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2016.08.03
お知らせ「理事長の独り言 第16号」を掲載しました

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【第16号】 スペースデブリ(宇宙ごみ)対策-人工知能(AI)は使えるか?

     

                              平成28年8月3日

 

 昨年10月の「第5回独り言」でスペースデブリ(以下「デブリ」という)を取り上げた。また、去る6月のJSFだより第81号でも、「スペースデブリの世界」と題して特集を組んだ。「第5回独り言」でも紹介したが、JSFは日本では光学望遠鏡やレーダでデブリを観測している唯一の機関であり、この問題に強い関心を持っている。最近、デブリ除去技術に関して、若干の海外報道を目にしたので、その内容に触れた上で、実現性がどの程度あるかは分からないが、AIの利用の可能性について問題提起をしてみたい。

 

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(今後も増加し続けるデブリ)

 これからもデブリは確実に増えていきそうだ。しかも急激に増えるのではないかと思わせる報道があった。7月7日付でEuroconsultが公表したレポートによれば、2025年までに約3600機の小型衛星が打ち上げられる見通しだという。これにはSpace X社が計画中のコンステレーションは含まれていない。小企業の参入もあり、今後10年間の市場規模(衛星の製造と打ち上げの合計価格)は、過去10年間より76%も増加し、220億ドルに達するという。このことは、宇宙産業の発展のためにはよいことであるが、打ち上げられた衛星が大なり小なりデブリになることを考えると、安心してばかりはいられない。去る3月にJSFが事務局として支援した内閣府宇宙戦略室(現宇宙開発戦略推進事務局)主催の「宇宙空間の安定的利用の確保のための国際シンポジウム」に参加した米運輸省Nield商業宇宙輸送局長も次のような警告を発していた。「宇宙機がどんどん小規模になるにつれて、益々追跡が困難になりつつある。商業衛星は軌道上での寿命や処分について国際ガイドラインに従う義務がない。キューブサットは寿命が短く、信頼性にも限界があるので、多くはすぐに軌道上でデブリになってしまう。」

 「第5回独り言」でも述べたが、やはり世界が知恵を出して、デブリを増やさない、むしろ減らすための努力を加速するべきだと思う。これには、技術的措置だけでなく、難航している宇宙活動のための国際行動規範作りも含まれる。以下のとおり、世界にデブリ低減化に向けた動きが出てきているのはちょっと心強い。

 

(米国NASA等の動き)

 NASAが革新的なデブリ技術に対して研究補助金を出したようだ。6月6日及び7日の米Aerospace Corporation(AC)のプレスリリースによれば、同社はBrane Craft(BC)という概念に対する研究に、NASAの「革新的高度概念プログラム」から今後の9か月間の研究に10万ドルを得たという。BCの概念は、人間の髪の毛の半分よりも薄く、他に例のないほど軽く、操作が簡単で、しかも燃費効率も良い、1m四方の宇宙機だという。重量はわずか50gという。簡単に言えば風呂敷のようなものである。これで軌道上のデブリを包みこみ、大気圏内に落として除去するという技術だ。この技術の実現には多くの工学的なチャレンジが予想されている。もし、この初期段階の研究の成果に見込みがあれば、更に2年間追加で50万ドルが拠出される。「第5回独り言」で、私は一辺が100mから1000m位の投網衛星を打ち上げられないものかと述べたが、仮にそれが実現できるとしてもどうも相当先の話のようだ。

 

(欧州ESAの動き)

 同じくデブリ除去について欧州にも動きがある。ESAは7月8日にCLEAN SPACEイニシアティブの一環でもあるe.Deorbitミッションについて発表した。同ミッションはデブリとなった衛星(D衛星)を補足する衛星(H衛星)を打ち上げ、D衛星とランデブーしながら補足し、その後両衛星を大気圏に突入させ、燃え尽きるようにするものである。そうするのは、今後も軌道上での衛星等の衝突が続くことによってデブリの数は増え続けるので、長期的にデブリの数を安定化させる唯一の方法は、すべての大型デブリを除去することであるとの考えがあるからだ。e.Deorbitの計画が順調に進めば、2023年4月にH衛星を打ち上げ、低軌道上で遺棄された大型衛星を補足することになるという。補足方法は、網、もり、ロボットアームなどが研究されている。成功するためには、追跡するH衛星はターゲットとなるD衛星の動きに同調し、補足するために極めて高度な誘導、ナビゲーション、制御が必要とされる。また、H衛星は、高度な画像処理、光学カメラやレーダ等からの情報を統合してD衛星の動きを正確にかつ信頼度高く捕えられなければ、補足ができない。これはESAがこれまで試みたことがないチャレンジだという。

