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29年度開催結果


2017年 作文の部
国立天文台長賞

『月との約束』
松江市立八雲中学校 1年生 石倉 要
 
 竹取物語をはじめ、月と人間の関係をえがいた物語は世界中にたくさんある。
 僕は、能楽の謡、仕舞、能管を学んでいるので、月の天人と地球の漁師が登場する演目「羽衣」には特別な思いがある。まず、この演目では、月の満ち欠けがおどろくべき方法で行われていることが説明されている。月宮殿といわれる月の都の宮殿で、十五人の白衣の天人と十五人の黒衣の天人が交代で舞うことで月の満ち欠けをさせている。つまり、満月は白衣の天人が十五人の舞によってかがやき、新月は、十五人の黒衣の天人によって黒い状態を保っているだ。
 ある日、この中の白衣の天人の一人が富士山のながめがとても美しく、砂浜と松林のコントラストがすばらしい三保の松原に舞い降り、羽衣を松にかけ、水浴びをした。通りかかった漁師白龍は、羽衣を見つけ、家宝にしようと羽衣を持ち帰ろうとした。白龍に気づいた天人は、何とか返してほしいとたのみ、命が絶えそうになりながら泣いた。かわいそうに思った白龍は、羽衣を返す代わりに天人の舞を見せてほしいと願う。しかし、羽衣を返せば天人は舞ってくれないのではないかと疑ってしまう。天人は「いや疑いは人間にあり。天にいつわりなきものを。」と人間のおろかさをさとし、白龍に反省させた。白龍は羽衣を返し、天人は舞った。天人は、三保の松原の美しさをたたえ、天が国土に豊かな実りを与えていること、平和な世を願うことを舞いながら伝え、羽衣をたなびかせながら天にのぼり、かすみにまぎれて消え失せた。
 この曲を初めて教わった時、『シテ(天人)の「いや疑いは人間にあり。天にいつわりなきものを。」という言葉を心に刻みなさい。』と先生が僕におっしゃった。最初はどういうことかよくわからなかったが、くり返し謡や仕舞、羽衣で演奏される曲「中の舞」の能管演奏の練習をしている内に、人間が宇宙で生きるための道しるべとなる言葉ではないかな、と思うようになった。「羽衣」で結んだ「天(月や宇宙)」との約束は、「人間は宇宙の中で誠実であり続けなければならない」という約束ではないかと思うようになった。
 月と地球の関係は、とても近く、とても強い。人々の生活の中でも月のパワーが意識されている。まず、思いうかんだのは、植物の種まきについてだ。満月と新月の日がいいと近所の人が言っているし、本でも読んだ。このことは、白と黒の十五人の天人の力が最大になり種のもつ力が発揮されるからだと思う。昔の人は、月のパワーを「天人」という具体的な姿で説明し、新月の時にも最大限の力が発揮されていることに気づいていたのだろう。魚の産卵にも月の満ち欠けが関係している。月の引力は、潮の満ち引きだけでなく、魚の本能も揺さぶっている。アニメの中にも、黒い月と白い月を意識した作品もあり、とても興味深い。人間の本能の中に、月と共に生きることがプログラムされているように思う。
 ぼくは、「中の舞」の能管の演奏で、メリハリをつけることが大事だ、世阿弥のいう「序、破、急、」を意識しなさい、と先生に指導されている。僕のもっているパワーを曲の一くさりに吹き込む時、「序、破、急」の勢いは潮の満ち引きや月の満ち欠けとリンクしているような気がする。
 一般の人の宇宙探査や月への旅行は、科学技術の進歩により気楽なものになろうとしている。しかし、その中に、人間のひとりよがりな気持ちも見えかくれしているように思う。
 スペースデブリの問題もその一つだ。二〇〇九年の人工衛星同士の衝突は、事故やデブリが引き起こす事故についての問題提起をした。ただ宇宙探査や旅行の実績を積み重ねるだけでなく、スペースデブリを回収したり運用されなくなった衛星をきちんと回収するシステム構築したりすることが必要だ。こうした回収のシステムは、資源のリサイクルにもつながるし、宇宙での活動の安全性も高めることにつながるはずだ。
 ぼくは、宇宙探査や旅行の中で、宇宙のモラルや規律を守ることは、大切な宇宙との約束だと思う。これは、昔、月の天人と人間が交わした約束そのものだと思う。ぼくは、近い未来、月の能舞台で、「羽衣」を舞ってみたい。「羽衣」の舞は、つま先立ちで扇を持ちながら円を描く優雅な舞だが、地球の重力の六分の一しかない月では、月の地面をフィギュアスケートのようなジャンプとスピンを織り混ぜた舞になるのではないかと予想している。
 世界と宇宙の平和と繁栄を願う舞を舞いながら、月(宇宙)と人間が交わした約束を謡い、人間と宇宙の深い絆を再確認したい。そして、ぼく達の誠実な宇宙での取り組みが永く続くように、後輩達に月との約束をつなげていきたいと考えている。

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