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2017.01.26
お知らせ「理事長の独り言 第20号」を掲載しました

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【第20号】 宇宙と国民

 

                       平成29年1月26日

 

(市民による欧州のための宇宙討論会)

 昨年11月28日にESA(European Space Agency:欧州宇宙機関)が「市民による欧州のための宇宙討論会」として、興味深い発表をした。その概要は次の通りである。

 昨年9月10日に、約2000人の欧州の人々が「市民による欧州のための宇宙討論会」という世界で初めての会合に参加し、宇宙の未来を形成することに貢献した。討論会はESAが主催し、欧州の宇宙の未来戦略の開発と創造のために多くの意見やアイデアが集約された。参加した人々はESA加盟の22か国の多様な市民からなり、丸一日かけて宇宙の課題を議論した。

 具体的には、各加盟国の都市に約50名から120名の市民が集まり、科学、宇宙探査あるいは宇宙デブリの管理について議論を交わした。彼らは、市民として宇宙ビジョンを描き、宇宙活動の優先度を定義づけようとした。22か国の討論の結果を欧州レベルでの一つの報告にまとめるために、討論は同じ形式で同じ質問に答えるやり方がとられた。このような討論会は前例のない大規模なものである。討論会では、①宇宙と私、②宇宙探査と開発における欧州の役割、③宇宙のグローバル・ガバナンス、④宇宙へ行こう、⑤欧州のための宇宙の未来を準備する、の5つのセッションが設けられ、参加者はまずビデオ映像を見せられ、議論をし、各テーマについて標準的な質問に答えることが求められた。

 

(宇宙討論会の結果)

 この討論会に参加した92%が内容に満足し、95%がESAは同様のイベントを将来も実施すべきだと回答した。更に一部の主な結果を示すと、

○96%が宇宙は可能性と機会がある世界だと考えている。

○94%がESAに完全な、または高いレベルの信頼性を寄せている。

○84%が宇宙は汚染や潜在的に有害な人間の活動から保護されるべきだと考えている。

○84%がESAは宇宙プログラムや宇宙活動を伝統的な非宇宙アクター(NGO,モバイル機器やインターネット接続機器の新規サービス事業者、市民、芸術家、学校、大学)への開放を加速すべきだと考えている。

○69%がESAは安全保障を改善するための特定のプログラムを開発すべきだと考えているのに対し、16%がそのような開発はすべきでないと考えている。

○39%が政府は宇宙の天然資源を開発できるようにすべきだとしているのに対し、47%はそうすべきでないとしている。

○37%が民間セクターは宇宙資源を開発できるようにすべきだとしているのに対し、49%はそうすべきでないとしている。

 この討論会の結果をみると、ESAの宇宙プログラムは欧州の市民からよく理解され、支持されているのが分かる。また、大多数の市民がまたこのような討論会を開催してほしいと思っていることは、如何に人々が宇宙プログラムに関心があるかを表している。これもESAや加盟国がその宇宙活動の内容や成果を市民に向けてしっかりと発信しているからではないかと想像できる。逆にESAは宇宙活動に関する市民の考えや動向を把握することにより、自信を持って自分たちの戦略を決定できるだろう。

 

(ISSの成果は国際有人宇宙探査につながるか?)

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 翻って、日本の実情はどうだろうか。結論から言えば、日本国民は今の宇宙開発利用には良いイメージを持っていると思う。H-IIAの連続打ち上げ成功や日本の宇宙飛行士の国際宇宙ステーション(ISS)日本実験棟「きぼう」での活躍などから、日本の宇宙技術が世界の第一線にあると誇りを感じているに違いない。また、人工衛星は、通信、放送、測位(GPS)、気象観測などに不可分のものとなり、今や日常生活の完全な一部になっている。その意味でも、多くの国民が宇宙活動は重要だと支持していると思う。

