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28年度開催結果


2016年 作文の部
<中学生部門>入賞作品
リモート・センシング技術センター理事長賞

「マーズの祈り」
加古川市立別府中学校3年 岩田 晴登
 
 僕はいつものようにオゾンの彼方に広がる星々に想いを馳せながら、眠りについた。愛に満ちあふれたこの宇宙。ベッドの上でゆっくりと目を閉じる、それだけで宇宙にひたったような感覚になれた。
 ハっと目が覚めた。体がふわふわ浮いているような感覚……いや、実際に宙に浮いていた。周囲に目をやると無数の光の粒が漆黒の闇にうかんでいた。ここは……宇宙……夢?何が何だか分からなかった。頭の中が真っ白になり、恐怖がこみあげてくる。すると、一人の男がこちらに近づいてきた。
「あ、あなたは?」
ひげと髪をだらしなく伸ばし、白衣をまとった若い男は、歪んだメガネを中指でくいっと整えながらこちらに歩み寄り、口を開く。
「昔の……君から見れば未来の一科学者さ。」
「ここは、一体どこなんですか?」
男は人差指を真下に向け、下を見ろと合図した。言われるがままに真下に顔を向けると、僕は言葉を失った。
「ここは火星。遠い未来の火星の姿だ。」
そこには、焼け野原が広がっていた。辺りは骨組みだけの廃墟とがれきでうめつくされていた。自分は前に眼下に広がる焦土に似た光景を見たことがある。一九四五年のヒロシマだ。この光景を表すには、これしかない。
「未来の火星はテラフォーミングに成功した。八フッ化プロパン、フロンガスの一種を使い気温を上げ、火星の地下に眠る永久凍土を溶かした。それが溶けだし広大な海ができ、植物が繁栄したんだ。そして、人間は火星の地に新たな文明を築いた。今私たちが見ているのは火星一の都市……だった〝フォボス〟だ。」
僕は息を呑んだ。全く信じられなかったが、この光景を目の当たりにすると信じるしかなかった。
「なんでこの街はこんなに荒れ果ててしまったの……?」
男はうつむき、苦しそうに語った。
「この地でかつて戦争があった。領土権の主張、資源の争奪、それに対する不満などが複雑に絡み合い、ついに爆発したんだ。長期化した戦争を終わらせるためにテクノロジーの最先端を利用した化学兵器や核爆弾が用いられ、この星を燃やし尽くした。数千万の命がむくろとなり、この地に葬られたんだ。それだけではない。火星は化学兵器、核爆弾によって汚染されてしまい、永遠に住めぬようになってしまった。我々人類は火星を殺してしまったんだ。
何も言葉が出なかった。胸を衝かれ、ただただ口をあけていた。なによりも、ショックだった。幼いころから愛してやまなかった宇宙がこのような姿になってしまうなんて……。
「科学、宇宙開発の進歩は人々の生活を豊かにする。が、その代償は計り知れない。科学は時に牙を剥き、我々を滅ぼすんだ。」
「……それは違う。」
僕は震える拳を握り締め、声をしぼり出した。
「それは違うよ。人間が宇宙との関わり方を間違えているんだ。もちろん、科学技術、宇宙開発の発展は世界に潤いをもたらす。でも、それが正しい方向へ向かっているかどうかじゃないか。こんな惨状が現実となっているからこそ、宇宙との関わり方も考えなければいけないんじゃないのか。」
男は目を丸くしたかと思うと、眼鏡の真ん中を人差指で上げ、僕に微笑みかけてきた。
「やっぱりおじいちゃんには敵わないな。」
僕は耳を疑った。もしかしてこの男は……。
「僕の孫……?」
男は肩をすくめ、「口が滑っちゃったかな」と苦笑した。すると、左手の方向からまばゆく、暖かい光が僕たちを照らした。
「陽が東から昇ってきた、そろそろ時間だ。最後に一つ、伝えておきたいことがある。」
男は僕に優しく、そして力強く語りかけた。
「科学技術を妄信してはならない。それは、世界の、宇宙の平和を破壊しかねない。宇宙は私たちに様々なことを教えてくれた。平和に暮らすことの尊さ、自然を重んじ慈しむ意味、そして私たちと宇宙の関わり方。それを後世に伝え、紡いでいかなければならない。人間はこの先何を目指していくのか。君が、未来の宇宙を創っていくんだ。伝えたいことはそれだけだ。それじゃあ、未来の科学者。」
男は最後にそう言い残し、激しい閃光に包まれた。あまりの眩しさに顔を伏せてしまった。
 恐る恐る目を開くと、そこは見慣れた自分の部屋だった。あまりの出来事で気が抜けそうになった。あの時見た焼け野原を思い出すと、まるで火星が平和を祈っているかのように思えてならない。窓から空を見上げていると、左手の方向からまばゆく、暖かい光が僕を照らした。あれは夢だったのか、それとも本当に未来の火星の姿なのか。
 今日も陽は東から昇ってゆく。

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