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2016.06.01
お知らせ「理事長の独り言 第14号」を掲載しました

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【第14号】 Space(スペース)X社の挑戦-H3はどう対抗するのか?

 

                                平成28年6月1日

 

(Falcon9によるJCSAT-14打ち上げ成功)

 去る5月6日、SpaceX社はFalcon(ファルコン)9をフロリダ州ケープ・カナベラル空軍基地から打ち上げ、日本のスカパーJSAT株式会社の商業通信衛星JCSAT-14の軌道投入に成功した。同衛星は今後静止軌道に移動し、性能試験を経て、運用が開始される。衛星搭載のKuバンドは、日本及びアジア・太平洋地域を中心にカバーし、Cバンドはアジア、オセアニア、ロシアの可視範囲全域及び太平洋島嶼国をカバーする。

 

(もう一つの画期的な成功)

 この打ち上げにはもう一つの成功物語があり、その成功のほうがはるかに世界の関心と注目を集めたと言える。それは、打ち上げ後切り離されたFalcon9の第一段ブースターが見事に大西洋上の特別仕立ての無人船上に垂直に着陸したことだ。この画期的な着陸成功は、GPS衛星のナビゲーションや特別のエンジンの噴射などによって実現したという。無人船は、ケープ・カナベラルから東に約400kmの大西洋上に位置し、船のデッキはフットボール場の大きさだというから、着陸場所としては小さく、決して容易なことではない。愉快なことにこの船は“Of course I Still Love You”と命名されていた。第一段ブースターが無事に着陸したことで、この名前の由来が分かろうというものだ。

 この原稿を執筆中の5月27日、SpaceX社はFalcon9によりThaicomの商業通信衛星、THAICOM8の打ち上げに成功し、その際再び第一段ブースターを上記無人船に垂直着陸させる実験に成功した。筆者は外国通信社のニュースでこの着陸のビデオ映像を見た。1月に2回も成功するとはすごいというほかない。

 

(これまでの垂直着陸の試み)

 実は垂直着陸の最初の成功は、SPACEX社でなく、別の宇宙ベンチャーのブルー・オリジン社だ。同社は昨年11月24日、ニュー・シェパードという単段式ロケットで、高度100.5kmに到達した後、カプセルを分離し、その後エンジンに再点火し減速しながら垂直降下、無事に着陸施設に降り立った。ニュー・シェパードとしては2回目の飛行で初めて成功となった。ブルー・オリジン社は、今後も同ロケットの試験を繰り返し、2年以内に宇宙観光や宇宙実験をビジネスにしたいと考えているという。

 一方、Falcon9の第一段ブースターの地球への垂直着陸はこれで8回試みられ、先週の成功で計4回成功(1回は地上着陸)したことになる。技術的な難易度はFalcon9がニュー・シェパードよりも高い。それもあってか、Falcon9の2015年1月の最初の無人船への垂直着陸の試みでは“爆発”という結果に終わっている。海上着陸の初の成功は今年の4月8日で、Falcon9が国際宇宙ステーション(ISS)に向かうドラゴン供給船を打ち上げた時である。そのときは5月の2回とは異なり低軌道への打ち上げだった。従って、切り離されたブースターの海上への着陸速度は、4月に比べて5月のはかなり高速で、しかも機体の発熱も強く、着陸条件が厳しいため、SpaceX社では成功確率が50%くらいとみていた。それだけに5月の2回の成果は価値がある。SpaceX社では、今回の成功で、回収されたブースターは4機になったとみられ、このうちの1機について再検査等をして、早ければこの夏にも再使用する計画だという。

 

(Falcon9の国際競争力は飛躍的に高まるか?)

 これまでロケットの再使用と言えば、スペースシャトル型の有翼機しかイメージされてこなかった。実用化はされなかったが、ロシアもブランというスペースシャトルのコピーではないかと思えるような実験機までは製造した。我が国も1990年代初期に無人のHOPE計画があった。これに対し我が国でも、JAXA宇宙科学研究所を中心に、2000年前後から垂直着陸可能な再使用観測ロケットの開発への取り組みが進められているが、SpaceX社やブルー・オリジン社のように、使い捨てロケットの第一段ブースターを打ち上げ後に地球に戻し、垂直に着陸させた事例はほかにはない。常識的には無謀とも言える試みだが、まさにイノベーティブというしかない。マイクロソフト、アップル、グーグルなどITの世界に代表されるが、どうして米国の起業家、あるいは米国のベンチャー企業は、いつもこのように従来の発想を飛び越えるのだろうかと驚く。

 言うまでもなく垂直着陸の発想は、Falcon9等の第一段を何度か再使用することによって、打ち上げコストの飛躍的な低減化を実現しようというものだ。SpaceX社の創業者のイーロン・マスク氏は4月18日の記者会見で、「垂直着陸をスムーズに効率的に実施するにはまだ数年はかかるだろう。しかし、それが可能であることはすでに実証されている」と自信をみせた。

