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2016.02.18
お知らせ「理事長の独り言 第11号」を掲載しました

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【第11号】 ASTRO-H「ひとみ」で何が見えるのか?-ポール・ゴーギャンが問いかけるもの-

 

                                     平成28年2月18日

 

(X線を観測するASTRO-H「ひとみ」への期待)

昨17日にH-IIA30号機で打ち上げられたX線天文衛星ASTRO-Hには大きな期待がある。ASTRO-Hは打ち上げ後約14分でH-IIAから分離され、無事に予定の軌道に投入された。同衛星は全長約14m(観測時)、重さ2.7t,目標寿命3年で、上空約575kmを地球の赤道に対する軌道傾斜角31度の円軌道で回る浮かぶ天文台だ。同日夜、ASTRO-Hは「ひとみ」と命名された。観測するのは人が目にする普通の光ではなく、人には見えないX線とガンマ線なので、X線観測宇宙望遠鏡とも言える。

日本のX線天文学は1979年の「はくちょう」をはじめ2005年の「すざく」まで5機の衛星を打ち上げ、この分野の観測研究の成果において世界をリードしてきた。その実績から、「ひとみ」はJAXA、NASAをはじめ、国内外の大学・研究機関・メーカーの200名を超える研究者、技術者などが開発に参加した大規模な国際協力事業となった。同衛星は、過去の日本のX線天文衛星より30倍も測定精度が上がり、「すざく」より10~100倍も暗い星を見ることができる。人は青や赤の可視光は見えるが、星の世界を見るには人の目はあまり向いていない。宇宙に存在する90%以上の物質はX線でしか観測できないと言われているからだ。地球上とは違って、宇宙ではX線のほうがありふれた“光”と言える。それだけに、宇宙の新たな謎解きに「ひとみ」への期待が集まる。

 

(「ひとみ」の目的)

「ひとみ」の目的は2つあり、一つは宇宙の成り立ちを調べること、もう一つが極限状態での物理法則を検証・解明することだ。いずれも専門的で理解するのはとても難しい内容なのだが、前者では、銀河団の成長過程等を解明し、背後にある暗黒物質(ダーク・マター)や暗黒エネルギーの性質を推定する。また、銀河の中心にある巨大ブラックホールが銀河の進化に果たした役割を解明する。今の宇宙は分かっている部分が4%に過ぎず、残りは23%が暗黒物質、73%が暗黒エネルギーで、それらが何かはよく分かっておらず、これからの観測研究課題だという。

後者の目的では、中性子星やブラックホールの観測により、地上では実現し得ない超高温、超強重力、超強磁場、超高密度などに特有な物理現象を検知し、背後にある物理法則を検証・探究する。この「超」というスケールは我々の感覚では理解できないほどの大きな数字だろう。アインシュタインが一般相対性理論で予言した、ブラックホールの強い重力がどのように時空(時間と空間)を歪めるのかなども観測対象になるようだ。(以上、主にJAXAのプレスキット参照)。

(参考)「時空のゆがみ」に関連して、12日の朝、ビッグ・ニュースが飛び込んできた。米国のカリフォルニア工科大学やマサチューセッツ工科大学などのチームが米国にある巨大観測装置により、重力波を初めて直接観測したという。重力波というのは、ブラックホールのような巨大な質量の物体が運動したとき、時空の歪みが波となって光速で宇宙に伝わる現象をいう。重力波を確実に観測できれば、可視光、電波、X線で観測できなかった宇宙の初期状態などが観測できるという。重力波の観測がアインシュタインの最後の宿題だなどと聞くと、複雑な宇宙の真の姿を理解するには、一体どれだけの観測が必要になるのだろうかと想う。

 

(ハッブル宇宙望遠鏡)

専門家でない私が宇宙の天文台と聞いて直ぐに思い出すのは、ハッブル宇宙望遠鏡(以下「ハッブル」という)だ。ただ、ハッブルは、「ひとみ」と違ってX線ではなく可視光の波長を観測する望遠鏡だ。1990年にスペース・シャトルのディスカバリーで打ち上げられたハッブルは、地上約600kmの地球周回軌道に乗せられ、世界が注目する第一級の成果を上げてきた。ハッブルの成果には、シューメーカー・レヴィ第9彗星の木星への衝突の観測(1994年)があり、当時10個くらい連なった彗星が次から次へと木星に衝突していく様をTVで見て、宇宙では想像もできないことが起こると驚いた記憶がある。映像で見えるので頭では理解できたが、五感で納得するには難しいとてつもない規模の現象だった。地球で同じことが起こったら恐ろしい結果になるとの不安もよぎった。更にハッブルは、銀河系を取り巻くダークマターの存在を明らかにし、宇宙の膨張速度が加速しているという現在の宇宙モデルや多くの銀河の中心部にブラックホールがあるという理論を裏付ける観測結果も出した。これらすべてが、宇宙の解明のための特筆される成果だ。

 

(ポール・ゴーギャンの問いかけに迫る)

宇宙に打ち上げられる天文衛星や地上の望遠鏡の能力や精度が上がれば上がるほど、宇宙は遠く大きくなり、星や銀河が増え、宇宙の新発見とともに謎もまた増えてくるように思える。2007年にボストン美術館を訪れたことがある。そこで人だかりがあったコーナーに有名なポール・ゴーギャンの絵画「われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへいくのか」があった。その絵は人間の誕生から死までを描いており、想像していた以上に大きな絵だった。ゴーギャンは結局、「人間とは何か、それを創った宇宙とは何か」と問いかけているのである。誰もがしばし絵の前に立ち尽くして考える。時間にしろ、空間にしろ、質量にしろ、宇宙の壮大さに比べて、人間社会のそれは限りなく小さい。しかし、われわれはその小さな単位を地道に繋いでいる。宇宙を構成する極めて小さいがかけがえのない一部でもある。そういう我々が宇宙とは何かを解明しようというのは途方もないチャレンジだ。「ひとみ」だけで宇宙のすべてが分かるわけでないのは当然だが、ゴーギャンの問いかけへの答えを探るために日本が主役の重要な国際協力プロジェクトである。責任は重いので、ハッブル宇宙望遠鏡の成果を発展させ、未解明の宇宙の謎を解き、宇宙誕生や生命の根源に迫ってほしい。

 

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ASTRO-H「ひとみ」©JAXA

 

【理事長の独り言 バックナンバー】

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【第2号】夏の特別展「宇宙への挑戦」

【第3号】「こうのとり」が運ぶもの

【第4号】「宇宙の日」と有人宇宙飛行

【第5号】スペースデブリ(宇宙ごみ)をどうするか?

【第6号】衛星設計コンテスト

【第7号】国際宇宙ステーション(ISS)への参加の意義

【第8号】「あかつき」とノーベル賞

【第9号】全国小・中学生作文絵画コンテスト

【第10号】祝!H-IIA30号機打ち上げ成功-H3による国際商業打ち上げ市場への進出―

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