IAC)の場においてである。当然NASAは10月5日の国家宇宙会議で何が起こるかを知った上で署名したと想像する。ISS(国際宇宙ステーション)も米露協力があって持続していると言えるが、月面有人探査でどのように米露協力が進むのか。まだ先のことは分からないが、米露が本格的に協力するとなると、将来の世界の民生宇宙の国際協力の方向性に大きな影響を与えるだろう。

 

この共同声明の署名に当たって、NASAは月近傍での有人探査を持続するための戦略的能力を構築するには、NASA,国際パートナー、そして米国企業から最善の能力を結集する必要があると考えたようだ。そして、実現可能で持続可能な探査の体系を可能とする深宇宙ゲートウェイ概念(注2)の検討を続けるためにも、ロスコスモスとの協力が必要だと判断した。この声明は、両者が共有する有人探査の共通ビジョンを反映したものである。実際にNASAは、既にゲートウェイ概念の研究に企業とともに取り組んでいる。また、ロスコスモスや他のISSのパートナーも同じことを行う準備を進めているという。日本もその一員だろうか?このような国際的な有人宇宙探査に関する動きをNASAは歓迎している。(注3)

 

 

(有人月探査での我が国の役割は?)

以上のような米露の動きから、次の宇宙のグローバルプロジェクトは、有人月探査に向かう可能性が一段と強くなったと思われる。その際には我が国は如何なる役割を果たせるだろうか?7月4日に文科省の宇宙開発利用部会が「国際宇宙探査の在り方(中間とりまとめ)~新たな国際協調体制に向けて~」(注4)を公表している。その中で、当面の方向性としては、国際宇宙探査への参画を念頭に、我が国が優位性を発揮できる技術や波及効果が大きく今後伸ばしていくべき技術(深宇宙補給技術、有人宇宙滞在技術、重力天体着陸技術、重力天体探査技術)の実証等を早期に進める必要があると指摘している。これらの個別技術は一体有人月探査でどのように役立つのか、イメージ図と解説でもないと一般国民には分かりづらい。今後の国際パートナーとの間での協議事項になるだろうが、有人月探査全体計画の中で、国民的な理解が得られるような我が国の立ち位置や役割を明確にしていく必要がある。

 

(ISSの経験と教訓を生かす)

また、中間とりまとめでは、ISSへの今後の取組の在り方にも触れているが、有人月探査計画との関係では、ISSの経験を最大限に活用し、同探査計画の効率的実施に貢献できるようにするべきだろう。特にゲートウェイは宇宙に浮かぶ大構築物になると予想される。その建設やそのための資材運搬、そして運営のために、人類にとってISSの経験は唯一と言ってもいい重要で貴重な経験であり、これを生かすべきことは必須である。NASAの発表(注3)においても、「ISSの参加国が現在2020年代に向けて、ゲートウェイ概念及び共通の探査目的、可能なミッションをどうするか検討している。その鍵となる要素は、将来の深宇宙探査ミッションが、ISSで可能となった技術の開発・実証及びその組み立てや操作から学んだ教訓を最大限に利用することである。」と指摘している。

 

(国際宇宙探査計画の具体化とISEF2)

深宇宙探査について、米露がまずは月探査指向を強め、特に米は今回の国家宇宙会議から45日間を経過する11月下旬にもより具体的な計画をトランプ大統領に提出する。そうなれば、国際宇宙探査は具体化が加速する可能性が高い。実際、米国の方針・計画が明確になるほど、我が国のようなパートナーの立場の国も自らの取組姿勢を明確にしやすいだろう。来年3月に我が国が主催するISEF2での議論にも少なからず影響が出てくるのではないか。上記NASA発表によれば、既にISS参加国間では、米国とともに共通の探査目的やミッション等について検討を重ねているようであり、ISEF2では我々が今考える以上に、国際宇宙探査の具体的な国際協調体制や活動内容が発信される可能性がある。

 

(日本人宇宙飛行士は月に降り立てるか?)

我が国はISS協力では、実験棟「きぼう」の建設・運用、資材補給機HTV(こうのとり)の開発・運用、日本人宇宙飛行士のISSでの活躍等で貢献している。国際宇宙探査でもこの実績を生かすという考え方だろう。宇宙探査が宇宙飛行士を月に送るということになれば、我が国の宇宙飛行士も月に送れるだろうか?もし、送ることができれば、それは我が国宇宙開発史上の歴史的な偉業になる。同時にそれ故にこそ、国民の興奮が今から予測できる。逆に、我が国の宇宙飛行士が月に降り立てないような計画では、今のISSと大差はない印象を受ける。ただ、何故、日本の宇宙飛行士が月に降り立つ必要があるのか、そこで一体どんな活動をするのか、その結果、人類と我が国に何をもたらすのか、等の疑問に答えられねばならない。これは月探査計画参加国に共通の課題でもある。今後、ISEF2を挟んで、我が国でも、国際パートナー間でも将来の国際宇宙探査の在り方について、検討と協議が一層具体化していくだろう。同探査が、世界にとって、挑戦、革新、平和、繁栄をもたらすものであってほしい。

 

(参考)

(注1) 2017年10月7日 朝日新聞朝刊「米の有人探査 月へ回帰」、

SPACENEWS:National Space Council calls for human return to the moon by Jeff Foust October 5, 2017

(注2) 深宇宙探査ゲートウェイ:

NASAが検討中の人の滞在が可能な月近傍中継拠点。電力・推進モジュール、居住モジュール、エアロック、ロボットアーム等の要をドッキングしてISSのような建築物を建設し、月を周回させる計画。NASAでは有人火星探査に向けたゲートウェイとしての活用を想定しているが、国際協力により月面探査等の多様な活用が可能としている。(以上、下記(注4)の「中間とりまとめ」のP4より抜粋)

(注3) 2017年9月27日付 NASA Feature " NASA, Roscosmos Sign Joint Statement on Researching, Exploring Deep Space"

(注4) 国際宇宙探査の在り方(中間とりまとめ)~新たな国際協調体制に向けて~

文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会 第36回 平成29年7月4日 

                               (了)

月面基地構想A.jpg月面基地構想(©JAXA)

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