 ではISSの次の国際協力プロジェクト候補と言われる国際有人宇宙探査、例えば火星への有人飛行について、国民はどう思っているのだろうか。この大規模な宇宙プロジェクトは日本一国でできないことは明らかで、実施するとしても国際協力への参加という形になるだろう。その場合でも我が国の宇宙コミュニティにとっては極めて重要な政策課題であり、国民にとっては支援する価値があるかどうかを判断する必要がある。その際には、先行するISSの意義や成果をどう総括できるのか、次がなぜ火星有人飛行等の国際有人宇宙探査になるのか、国民にしっかり説明し納得してもらう必要がある。ISSは少なくとも2024年まで続く。「きぼう」では多くの無重力実験が行われ、宇宙空間への超小型衛星も放出されている。しかし、国民から見て「きぼう」での活動内容や意義は必ずしもvisibilityが高いとは言えない。成果の発信が足りないからだ。今からでも定期的に成果を国民に発信し続ける取組が必要だ。deep_space.jpg

 一方、有人火星飛行等は米の新政権の政策が見えてこないと将来の実現性に説得力がないかもしれない。しかし、我が国は来年度中にも第2回国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)を主催する計画があり、そうなら我が国なりに考え得る将来構想をまとめておくべきである。それが国民の理解を得るための第一歩となる。世界状況の推移を見ながら、ISS後にどう向き合うのか、我が国の大きな課題だ。

 

 

 

(日本版宇宙市民討論会は可能か?)

qzss.png 宇宙開発利用は、科学、技術、環境、政治、安全保障、平和、国際協力等多様な目的、意義、側面を有する活動である。ISSもそうであり、国際有人宇宙探査もそうである。同様なことが多くの国家宇宙プロジェクトについても言える。準天頂衛星は6年後を目途に7機体制となる。地球観測を行うリモートセンシング衛星も今後10年ほどの間に相当数が打ち上げられる。科学衛星及び光学衛星とレーダ衛星からなる情報収集衛星も同様である。これからも我が国が新たな挑戦を含め宇宙活動を着実に拡大していくのなら、宇宙プロジェクトの目的や内容等について、国民からの理解、支持、信頼を得る努力が必要だ。これは国やJAXAが取り組まなければならないことだ。

 JAXAはかねてから、地方自治体等と協力して、年に10回くらい全国各地でタウン・ミーティングを開催している。そこでは、100名前後の市民が参加し、JAXAは自分たちのプロジェクトを紹介し、出席者との間では自由な意見交換が行われている。この集会は地域の人々にJAXAの活動を知ってもらい、同時にJAXAへの注文や期待を聞くためにとても良いものだ。課題は、出席者からの意見等を具体的に活用できているかどうかである。

 一方、今回のESAが開催した市民宇宙討論会の目的は、少し異なるようだ。同討論会は、欧州市民による欧州の宇宙未来戦略形成への貢献のために開催された。つまり、将来に向けての政策決定に関するpublic engagementの実行と言ってよい。我が国でも、宇宙政策にまで広げた国民との双方向の意見交換の場を国が関与して設けてはどうだろうか。例えば、宇宙飛行士にも協力してもらい、日本の実情を考慮した類似の試みを5年に一度くらいでよいから、全国を8ブロックに分けて順次実施するというのはどうだろうか。JAXAのタウン・ミーティングの経験も生かせるだろうし、国民に宇宙プログラムに対する理解を一段と深めてもらえる効果が期待できる。そして、ESAの場合のように、国民の中により強固な宇宙への関心と支持基盤が構築されるだろう。

 

 

(参考)

○ESA MINISTERIAL COUNCIL 2016、2016年11月28日

CITIZENS' SPACE DEBATE: THE MAIN FINDINGS AND THE FUTURE

http://www.esa.int/About_Us/Ministerial_Council_2016/Citizens_space_debate_the_main_findings_and_the_future

○ESA Citizens' debate on space for Europe 10 September 2016

http://www.citizensdebate.space/

 

 

 

【理事長の独り言 バックナンバー】

http://www.jsforum.or.jp/info/2016/hitorigoto.html

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