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2016.07.05
お知らせ「理事長の独り言 第15号」を掲載しました

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【第15号】 最近の"宇宙雑感"二題

 

                           平成28年7月5日

 

1.X線天文衛星「ひとみ」

(事故原因究明と再発防止対策)

 第13回の独り言で「壊れてしまったASTRO-H『ひとみ』から何を学ぶのか」を掲載した。その答えが6月14日に文科省の宇宙開発利用部会の「X線天文衛星『ひとみ』の異常事象に関する小委員会報告書」としてまとまった。同報告書及び同じ14日に部会に提出されたJAXAの「X線天文衛星ASTRO-H『ひとみ』異常事象調査報告書」を読めば詳しい内容は分かるが、「ひとみ」の異常発生メカニズムが解明されるとともに、「ひとみ」が壊れた直接要因や背後要因が分析され、多くの不注意や不十分な対応があったことが  明らかになった。その上で、同様の事象の再発防止を期し、今後の衛星開発プロジェクトを確実に進めるため、内容の詳細は省くが以下の対策を講ずることが合理的だとされた。

① 宇宙科学研究所(ISAS)プロジェクトマネジメント体制の見直し

② ISASと請負企業との役割・責任分担の見直し

③ プロジェクト業務の文書化と品質記録の徹底

④ 審査や独立評価の運用の見直し

 事故や失敗には必ず技術的要因がある。それを解明することは第一に必要だ。同時にその要因をもたらした「仕事のやり方」や「体制の在り方」にもメスを入れなければ抜本的な対策にならない可能性が強い。第13回の独り言でもその趣旨を問題提起した。上記の4対策は結局すべてこれらに関わる措置である。ご苦労があっただろうが、JAXAが正面から、この問題に取り組んだことは大変良かった。

 

(国民に対する責任)

 実はこの「ひとみ」の問題が明らかになった時に、「異常事象」という用語が使われたことに若干の違和感をもった。「ひとみ」は、宇宙でバラバラになったわけだから、分裂、分解、解体などの用語に近い状態になった。「異常事象」であることに間違いはないが、それで国民が「ひとみ」に発生した実態を理解できるか疑問に思ったのである。言い方はきついが、「仕事のやり方」の不備によって、「ひとみ」は壊れたのである。このプロジェクトは国民の多額の税金によって実現したのであり、問題が発生した時こそ国民に分かりやすい率直で正直な物言いが大事ではないかと思う。それでこそ国民からコミュニティが信用されることになる。事故原因究明や再発防止対策について、ISASの小委員会への対応は客観的で正確であろうと努力したと聞いた。そのことは評価されるだろうし、そうならば、上記の報告書で指摘されたことは重要である。

 

(再発防止対策の確実な実行:プロジェクト・マネジメント体制の改革の実現)

 上記報告書の「まとめ」の中に、概ね次のような指摘がある。「今回の結果の責任を直視し、同様の事態の発生を防ぐため、高度化する科学要求を受けたシステムの大型化、複雑化への対応に当たって、プロジェクトの運用体制の改善を継続的に進める必要がある。科学衛星のミッション要求の最大化と安全要求のバランスをとる必要があることから、ISASはJAXAの他部門と一体となって4つの対策を取り込んだ全社的に革新的なプロジェクトの運用体制構築に取り組むことを強く望む。」

 今後はこの指摘の通り実行できるか否かが問われる。ある体制の中で、各当事者に役割分担があり、その下で長く続けられた仕事のやり方を変えるのは決して容易ではない。各当事者が相当の自覚と忍耐をもって取り組まなければ実現できないだろうし、今回はそのような取り組みがJAXAに期待されているのだと思う。

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2.再使用型ロケット

(H3は世界の打ち上げ市場で競争力を持てるか?)

 第14回の独り言のタイトルは「Space X社の挑戦――H3はどう対抗するのか?」であった。Space X社のFalcon 9ロケットが所定の衛星を打ち上げ後、一段目のブースターが大西洋上の無人船プラットフォームに垂直に着陸することに成功したことを取り上げた。しかも5月中に2回も成功し、会社創業者のイーロン・マスク氏は数年後には安定的に垂直着陸できるようになるだろうとの見通しを語った。これで打ち上げコストが大幅に下がることが予想される。日本が開発を始めたH3の初号機の打ち上げが2020年の予定である。果して、H3はFalcon 9のような再使用型ロケットに対抗して世界の打ち上げ市場に参入できるだろうかとの問題提起をしたのである。第14回では、新たな工夫を加味すべきなのかとの問いかけもして、これはH3を支援する良いアイデアがないか、というものであった。