 

(日本の挑戦)

 ESAとは違う補足方法でデブリ除去を実現しようとしている日本企業が、シンガポールに本社を置く宇宙ベンチャーのアストロスケールだ。既にデブリ除去のための衛星開発に着手し、2018年前半にも同衛星の初号機の打ち上げを計画している。2020年までの事業開始を目指すという。H衛星は親機と子機からなり、ターゲットのD衛星に近づくと子機を放出し、子機は新規に開発した特別の粘着剤でD衛星を補足する。その後、子機と補足されたD衛星は大気圏に再突入し、燃え尽きる。H衛星の初号機は高さ1m、幅と奥行きが60cmだという。補足には上記のように高度の技術の組み合わせなど、いくつものチャレンジがあるものと予想されるが、アストロスケールには頑張ってもらいたい。

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 一方、JAXAもかねてから導電性テザーを用いたデブリ除去の技術開発に取り組んでいる。実用化された際には、数kmにもなるという導電性テザー(紐のようなもの)をH衛星から伸展させてD衛星に取り付け、大気圏に降下させていく。その原理の詳しい説明は省くが、テザーが地磁気を横切り地球を周回した際に誘導起電力が発生し、それによってテザーに電流が流れるとテザーにローレンツ力という推力が発生し、そのためD衛星が大気圏に落ちていくという方法だ。JAXAは来る10月1日に予定されているHTV6号機の打ち上げの機会を利用し、導電性テザー(700m)の主要技術の原理実証をする計画である。

 

(新たなAI時代への期待)

 ところでAIである。今年3月にAIの「アルファ碁」が世界トップレベルの韓国の棋士に4勝1敗で勝ったことは多くの方が知っているのではないかと思う。AIが棋士に勝てるのは、早くて10年後と言われてきたので、社会に大きな衝撃を与えた。アルファ碁はディープ・ラーニングという新しいAI技術が使われた。7月下旬にあった文部科学省科学技術・学術研究所の会合で、AI技術の新進気鋭の若手研究者の話を聞く機会があった。彼によれば、1950年代以降これまでAIブームは3度あったが、2013年からの第3次ブームが革命的なのは、ディープ・ラーニングの時代になったということだという。これこそAIの50年来のブレイクスル―なのだという。簡単に言うと(私の理解では)、AIが自ら現実世界の対象物を観察して特徴や差異を認識できるようになってきたということである。まさに、AIが自ら学んで状況を認識し判断できるようになりつつあるということで、人間が与えたモデル化した範囲内での認識や行動に留まるものではないのである。このAIの発展は、技術の在り方について本質的な問題を問いかけるものではあるが、今、第4次産業革命とも言われる時代になり、AIが人を支え人の役に立つ、社会の健全な発展に貢献する「知能」として活用されることへの期待は大きい。

 

(AI利用によるデブリ除去の可能性)

 アルファ碁で示されたディープ・ラーニングのAIの能力を衛星に活用できないものかと思う。今後AIの価格が合理的水準まで低下すれば、AIを衛星に搭載して、衛星に寿命が来たら、AIの指令によって衛星は自ら大気圏に突入するのである。突入するまで、他の衛星やデブリに衝突してはいけないから、そこはAIの認識能力を使って衝突を避けながら、大気圏に降下していくのである。そうなれば、寿命のきた衛星はデブリにならない。既に車の世界では互いに衝突を避けながら安全に自動運転できるAI技術が飛躍的な発展を見つつある。似たような「AI衛星」を開発・製造できないものかと思う。また、H衛星が必要な場合は、同衛星に搭載されたAIが衛星の自律性を高いレベルのものにし、地上から制御することなく、H衛星が自らターゲットのD衛星に接近し、その状態を正確に把握し、より確実に補足することができないものだろうか。衛星技術者とAI研究者の方々の共同作業でそのような可能性を探求していただけないものだろうか。

 

(参考)

・HIGHLIGHTS The Aerospace Corporation , June 06, 2016

・PRESS RELEASES 同上、June 07, 2016

・$22 Billion Market Value for Small Satellites over Next Ten Years, Euroconsult, July 07, 2016

・ESA SPACE ENGINEERING & TECHNOLOGY CLEAN SPACE, July 08, 2016

・日経ビジネス、産業革新機構の本領?宇宙のデブリを一掃せよ、2016年3月17日

・HTV搭載導電性テザー実証実験の検討状況について(資料12-5 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 宇宙開発利用部会(第12回)H25.9.4)

 

 

【理事長の独り言 バックナンバー】

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