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2015.12.11
お知らせ「理事長の独り言 第7号」を掲載しました

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【第7号】 国際宇宙ステーション(ISS)への参加の意義

 

                             平成27年12月10日

 

(秋の行政事業レビュー)

いささか旧聞に属するが、先月11日から13日に政府による秋の行政事業レビューが行われた。各省庁のプロジェクトや施策が費用対効果に見合うものかを検証しようという試みだ。河野行政改革大臣は3日間ずっと出席されたようで、政府の力の入れ具合が分かる。結果は2016年度の予算に反映されるという。このレビューの中で国際宇宙ステーション(ISS)も取り上げられた。ISSは米国が中心になって建設されたが、今は露、欧州、加そして日本の15か国が参加、日本は独自の実験棟「きぼう」、補給機「こうのとり」の運用など、年間の経費が約400億円に上る。そのため、これだけの投資に見合うどんなリターンがあるのかが、レビューの眼目であった。 

 

(行政事業レビューのまとめ)

このレビューの終了時のとりあえずのまとめは、「ISSは宇宙戦略全体の中での位置づけを明示し、期待される国益・利益、実際の成果とコスト、今後の課題を含め、厳格な評価を行い、国民に対して説明責任を果たしながら、より効果的で生産的な事業に改善していくマネジメント体制の確立が求められる」というものであった。このまとめは尤もだと思うが、ISSに限らず、評価一般に通じる「優等生」的なものである。 

 

ISSの意義・成果に関わる議論)

レビューされる側の文部科学省は、日本の投資は米国の約1/10だとし、ISS参加の主な意義5項目についてそれぞれ具体例を挙げて成果を説明した。①人類の活動領域・知的資産の拡大への貢献、②国際プレゼンスの発揮・向上、③宇宙環境の提供による科学的知見・成果の獲得、④宇宙環境の提供による科学技術・イノベーションの促進、産業・社会へのインパクト、⑤青少年の育成、である。これに対し評価委員の中からは、これらは定性的で抽象的過ぎないか、市場へのインパクトは何か、ISSの費用対効果をどうやって測るのか、基礎研究成果のように金額で測れないものと社会還元できる金額で測れるものをそれぞれ明確にすべきではないかなどの指摘があった。一方、ISSの目的は科学が中心ではなく、日本の国際貢献、発言力の確保、日米同盟の推進であるとの発言もあった。 

 

ISS計画の歴史的背景と政治的意義)

ISSへの参加の意義を考えるに当たって、ISSが構想された当時を振り返ってみた。ISSは当初、宇宙基地「フリーダム計画」として、1980年代のレーガン大統領時代に始まった。筆者は1985年夏から約4年間ワシントンDCの日本大使館の科学担当の書記官だった。ちょうどその頃、宇宙基地協力協定の交渉が佳境の時期で、日本と欧州から何度も交渉団がDCに集合した。協定がまとまって、国務省で12か国(当時)による署名式が行われたのが1988年9月である。当時、宇宙基地が構想されたのは、東西冷戦時代を背景に、対ソ戦略上の西側の政治的結束を宇宙において示すためのものであった。宇宙開発上の意義はもちろんあるが、日本や欧州の宇宙基地へ参加は米国との協力という強い政治的な動機が背景にある。しかし、旧ソ連が崩壊後、1998年にロシアが参加するに至り、宇宙基地はISSとなり、世界が協力する国際平和宇宙プロジェクトに転換した。

 

(国力としての宇宙、安全保障のための宇宙)

日本は戦後、米国との安全保障協力の下で、アジア初の民主主義国になり、アジア初の経済大国になり、アジア初の技術大国になり、そしてアジア初のG7国になり、世界の政治・経済の中で重要な役割を果たすべき立場になった。21世紀の世界は予想されたよりもずっと不安定な状態にあり、アジアと世界の平和発展のために、日米同盟の重要さもますます増大している。先端技術は国力そのものであり、安全保障を支える重要な基盤の一つでもある。宇宙技術も例外ではない。今や中国は宇宙大国である。毎月、数基の衛星を打ち上げ、世界で3番目の有人宇宙飛行を成し遂げた。遠からず、中国独自の宇宙ステーションも構築する計画だ。このような隣の大国を意識しなくてよいという選択はあり得ない。

