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2017.07.31
お知らせ「理事長の独り言 第25号」を掲載しました

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【第25回】アワード型(賞金付き)の宇宙分野の人材養成と新ビジネスの創造

平成29年7月31日

  

  

(英国宇宙庁の賞金付きアイデア・コンテスト)

  

かねて若い世代の宇宙人材の養成に関心を持ってきたが、パリ革命の記念日にあたる去る7月14日に英国宇宙庁が興味深いプレス発表を行った。そのタイトルが、「未来の宇宙起業家が"龍の住まい"(Dragons' Den*)に入ってくる」というものだ。"龍の住まい"とは何か?"跳躍(飛躍)するコミュニティ"、というような意味ではないかと想像した。宇宙コミュニティはまさにそうだ。(*補足「Dragon's Den」は日本のTV番組「マネーの虎」の海外版のタイトル名)

  

このプレス発表は、SatelLife Challengeという名称の、11歳から22歳までの若者が参加したコンテストの結果を公表したもの。このコンテストは、科学、データ操作及び技術スキルの開発を支援するためのもので、年齢を3グループに分け、各年齢の最優秀者には5千ポンド、全体の総合優勝者には1万ポンドの賞金が付与された。彼ら参加者は人工衛星、宇宙データそしてそれらを日常生活に結びつける斬新なアイデアを競い合い、11名の未来の起業家が勝ち残った。

  

参加者には、審査員を出した宇宙関係企業から、製品のプロトタイプ製作のオファー、アマゾン・クラウド・サービスの数千ポンド価値の容量、データへのアクセス、事業開拓への助言、衛星工場への訪問などの支援が行われることになった。総合優勝は13歳のJames Pearson君で、家族の友人が洪水の被害を受けた後で、衛星が海岸の変化に対し何ができるかを調査しようというものだという。英国宇宙庁の担当者によれば、宇宙企業の専門家は、今回のコンテストに出されたアイデアの豊富さと高い水準に圧倒されたらしい。

  

  

(我が国の衛星設計コンテスト)

  

青少年向けの将来の衛星技術の開発に関するアイデアを募集する事業は我が国にもある。例えば、わがJSFが事務局を務めている衛星設計コンテストもその一つで今年25回目を迎えた。5学会を含む8団体による共催である。平成25年度にはその功績を評価されて、宇宙開発利用大賞で文部科学大臣賞を受賞した。このコンテストは賞金付きではないが、毎年質の高い応募が全国から寄せられ、若い世代の我が国宇宙人材の養成に非常に貢献している。詳しくは独り言第6回(平成27年11月19日)に書いたので、参考にしていただきたいが、大学院生から高校生までの世代を対象とする。設計の部、アイデアの部、ジュニアの部と分かれる。今年度は既に参加登録を締め切っており、最終審査会は11月4日に予定されている。衛星設計コンテストで受賞経験のある大学が実際に開発を手掛け、打ち上げた衛星も多数ある。例えば、東大の「PRISM」、信州大学の「ぎんれい」、大阪府立大学の「OPUSAT」、日本大学の「SPROUT」、九州工業大学の「鳳龍四号」、名古屋大学の「ChubuSat-2」、都立産業技術高等専門学校の「航空高専衛星KKS-1」などである。まさに、衛星設計コンテストは、若者による衛星開発の登竜門の役割を果たしていると自負している。

  

ひばりA.jpg第24回設計大賞受賞の東京工業大学の重力波天体探査衛星「ひばり」

  

  

(S-Booster2017)

  

最近注目したのは、新たな宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster2017」の創設である。この事業は去る5月29日に発表された宇宙政策委員会の「宇宙産業ビジョン2030」の中に位置付けられている。内閣府宇宙開発戦略推進事務局がJAXAやスポンサー企業とともに開催する事業で、(一財)宇宙システム開発利用推進機構(JSS)が事務局を務めている。ウェブサイトの応募テーマの説明によれば、宇宙のアセット(各種人工衛星《通信・地球観測・測位等》、有人宇宙活動、宇宙輸送等の宇宙技術やそこで獲得した衛星データや運用ノウハウ等、全てが対象)を利用したビジネスアイデアであれば、どのような提案でも応募可能とのこと。宇宙企業に限らず、ベンチャー企業、学生、個人、異業種のアイデアなどを幅広く募りたいとしている。7月18日に応募が締め切られ、書類による一次選考の後、メンターと呼ばれる専門家からアドバイス等を受け、最終選抜が10月30日に公開で行われる由。

  

