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28年度開催結果


2016年 作文の部
<中学生部門>入賞作品
文部科学大臣賞

「かけがえのない命を救うために」
大口町立大口中学校3年 水谷 龍南
 
 「お疲れ様!」
 遠くに光る国際宇宙ステーション(ISS)を見つけると、思わず声が出た。
 西暦二〇三六年、三五歳の僕は今、「新国際宇宙ステーション(NISS)」にいる。略称の「N」は、もちろん「NEW」の頭文字の「N」だ。ISSの後継宇宙ステーションである。
 世界の科学技術は確実に進歩し、多くの国々が宇宙開発や宇宙を有効活用するための研究に力が入る時代となった。同時に、それらの国々が宇宙空間での実験にも興味をもつようになっていた。しかし、ISSは、二〇二四年までの運用期間となっていたため、多くの国々が新しい国際宇宙ステーションの建設と運用を望んでいた。
 そこで、国際宇宙会議は、ISSの運用を二〇三五年まで延長するよう、アメリカ、ロシアらに働きかけた。そして、耐用年数の限界に近づいているISSに替わる「新国際宇宙ステーション」を開発・建設するために、国連が開発・建設資金を調達することを決め、国際プロジェクトとして、NISSの建設を進めたのだ。延長運用と並行して、建設が行われると、計画通り、ISSの運用終了の二〇三五年に、NISSが完成した。
 そしてちょうど、NISSの建設プロジェクトが立ち上がったのと同時に「国際宇宙研究機関(ISRI)」が設置された。世界的な研究課題を共有化し、NISSで行う研究の優先順位を決定し、共同で研究していくための機関だ。
 世の中は、五〇年前には空想だった様々な宇宙開発の実用化に向けた研究や開発が進んでいる。宇宙旅行、スペースコロニー、テラフォーミング……。
 しかし、まだ地球上に生きる人たちは八〇億人もいる。そして、貧困に苦しみ、幼くして命を落としたり、難病によって、生きたくても生きられなかったりする人々が数多くいる。また、アフリカや南米の大規模開発により、様々な病原体によるパンデミックが発生することも増えてきた。数々の難病から人類を救うことは、大きな課題だ。
 研究医である僕は、そんな人たちを救えるようにと、JAXAからクルーとして派遣された。そして、NISS内で、ISRIから依頼された、微小重力環境を利用した新薬を開発するためのプロジェクトリーダーとして、日々研究に励んでいる。
 現在、タンパク質の構造の解析は、ISSのおかげで随分と進んだ。しかし、一〇万を超えると言われる人体のタンパク質には、まだまだ様々な病気を治す鍵をもっていると考えられている。NISSでは、最新の設備が整っているため、これまで以上の成果を残そうと、各クルーはとても意欲的である。
 ここでの研究が基となり開発された「分子標的治療薬」は、通称「スペーラ」と呼ばれている。スペーラとはラテン語で「希望」という意味だ。
 スペーラをマイクロカプセルに閉じこめ、それを飲むことで、がん細胞や病原体が消えるという「夢の新薬」だ。
「リーダー。また発見できたぞ!」
「やったな!」
 ハイタッチと共に、そんな会話が幾度となく交わされてきた船内。ISS計画に参加していた国々の数をしのぐ、国際色豊かなクルーが搭乗しているNISSは、歓喜に沸くことがたびたびあった。
 宇宙飛行士の大先輩である毛利衛さんは、「宇宙からは国境線は見えなかった」と言ってみえた。同じように、ここ「NISS」は、「国境のない空間」だ。まさに、そんな空間が、地球のために一つとなって数々の研究に取り組んでいる。
 僕は、滞在六か月で、ついに三〇ものスペーラを、マイクロカプセルに閉じこめることに成功した。
 二十年ほど前の中学生の頃、夜空を見上げては、ISSの光跡を追いかけていた日が懐かしく思い出された。と、同時に、こうして宇宙空間から、運用を終えたISSを眺める日がおとずれるとは、想像もつかなかった。
「お疲れ様」とは、多くの研究の成果を残してきたISSに、敬意を表すために出た言葉だ。解体が進みつつあるISSには、もう会うことはできなくなるだろう。
 そして、今度は、NISSの実験棟に向かって「ありがとう」とつぶやいた。
 ISSの光跡を追いかけていたあの頃の僕に、宇宙飛行士になることを後押ししてくれた中学生の時の担任の先生。クルーの仲間たちと共に、現在、病気と闘う先生を救うためのスペーラを作り出すことに成功したのだ。
 僕は研究を続けていく。人々を助けるために、病気で苦しんでいる人を救うために、そして大切な人を失わないために。宇宙は人類の幸せのためにあることを願って……。

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