 先般、三菱重工がH-IIAによるUAEの火星探査機の打ち上げ受注に成功したときには、同時にJAXAがUAEの宇宙機関との協力協定を結び、先方の宇宙開発に貢献することを約束した。そのような打ち上げに関連する諸活動に協力することを国やJAXAなどが積極的に支援することも結果的にH3の競争力向上へのバックアップになるだろう。

 

(再使用型ロケット開発の内外の動向)

 Falcon 9の一段ブースターの再使用が遠からず可能になりそうな状況下で、今後世界では再使用型のロケットが主流になるのだろうか?既に米Blue Origin社も昨年11月以来3回に渡り、再使用型ロケットのNew Shepardの垂直着陸に成功している。また、米ULA社は昨年4月に新型のVulcanロケット構想を発表し、一段目のロケットのエンジン部を回収・再使用する概念を検討中である。欧州のAirbus社も昨年6月にArian 6の後継として、Adelineを発表し、やはり一段エンジン部の回収・再使用の概念を検討している。民間企業が既にこのような再使用技術を検討しているからには、Space X社のように、実機への応用はそう遠くないかもしれない。第14回の独り言でも少し触れたが、我が国ではJAXA・ISASが過去10数年にわたって再使用型ロケットの研究を進めてきている。27年度までに再使用ロケット実験機による離着陸と再使用運用の実証実験などを実施した。JAXAは最新の世界動向を踏まえ、JAXA横断的な体制を作り、H3ロケット等の次の世代の宇宙輸送技術の確立をめざし、一段ブースターの再使用による低コスト化を検討中とのこと。つまり、JAXAも再使用は低コスト化に貢献するとの認識だ。そして、今年度以降は産業界も交えて、システムレベルでの技術知見の蓄積と新規技術の実証を行うための実験機の検討を進めるとしている。

 

(再使用型ロケットの開発をどう進めるか?)

 Space X社が2011年9月に再使用型Falcon 9のコンセプトを発表してから、昨年12月に再使用型のブースターの初の陸上での垂直着陸成功に成功するまでわずか約4年である。一民間企業がこれほど短い期間に実機の再使用型技術を実証したのには驚く。日本も再使用型に取り組んできているとはいえ、時間がかかりすぎているのではないかとの印象を持つ。H3は既に設計も進んでいるだろうし、常識的には今から一段目を再使用型にするのは困難だろう。しかし、打ち上げビジネスで海外が先行している以上、この問題にdefensiveなままでは展望が開けないのではと危惧する。日本が本気で再使用型ロケットの開発に取り組むというのなら、早く再使用型実験機の開発実証をする必要があり、その技術をH3の次世代ロケットに応用すべきである。あるいは、世界のトレンドがもっと速いなら、設計変更してでもH3から再使用型にしなければ、国際打ち上げ市場での競争力に追いつかないのではないか、というのは非現実的な杞憂だろうか?また、再使用型にこだわらない革新的概念のロケットや打ち上げ方式を開発し、格段の低コスト化を目指すという方法もあるかもしれない。国、JAXA、関係企業には熟慮していただきたい課題だ。

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(参考)

・X線天文衛星「ひとみ」の異常事象に関する小委員会報告書(平成28年6月14日、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会)

・X線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」異常事象調査報告書(平成28(2016)年6月14日、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

・再使用型宇宙輸送システムの研究開発取組状況(宇宙政策委員会基盤部会提出資料)(2016年5月19日、宇宙航空研究開発機構)

 

【理事長の独り言 バックナンバー】

【第1号】"中年の星"油井亀美也さん宇宙へ飛び立つ!

【第2号】夏の特別展「宇宙への挑戦」

【第3号】「こうのとり」が運ぶもの

【第4号】「宇宙の日」と有人宇宙飛行

【第5号】スペースデブリ(宇宙ごみ)をどうするか?

【第6号】衛星設計コンテスト

【第7号】国際宇宙ステーション(ISS)への参加の意義

【第8号】「あかつき」とノーベル賞

【第9号】全国小・中学生作文絵画コンテスト

【第10号】祝!H-IIA30号機打ち上げ成功-H3による国際商業打ち上げ市場への進出―

【第11号】ASTRO-H「ひとみ」で何が見えるのか?-ポール・ゴーギャンが問いかけるもの-

【第12号】これからの宇宙の新産業化推進

【第13号】壊れてしまったASTRO-H「ひとみ」から何を学ぶのか?

【第14号】Space(スペース)X社の挑戦-H3はどう対抗するのか?

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