 

ISSの建設自体に大きな意義と成果)

ISSはまた、人類が初めて宇宙に建設した最大規模の構築物で、各国が分担製造して組み立てたものだ。日本は最大の宇宙実験棟「きぼう」を提供した。宇宙空間に出っ張った物置台のような曝露部もあるユニークなものだ。ISSへの物資輸送のための「こうのとり」も開発し、そのための専用ロケットH2Bも開発し、ISSプロジェクトでのプレゼンスを発揮した。これらは我が国の宇宙産業技術の発展にかけがえのない貢献をしている。更に、このような日本の実力と貢献は、ISS後の深宇宙探査国際プロジェクトでも重要な役割を担うことにつながるはずだ。日本も参加したISSの建設技術は、いずれ月面基地の建設や火星探査に向かう際に必要となる中継基地の建設などに必要不可欠となろう。まさにISSの建設自体が、人類の宇宙での活動領域の拡大、即ち、より遠くのより広範囲の宇宙への有人飛行のための大きな成果だ。その一翼を担ったことは技術立国日本の誇りである。

 

(軌道上研究所としての機能)

ISSは米、欧、露、日のいわば“研究室”が合体した宇宙での研究所、軌道上研究所でもある。実験棟とは研究室なのである。そこでは参加国の宇宙飛行士が、無重力下でしかできない医学、ライフサイエンス、物質・材料等の研究をしている。研究成果は地上の新製品、新技術、新産業に発展する可能性を秘めている。日本の研究室「きぼう」では日本だけが実験しているのではない。ISSの大部分のインフラを提供した米国が約半分の実験研究を行う権利を持っている。「きぼう」での研究成果とは日米合わせたものであり、日本は米国の宇宙実験にも協力・貢献しているのである。また、「きぼう」では曝露部からブラックホールなどの宇宙探査ができるだけでなく、小型衛星の放出によって新技術による通信実験や地球の気象観測などの実証事業も行われている。また、これらの活動を通じて若い世代の人材育成の役割も担う。

 

ISS計画の2024年までの延長)

ISS計画は、その発端、経緯、現在、将来を考えれば、そこに政治的側面の重要性を考慮しないわけにはいかない。シリア、ウクライナあるいはトルコを巡って、欧米とロシアは対立関係にあるが、ISSについては互いに協力する意思が明確である。米提案に従って、ロシアは既にISS計画の現行2020年から2024年までの延長に合意した。加も同様だ。欧州も来年には合意すべく、準備を進めている。また、去る11月2日にJAXAが開催した地球観測衛星関係のシンポジウムで、来賓として出席されたケネディ駐日大使は、日本がISSの2024年までの延長に参加することを期待すると述べた。日本政府は米政府との合意後決定するとの方針と聞く。ISSへの参加の費用対効果を科学、技術、産業、国民福祉等の各観点から国民に説明できなければならないが、定量的に説明できる部分には限りがある。ISSの意義とはすでに述べたように、国内的視点を超えて、世界的、人類史的なものだ。責任ある民主主義国家たる我が国は、その延長問題について早期に結論を出してもらいたいと思う。

 

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【理事長の独り言 バックナンバー】

【第1号】“中年の星”油井亀美也さん宇宙へ飛び立つ!

【第2号】夏の特別展「宇宙への挑戦」

【第3号】「こうのとり」が運ぶもの

【第4号】「宇宙の日」と有人宇宙飛行

【第5号】スペースデブリ(宇宙ごみ)をどうするか?

【第6号】衛星設計コンテスト

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