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2017.05.11
お知らせ「理事長の独り言 第24号」を掲載しました

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【第24回】国際宇宙探査にどう取り組むか

                            平成29年5月11日

 

(火星衛星サンプルリターンミッション(MMX))

 

MMXイメージ図B.jpg去る4月10日、JAXAはフランス国立宇宙研究センター(CNES)との間で、火星衛星サンプルリターンミッション(略称:MMX)の検討に関する実施取り決めを締結した。JAXAは、MMXの開発研究フェーズにおいて、CNESからMMXへの情報提供を期待する3項目、即ち、近赤外分光計(MacrOmega)、フライトダイナミクス、小型着陸機の搭載可能性について、共同検討をするという。

 

MMX(Martian Moons eXplorer)は火星本星を周回する衛星の探査ミッションである。火星はフォボスとダイモスという2つの衛星を持つ。MMXは打ち上げ後、約1年をかけて火星に到着、火星衛星を周回・観測し、フォボスからはサンプルを回収し地 球に戻ることが想定されている。現時点のJAXAの検討では、2024年打ち上げ、2025年火星周回軌道投入、2029年地球帰還となっている。我が国はすでに「はやぶさ」による小惑星イトカワからのサンプルリターンを実現し、現在は「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに向けて飛行中だ。この分野では世界に先駆けた独自の実績を有する。今回のCNESとの協力は、JAXAもより本格的な国際宇宙探査の時代を迎えることを示している。

 

(第2回国際宇宙探査フォーラム)

我が国が、基本姿勢として国際宇宙探査に積極的であることは、第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)を来年3月に東京で主催することを決定したことに表れている。第1回(ISEF1)は、米国が2014年1月にワシントンで開催した。その際は、35か国・地域・機関が参加したが、日本で開催の第2回では閣僚級を含む政府ハイレベルの関係者等60か国の500名ほどの参加が期待されている。それだけに、会議の成果が国際宇宙探査の方向性や各国間の協力枠組みのガイダンスになることが期待される。米国、ロシア、欧州など宇宙大国の動向が会議の議論に大きな影響を与えるだろうが、会議を主催する我が国は議論をまとめる責任がある。そのためにも、我が国自身がどういう考え方で国際宇宙探査に臨むのか、あらかじめ整理しておく必要がある。

 

(米国及び露、欧、中国の宇宙探査への取組)

今後の国際宇宙探査計画は無人でも有人でもそれが人類のための活動であるなら、国際協力によって進めることが当然だと思う。しかし、探査プロジェクトへの影響力や役割という点では国によって違いが出る。

ISSがそうであるように、有人探査は歴史的な実績や能力から言って、米国がリーダーシップを執ることになるだろう。オバマ政権時代の米国は、2030年代の火星周回軌道への有人飛行を目標として、2020年代前半に月南極域の水氷無人探査ミッションが計画された。しかし、月面有人探査計画は具体化していなかった。同政権下では有人探査に向けて、重量級ロケット(SLS)や多目的有人宇宙船(MPCV ORION)の開発が開始され、トランプ政権下でもこれらの開発は支持されている。ただ、トランプ政権下での正式な国際宇宙探査計画はまだ策定されていない。その中で先月の米国内での国際シンポジウムにおいて、NASAの有人探査運用局長は、有人火星探査をゴールに2026年までの10年間の主要ミッションを報告した。それによれば、フェーズ1ではSLSを6回打ち上げ、月近傍において深宇宙探査ゲートウェイ(宇宙飛行士の長期滞在も可能な拠点)を建設、フェーズ2ではSLSを4回打ち上げ、深宇宙探査輸送システムの完成及び同輸送システムによる深宇宙探査ゲートウェイから火星に向けた離脱、試運転の検証を行うという。このような宇宙探査シナリオが、トランプ政権下で正式なものになるかどうかは今の段階では不明だが、新政権下の米国の宇宙政策は"強い"政策になる可能性はある。

 

その理由は、米国の宇宙開発が、過去旧ソ連への対抗上、一貫して安全保障上の国力の強さを示すための戦略分野であり、トランプ大統領が繰り返す「米国を今一度偉大に!」のスローガンからも、また、ペンス副大統領が去る3月21日、「トランプ政権が国家宇宙会議を再設置することを期待する」と発言したことからも、宇宙での米国のプレゼンスの強化を目指すことはあってもその逆はないように思えるからである。このことが国際宇宙探査そして世界の協力にどう絡んで来るか、注視していくべきだと思う。

 

一方、ロシアも2030年までに有人月周回飛行及び月着陸を実施する計画を持つ。また、その準備として複数の無人月探査で欧州との協力を検討中である。欧州は、ロシアと無人月探査や無人火星探査で協力を進めつつあり、また、米国と協力してMPCVのサービスモジュールを開発中である。これに対し中国は独自の宇宙プログラムを推進中だ。2018年に世界初の月の裏側への着陸及び2023年頃の月南極への着陸を目指し、2025年以降には月有人探査及び月面基地建設を計画している。火星探査については、2020年に最初の探査機を打ち上げ、2050年には有人火星探査を目標にしている。中国は、国威発揚と安全保障の観点から、"宇宙強国"たらんとしているようだ(以上、各種報道等より)。

 

(我が国の宇宙探査計画)

