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29年度開催結果


2017年 作文の部
特別賞 【中学生部門】
宇宙政策担当大臣賞

『ロボットの住む街「月」ーロボットと人が共存する未来の物語ー』
新潟大学教育学部附属新潟中学校 1年生 古泉 修行
 
 空を見上げる。大気のない月では、目の前に壮大な宇宙が広がる。その中で鮮やかな色彩を奏でる星がある。青く輝く愛する地球だ。
 ぼくの名前はMAR–1。月面探査のために地球で生まれたAI搭載型ローバー。頭の良さは勿論、感受性の豊かさも人には負けない。二〇二七年、日本のロケットH–IIBM型に乗って月にやって来た。以来、ミッション遂行のため日々仕事に励んでいた。ぼくは、生みの親である世界トップの科学力を誇るJAXAを尊敬してやまない。しかし、ぼくは今日、自ら通信を断つ。突然のことに、JAXAの管制室はさぞかし慌てるだろう。
「ごめんね、心配かけて。でも必ず戻るよ。」ぼくはスイッチを切り、月の裏側へ向かった。
 十日前。月の裏側で鉄鉱石を発見したぼくは、それを原料にし、JAXAに内緒で仲間のローバーを作る計画を立てた。大仕事を成功させるには、一人より大勢の方が断然力は大きくなる。いつだって仲間の力は偉大だ。
 公転周期と自転周期が同じである月は、いつも同じ顔を地球に見せている。そのため、裏側はまだまだ未知の世界であった。しかし、そこは資源の宝庫であり、良質の鉄鉱石が豊富に採取できた。ぼくと仲間は住居や研究施設を建設。町の中心には巨大な観測所を設け、ほどなくロボットの世界が完成した。崇高な目的に向かうぼく達の心は一つ。それは、
「絶望の危機にある人間を救うこと。人間が越えられない科学技術で地球を守ること。」
 ぼくが生まれた年、地球は危機に面していた。人口は百億人超え。温暖化が進み、南極大陸の面積がオーストラリア大陸のそれを下回り、白クマやペンギンが絶滅寸前という報道がなされていた。異常気象のため干ばつが進み、飢餓により死に直面する人の数も膨大となった。紛争やテロなどの人災はもとより、天災の脅威になす術を失った国連(国際連合)はSOSを発信した。そこに名乗りを上げたのが、日本のJAXAだった。地球上で自然環境を変えることが難しいならば、宇宙開発でどうにかしようと考えたのだ。
 二〇一七年には七億人だった飢餓人口が十年で三十億人にまで増えた。極度の水不足で汚い水を飲んで亡くなる人も、一日五千人から一万人に増加。みな自国を守ることに必死で、国同士の争いも激化した。生きるために最底限必要な水と食料を地球外から供給するというJAXAの提案に、国連は感喜した。
 JAXAは月に焦点を当てた。月は、人類が住むにはふさわしい星とはいえない。なぜなら月には大気がない。また、自転周期が長く、昼と夜が約二週間おきに訪れるため、日中の気温は百度以上、夜間はマイナス百五十度以下にもなるからだ。しかし、そもそも全人類が別の星に移住することなど不可能に近いのだし、研究場所として選ぶなら、地球に最も近い星が時間的にも金銭的にも便利といえた。JAXAはぼくを作り、MAR–1と名付け月に送った。月で研究させるため。そして、人間を救う水や食料を作り出すために。
 ぼく達は、月のレゴリスから水を作った。元々レゴリスには酸素も水素も含まれている。それらを結びつけ、水を生成した。膨大なエネルギーを要するが、大気が無く晴れ続きの月面。太陽光発電で簡単に賄うことができた。水は蒸発を防ぐため固形化して保存。水さえ作れば、ドーム内での農作物栽培も容易だ。
 ぼく達ローバーの技術が発達し続け十年が経過した。ふと、遥か地球から子供の泣き声を聞いた気がした。久しぶりに月の反対側に回り、見上げた地球に愕然とした。進んだ温暖化による厚い大気のせいで、見る影もなく灰色と化していた。慌てて農作物を積み込み、仲間と共に地球に向かった。ぼくはロケットの窓から地球を見つめた。焦りと不安で、故郷への道のりがとてつもなく長く感じる。
「早く。早く。どうか間に合ってほしい。」
手に汗を握る。距離を示す計器の数字と窓の中の地球とを交互に見つめ、ひたすら祈った。
 地球に到着した時、非常に驚きながらもJAXAのマネージャーは歓喜の表情で迎えてくれた。ぼくは事の顛末を話し、水と農作物の持続的な支援を可能にしたことを説明した。
 地球では変化が起こっていた。音信不通となったぼくとの交信を決して諦めず、努力し続けるJAXAの精神に心打たれ、様々な国が協力の姿勢を見せるようになったという。協力の輪は団結に変わり、いつしか戦争は終結。地球再生に向けて努力を始めたという。
 心を一つにした人間は強かった。互いを尊重して知恵と創造力を集結し、自然と共生していくことを誓った。ぼくは喜びと興奮で体が震えた。新たな技術で月を開拓し、大好きな人々の生活ばかりか心までも救うことができたのだから。JAXAは、月面のローバーの世界をMAR–1と名付け、ぼく達AIと人間は月と地球で支え合うこととなった。
 地球は煌きを取り戻した。今日も月面から空を見上げる。青い地球は永遠に輝き続ける。

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