このコンテストは日本では珍しい賞金付きである。大賞(一件)には300万円が授与され、スポンサー賞(4件)は100万円が与えられる。上記の英国宇宙庁のコンテストは「衛星のデータ利用方法」に、衛星設計コンテストは「衛星技術の開発」に焦点を当てたコンテストだが、S-Booster2017は「あらゆる宇宙技術、あらゆる宇宙データの利用」が対象である。賞金の魅力がどれだけの将来性ある、ユニークな、高水準の宇宙ビジネスのアイデアを誘導・発掘するか、とても興味があり、期待したい。因みに審査のポイントは、新宇宙事業としての実現性、収益性、革新性、発展性の4つだという。

  

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S-NET第5回分科会(沖縄)の様子 

(S-Booster2017S-NET事業の一環)             

 

  

(衛星データ活用の「社会モデル実証事業」)                                                          

  

また、「宇宙産業ビジョン2030」では、衛星データの利活用促進の観点から、衛星データを活用した「社会モデル実証事業」を実施するとの方針も示された。今般、JSFはこの内閣府宇宙開発戦略推進事務局の事業を支援することになった。実証に当たっては、潜在的な大口ユーザーである国や地方公共団体とも一体となり、業務上の衛星データ利用の今後の政府調達拡大に向けて取り組むこと、また、大きな潜在ニーズが期待される農林水産業、防災、インフラ維持管理、交通・物流、金融・保険等の分野における先進的な成功事例を生み出し、民間での衛星データ利用の呼び水とすることも期待されている。

  

実証事業であるから、実際に衛星データを作成・提供する企業や団体を募集しなければならないし、そのデータを行政や事業に利活用する地方公共団体、サービス企業なども巻き込まなくてはならない。チャレンジングな仕事だが、宇宙とその利用者を「つなぐ」という「架け橋」の役割を基本理念としているJSFにとってはやりがいのある仕事である。

  

(上記2事業は新宇宙ビジネス創造のための重要な一歩)

  

  

JSFでは平成26年度に外部から調査研究助成費を得て、米国政府による新興宇宙企業を支援する具体的な仕組みを調査する機会があった。調査の結果、米国の支援項目は5つに分類できることが分かり、それらは、①賞金付きコンテスト、②民間の初期段階の研究開発に対する政府の資金援助、③政府による開発支援・調達、④民間の宇宙活動に対する(を支える)法制、⑤政府のインフラ活用・技術支援、であった。

  

施策や措置の内容が十分か否かは議論のあるところだろうが、②③④⑤については日本政府も一定の実績を残してきたが、①はこれまでなかった施策だ。その意味でS-Booster2017がスポンサー企業を得て、賞金付きのコンテストになったことは、潜在的な起業家や新興企業をより本気にさせる効果があるのではないか。新宇宙ビジネスの振興・促進に向けて政府の取組の重要な一歩である。また、S-Booster2017がビジネスアイデアの募集事業であるのに対し、JSF担当の社会モデル実証事業は、衛星データの利用のビジネスアイデアの実現性を一段階進めた事業とも言える。従って、いずれ両者の接続が実現する可能性もある。

  

  

(国際競争力を増進していくために)

  

 冒頭の英国の例に限らず、現在世界は欧米を中心に、また新興国を含め、民間の能力を最大限に活用しつつ、宇宙分野の優秀な若い人材の育成及び宇宙産業の成長と拡大にしのぎを削っている。我が国のこれまでの取組はこれら世界の動きに比べ、必ずしも十分とは言えず、米国の例をも参考にこのような状況を着実に改善していく必要がある。

  

今回取り上げた衛星設計コンテストは賞金付きでなくても、我が国の若い宇宙人材の養成と衛星技術の発展に大きな貢献をしてきたことは誇ってよいことである。今後も継続し、共催者等と相談し一層中味を充実していきたい。また、スポンサー企業の協力が得られるならば、賞金付きにする可能性も追求したい。今回の宇宙産業ビジョン2030において、打ち出されたS-Booster2017や社会モデル実証事業は、厳しい国際競争下においても我が国宇宙産業が逞しく発展していくための"希望の芽"を育てる非常に重要な事業である。JSFも関係者の輪の中に入って、そのために最善の努力をしたい。

  

(参考)

1.宇宙産業ビジョン2030

   -第4次産業革命下の宇宙利用創造―   宇宙政策委員会 2017年5月29日

2.Space entrepreneurs of the future enter Dragons' Den

   UK Space Agency, 14 July 2017

3.  S-Booster2017 https://s-booster.jp/

4.  第25回衛星設計コンテスト:作品募集(パンフレット)

(了)

  

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