では我が国は国際宇宙探査にどのように取り組むべきだろうか。平成27年1月にまとめられた宇宙基本計画には、「宇宙科学・探査及び有人宇宙活動」について、その意義や我が国の実績を強調しつつ、「宇宙分野における世界的な成果の創出や国際的な発言力の確保等を目指し取り組みを進める」とある。また、「国際有人宇宙探査」について、「他国の動向も十分に勘案の上、その方策や参加の在り方について、外交、産業基盤維持、産業競争力強化、科学技術等に与える効果と要する費用に関し、厳しい財政事情制約を踏まえつつ、厳格に評価を行ったうえで、慎重かつ総合的に検討を行う」とある。いかにも財政当局の筆が入った表現である。つまり、国際有人宇宙探査については、国際貢献を含めて意義が認められれば、あまり多くの予算を使わずにやれるならやってもよいという感じだ。

 

slimC.jpg文科省のISS・国際宇宙探査小委員会の第2次とりまとめ(平成27年7月)では、「ISSから月、火星へと段階的に進むステップ・バイ・ステップ・アプローチが適当であり、ISS計画を含む我が国の国際宇宙探査シナリオについては、現行予算を概ね超えない範囲で取り組む(下線部筆者)ことを目指す」とある。これが上記の宇宙基本計画への一つの答えなのだろう。関連して第2次取りまとめに、我が国の宇宙探査のシナリオとして考えられるのは、月と火星をそれぞれ無人探査から有人探査へと進めるとある。即ち、「当面はJAXAの小型月着陸実証機SLIMを進め、2019年目途に月面着陸を実施、2020年代初頭に月南極探査を目指すのが適当」としている。その後、単独でやるか国際協力で進めるかは今後の展開次第だという。また、火星探査のMMX計画は、我が国の優位性を生かした独自の取組として、他国との相補的な探査の成果を目指した有力な計画だと評価されている。

 

(国際有人宇宙探査の意義は?進め方は?)

無人宇宙探査は既に日米欧を中心に国際協力を含めて数多くの取組がなされ、太陽系惑星や地球圏を中心にその起源などの解明に貢献し、無人探査の意義や必要性は世界の多くの人々の間で積極的に理解されているように思う。

 

問題は有人宇宙探査だ。1998年から本格運用が始まったISSは、日、米、欧、露が協力して建設した。それは空気のない宇宙空間で長期間宇宙飛行士が住める大規模な閉鎖系施設を建設する技術の集積である。それ自体、人類史的な成果だろう。また各国の実験棟においては、搭乗宇宙飛行士によって、物資・材料、生命科学あるいは医学関係の多くの実験が行われている。その成果は地上での新材料や新薬の創製、人体機能の解明と病気の予防などに寄与し、また小型衛星の放出は衛星技術の向上や宇宙人材の育成に貢献する。さらには宇宙でのISS協力が地上の平和を繋ぐことに貢献するという国際政治上の意義もある。日米同盟強化の観点からも議論された。これらは日々、人々が目の当たりにし、認識もできる。

 

では有人宇宙探査はどう考えればよいだろうか。上記の第2次とりまとめではその意義を、外交安全保障、産業振興、科学技術イノベーションの3点から整理している。なるほどそうだと思うが、今後具体的に何を目的として、規模、期間、資金、国際協力、各国分担などがどうなるか、我が国の役割は何か、そしてそれらは各国の合意と国民的な理解が得られるかという大きな問題がある。

 

有人探査は月から火星へ向かうというのがほぼ固まった流れのように見える。人を月に送るにしても、一体そこで何をするのか。仮に月面基地を建設するとしても、そこでどんな活動をして、その成果が人類に何をもたらすのか、答えが用意されなければならない。ましてや、有人火星探査となれば、無人と異なるどんな大きな意義があるのか、往復で2年近い飛行時間は必要と言われ、宇宙飛行士の命のリスクがあり、膨大な資金(コスト)が使われるとしてもやり遂げるべき意義は何なのか、単に人類の活動領域の拡大や知的資産の創出を抽象的に言うだけでは説得力がない。また、月そして火星への有人探査となれば、新たな技術課題が目白押しに違いない。ISSそのものを2024年以降どう取り扱うべきかというのも同時に考慮すべき避けて通れない現実的課題だ。

 

(我が国の選択と役割)

今後の国際宇宙探査のシナリオ、必要資金、技術的課題、国際協力と役割分担などは、国際宇宙探査の協力枠組みに参加するすべての国にとって共通の課題である。関係各国による国際宇宙探査、とりわけ有人探査に向けた取組を進めるに当たっては、解決すべき困難で複雑な課題が山積している。その中で我が国の選択はどうあるべきだろうか。議論を深める必要がある。その際重要なことは、我が国が世界の宇宙コミュニティの中で果たしてきた役割や期待、位置づけを考慮すれば、ISSの経験、さらには無人探査における世界に誇れる実績を生かして、国際宇宙探査においてもしかるべき役割を担えるパートナーになるべきだろう。"国際国家"日本はそのような意気込みをもって、ISEF2に取り組んでもらいたい。そして、『国際宇宙探査にどう取り組むか』、ISEF2でよい成果が得られるよう、議長国として責任をもって議論を主導することを期待したい。

 

(参考)

1.プレスリリース 平成29年4月10日 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

 火星衛星サンプルリターンミッションの検討に関するフランス国立宇宙研究センター(CNES)との

 実施取り決めの締結、及び署名式の実施について

2.JAXA/ISAS MMFリーフレット 2016.7

 火星の月フォボスからのサンプルリターンに挑む火星衛星探査機「MMX」,

 What's MMX http://mmx.isas.jaxa.jp/index.html

3.宇宙基本計画 平成27年1月9日 宇宙戦略本部決定

4.国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会第2次とりまとめ

 平成27年7月 科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会

 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会    

 

(了)

 

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