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2016.12.07
お知らせ「理事長の独り言 第18号」を掲載しました

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【第18号】 APRSAFの宇宙教育活動

                            平成28年12月7日

 

 

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先月15日から19日までマニラで開催された第23回APRSAF(独り言第17回参照)では、宇宙教育WGでJSFの宇宙教育活動についてプレゼンをする機会があった。今や様々な目的で宇宙空間を利用するのは先進国だけではない。新興国を含めると50か国以上の国が宇宙の利用を目指している。そのため、特に新興国を中心に今後の宇宙技術の開発や宇宙利用の推進を担う人材養成のニーズが増大し、若い世代への宇宙教育の重要性が増している。この機会にWGの報告と若干の問題提起をしたい。

  

 

 

(宇宙教育WGの活動)

宇宙教育WGは15日及び16日の2日間に亘って開催され、初日15日はまず「参加国の宇宙教育の状況報告」が各国の責任機関から行われた。バングラデシュ、インドネシア、日本(JAXA)、カザフスタン、マレーシア、ネパール、フィリピン、タイ、ベトナムの9か国である。

続いて、教育者や若者向けの共同活動として、既に12日に実施されていた第12回目の「水ロケット打ち上げイベント」の結果報告と次回に向けての議論、今回で第11回となった「ポスター・コンテスト」の準備状況と次回に向けての議論、8月にマレーシア及び2月にフィリピンで実施された「教師や教育者向けの宇宙教育セミナー」の報告、最後に今回初の実施となった本物の衛星を小さな缶に模擬した「CanSatコンテスト」の報告が行われた。私の出番は2日目16日の「他の宇宙教育活動」(Other matters)のセッションで、スピーカーは、順に墺、インドネシア(2名)、日本(JSF)、シンガポール、ネパール、フィリピン、タイ、台湾、英からで計10のプレゼンが行われた。その後には今回のポスター・コンテストの入賞者の選定などの結果報告と表彰式が行われ、最後に宇宙教育WGとしての勧告が取りまとめられ、2日間に亘る宇宙教育WGは無事に終了した。

 

 

(宇宙教育WGの活動成果と今後への期待)

今回のAPRSAFの最終日18日にとりまとめられた全体の「要約と勧告」の中で、宇宙教育についてはこれまでの取組全体について効果を上げている旨が確認され、水ロケット打ち上げ、ポスター・コンテスト及びCanSatコンテストについても子供たちの宇宙や科学技術への好奇心、創造性及び革新的思考を育成するうえで肯定的に評価された。そして、そういう子供たちの能力を涵養していくために、「宇宙」を題材に子供たちを鼓舞する教育を更に促進すべきであると勧告している。このような宇宙教育の今後の取組については今後もAPRSAF参加国間でよく情報交流をし、共同活動にも努力することが、日本とアジア太平洋諸国との宇宙協力の基盤を構築するうえで重要である。日本は積極的にリーダーシップを発揮することが求められよう。

 

(今後検討が期待される事項)

一方で、宇宙教育WGの活動が今のままでよいかについては、考えるところがあった。

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[大学生及び大学院生への取組]

第1には、宇宙教育WGが対象とする子供たちの問題である。今はいわゆる初等中等教育の年齢層が対象のようである。実際、今回の水ロケット打ち上げイベント参加者は13か国の12歳から16歳までの54人、ポスター・コンテスト参加者は「私の夢の惑星」(My Dream Planet)を題材に12か国の8歳から11歳までの34人、CanSatコンテスト参加者は5か国の14歳から18歳までの24人の生徒や学生だった。今後も、これらの活動を続けることは効果的だと思うが、18歳以上の大学生や大学院生に対する宇宙教育はすっぽりと抜けている。冒頭に述べた将来の人材養成を考えた時、それでよいのだろうかと思った。