 2014年の世界での商業打ち上げ数は23回であったが、そのうちSpaceX社のFalcon9は6回を占めた。2015年は7回である。過去5年ほどの毎年の世界の商業打ち上げ回数は20回程度であるが、Falcon9は着実に打ち上げ回数を増やしてきた。この背景には米国政府によるSpaceX社のロケットに対する開発支援や調達がある。本稿では詳しく論じないが、米国の商業宇宙部門を推進するため、COTS、CRS、CCPというNASAの財政支援プログラムがあり、これらが原動力になってSpaceX社が躍進した。今後、Falcon9の第一段ブースターの垂直着陸が安定的に実施され、再使用が普通になれば、SpaceX社の市場競争力は格段に高まるのではないか。

 

(H3ロケットの新規開発)

 これに対し我が国は2014年度から、大型液体燃料ロケットとしてはH-Ⅱ以来の新規開発となるH3ロケットの開発に取り組んでいる。宇宙開発における我が国の自立性を確保し、商業打ち上げ市場での国際競争力を向上するためだ。日本では初めて、機体の設計・開発段階から民間企業(三菱重工)が主体的役割を果たす。総開発費は1900億円と巨額だが、ロケットシステム全体を極力モジュール化、第一段に新規エンジンの採用、部品点数の削減、民生部品の利用、年間打ち上げ回数の増加等による更なるコスト削減により、打ち上げ費用をH-ⅡAの半額の約50億円を目指すという。そしてH3ロケットの最初の打ち上げは2020年度が予定されている。しかしマスク氏の発言どおりとなれば、その頃にはFalcon9の第一段ブースターの再使用が当たり前になっている可能性がある。

 

(H3ロケットでどう対抗するのか)

 我が国のロケットはH-ⅡAにより、世界最高水準の信頼性を実現した。他国の衛星打ち上げ受注も出てきている。関係者の努力は大いに評価される。液体燃料ロケットの性能や経済性についてもN-Ⅰ、N-Ⅱ、H-Ⅰ、H-Ⅱ、H-ⅡA、H-ⅡBと着実な開発努力を積み重ね、今回のH3についてもこれまでの経験と技術蓄積に基づいてコスト削減を実現しようとしている。世界も取り組んできたいわば最もオーソドックスで確実な方法なのだと思う。しかし、Falcon9ブースターの垂直着陸、そしてその再使用はコスト削減方法としては、従来の常識を超えたやり方である。国際打ち上げ市場で、H3はFalcon9に対抗できるだろうか?

 過去のロケット開発では、日本が進歩すると、米、欧、露等ロケット先進国は更に先を行き、「逃げ水」を見るかのように市場競争力で追いつかないという歴史を繰り返してきた。Falcon9の動きは、既に新規ロケット開発に取り組んでいる欧米露等各国やその関係企業も注目し、間違いなく対抗戦略を考えているだろう。我が国も今の計画通りにH3ロケットの開発を進めればそれで大丈夫なのか、それともそこに新たな工夫を加味すべきなのか、H3ロケットが市場投入された際に、“再使用型”Falcon9など他国の新規ロケットがまた更に先に進んでいた、ということにならないように願う。

 

(参考)

1.通信衛星JCSAT-14の打ち上げ成功に関するお知らせ(2016年5月6日 スカパーJSAT株式会社)

2.SPACEX、SKY Perfect JSAT Corporation,「JCSAT-14 Mission」

3.SPACENEWS,「SpaceX launches JCSat-14 and sticks another water landing」,May 6, 2016

4.SPACEFLIGHT NOW,「Falcon 9 succeeds in middle-of-the-night launch and landing」,May 6, 2016

5.Federal Aviation Administration,「Commercial Space Transportation 2014 Year in Review」

6.新しい宇宙活動を創出するための官民連携方策に関する調査研究(平成27年11月 一般財団法人 日本宇宙フォーラム)

7.SPACEX, THAICOM:THAICOM 8 Mission

8.米ブルー・オリジン、宇宙に達したロケットを垂直に着陸させることに成功(島崎真也 2015/11/25)

9.再使用ロケット実験 出典:フリー百科事典『ウィキペディア』

 

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【理事長の独り言 バックナンバー】

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【第3号】「こうのとり」が運ぶもの

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【第5号】スペースデブリ(宇宙ごみ)をどうするか?

【第6号】衛星設計コンテスト

【第7号】国際宇宙ステーション(ISS)への参加の意義

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【第11号】ASTRO-H「ひとみ」で何が見えるのか?-ポール・ゴーギャンが問いかけるもの-

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