WGでのプレゼンでも話したが、JSFは1993年から、9月12日の「宇宙の日」を記念して、小中学生向けに作文絵画コンテストを実施するとともに、JAXAや関係学会等との共催で、高校生、高等専門学校生、学生及び大学院生向けに「衛星設計コンテスト」を実施してきている。学生は衛星設計コンテストに参加することによって、衛星の技術、設計、運営等を深く学ぶことができる。今年は残念ながら最終審査には進めなかったが、台湾とフィリピンからも応募があった。この日本の衛星設計コンテストをAPRSAFの活動に位置付けて、各国から大学生以上の参加を幅広く求めてはどうだろうか。あるいは、大学や大学院の学生向けに衛星設計コンテストの開催を各国に慫慂し、各優勝者がAPRSAFの場に集い、「APR衛星設計コンテスト」(仮称)としてAPRチャンピオンを決定するというのはどうだろうか。既にアジア太平洋地域には衛星設計への興味、知識、能力を備えた学生がかなりの数いるはずである。また、このコンテストを実施するには、当然各国の大学や大学院、関係学会を広く取り込む必要があるだろう。

大学生や大学院生への宇宙教育となれば、大学や大学院での教育が最も重要である。宇宙科学や宇宙工学は、航空宇宙学科だけが教えているわけではない。天文学や地球物理学、機械工学、電気・電子工学、情報通信工学等、理学と工学の多くの学問分野に跨っている。そしてそういう学生の教育や活動に各国のSpace Agencyがどのように協力できるのか、というのも今や現実の課題である。その意味では例えば「宇宙の高等教育とSpace Agencyの役割」といった切り口での討議セッションがあってもよい。

宇宙教育は、宇宙開発利用に直接貢献できる人材養成の基礎基盤を作るとともに、将来より多くの国民が宇宙活動の意義を理解し、支援することを期待できるようにするためである。大学生や大学院生という若者への宇宙教育をどうするか、APFSAFの課題として検討してもらいたいと思う。

 

[Capacity Building(人材養成)との連携]

第2にはいわゆるCapacity Building(CB:人材養成)との関係である。私はプレゼンでJSFが取り組んでいるCBに関する活動を紹介した。JAXAとの契約の下で、宇宙企業と協力し、すでに40冊に及ぶテキストを作成したこと、ベトナム、トルコ、UAEの要請に応じてこれら諸国の若手専門家の教育に取り組んでいること、宇宙新興国での人材養成ニーズは増々高まってきているので、JSFはそれに協力する用意があることなどを述べた。同じセッションで、フィリピン大学の先生が小型衛星の開発や地上施設の運転を通じたCBの重要性について話をしていた。しかし、CBは宇宙教育WGが取り扱う主たるテーマではなく、宇宙技術WGのマンデートらしい。組織だった質の高いCBなくして、宇宙利用も宇宙技術も宇宙環境利用もその発展は望めない。そういう意味では、CBは4つのWGのテーマすべてに関連する。子供たちへの宇宙教育がベースになってCBに繋がるものである。CBの主たる担当が宇宙技術WGであるとしても、宇宙教育WGが宇宙技術WGと合同で会議をし、学校教育段階から社会に出た若手専門家までの教育・訓練の接続について議論することがあってもいいだろう。あるいは4WG全体で教育とCBを一体で議論するセッションがあってもいいように思う。

 

[科学技術リテラシーの育成]

第3は個人的な希望であるが、宇宙教育の前に、あるいは並行して科学技術教育をしっかり進める必要があるのではないかということである。宇宙科学技術を学び理解することは科学技術を学び理解することに通じるが、科学技術全体の普遍性の理解を代替するには至らない。科学技術の開発と発展が世界の平和や国の持続的発展、生活の質の向上への貢献など、プラスをもたらす一方で、逆に戦争の道具になったり、社会の格差を広げたり、環境を壊すという負の側面も持つ。宇宙科学技術も同様の側面がある。私のプレゼンでも言及したが、宇宙デブリはまさに宇宙の環境問題を惹起している。このまま手を打たなければ宇宙の安定的利用が脅かされる。先進国と新興国との利害対立が拡大していく可能性もある。科学技術や宇宙科学技術が社会とどのような関わりを持つのか、そういう科学技術の使われ方は良いのか悪いのか、悪ければどう防ぐのがよいのかなどを考えることも子供たちには勉強してもらいたい。中学生以上になれば、そのような科学技術リテラシーを少しずつ身に着けてもらいたい。そのことが、将来、科学技術や宇宙の利用によって健全な社会を実現するための大きな原動力になると思う。これは主に学校教育の課題であろうが、宇宙教育WGがそのようなことに貢献できるのであれば素晴らしいことだと思う。

 

 

【理事長の独り言 バックナンバー】

http://www.jsforum.or.jp/info/2016/hitorigoto.html

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