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27年度開催結果


2015年 作文の部
<中学生部門>入賞作品
日本科学未来館館長賞

「宇宙の始まりは音の始まり」
埼玉県 さいたま市立大宮東中学校1年 斎藤 はな
 
 天才ピアニストであり、作曲家でもある私、響野はなは、十八歳でデビューし、以後、世界のトップを走り続けてきた。
 しかし最近、自分の音楽が見えてこない。何を表現したらいいのか、どんな音をつくりたいのか、分からなくなっている。スランプに陥ってしまったのだ。
 いつもなら、そんな時、私は旅に出る。
 サハラのどこまでも続く赤い砂漠、骨も凍てつくような北極で見た荘厳なオーロラ、神の怒りかと思えるほどのイグアスの滝の怒涛……。普段とは違う景色を見ることによって、私は曲想を得てきた。
 しかし、今回のスランプは今までにない程重く、深く、苦しい……。
 そんな時、私は一枚のポスターを見た。
 「あなたも宇宙の果てを見てみませんか?」それはアメリカ航空宇宙局が資金集めのため、宇宙探検の民間人の同乗者を求めるポスターだった。
 私はこれに飛び付いた。今の私には、これが必要だったんだ。これに賭けた私は十年間の音楽活動の休止を宣言した。
 そしてバタバタと準備に追われるうちに、あっという間に出発の日がやってきた。
 宇宙船に乗り込む。体がイスにシートベルトで縛り付けられてから、燃料注入などで打ち上げまでに時間がかかる。
 私はシベリウスの交響曲第二番の音楽をかけてもらった。第三楽章の終わりに近づき、音が不安感を増してくる。発射とともに、強烈な“G”に襲われる。そしてふと気がつくと、音楽は第四楽章にうつり、切羽詰まった音から解放され、私はふわりとした感覚とともに宇宙にいた。重力から、地上の苦しみから解放されている。はたして、この宇宙の旅で私は何かを得ることができるのだろうか。
 窓から外を見ると、宇宙にぽっかりと浮かぶ地球が見えた。際立って美しい星。そして、その星に存在する音楽も美しい……。
 何日か、何週間か過ぎた頃、天の川がはっきり見えた。星々の光が交じり合い、地球から見るよりも幻想的だ。
 宇宙には空気がない。なので音がない世界だ。しかし、ここには音楽がある。否、実際はないのかもしれないが、この宇宙は音楽に満ち溢れている。例えるなら、リスト作曲「愛の夢」かショパン作曲「ノクターン」か。
 ところで、私達の宇宙船には、暗号解読が専門の数学者や言語学者が同船している。宇宙の地球外生命からのメッセージを受信した場合を想定しているのだ。
 ある時、私達は何かの生物からのメッセージを受信した。複雑な記号が並んでいる。必死に解読した結果、私達の進行方向にある星に、アメーバ状の生物がいるらしい! これは今回の宇宙探検における大発見である。
 しかしメッセージによると、その星は対立するアメーバ同士の確執が深まり、その対立が最終局面を迎えたという。
 窓からその星を見ると、星が赤くなったり青くなったり、凄まじい勢いで色と地表の文様が変化している。学者が解説してくれた。
 「彼らは自身の体の毒素を強めることで、相手を打ち負かそうとしているのです。色の変化はその毒素の変化なのでしょう。」
 その時、突然の鋭い閃光とともに、星が砕け散り、そして……漆黒の闇となった。
 「お互いに相手を潰すことに専心し、自分達が生息する星を破壊してしまった。あまりにも強い毒素に星が耐え切れなかったのだ。」
 その時、私はふるさと地球を想った。地球には核問題、環境破壊など、あまりにも多くの問題が堆積している。私達の地球も、同じ運命を辿るのだろうか。
 星の滅亡の後にできた闇はあまりにも暗かった。
 その後も私達は旅を続けた。ある時、機長が言った。
 「数日したら、宇宙の果てに接近する。」
 最近の研究の結果、宇宙は「∞」(無限)の形をしていることがわかったのだ。なので、宇宙の中心部では比較的、宇宙の果てが距離的に近いのだ。
 果てまで来て、私は宇宙船の外に出た。
 宇宙の果て。ようやく着いた。今、ひとつの星が生まれる。星が生まれ、宇宙が広がる。ここは光に満ちている。星は小さな光から始まるのだ。そして色。空気ができて、水ができる。
 そして音も生まれる。
 耳に音が聞こえる。水の流れる音。泡が弾ける音。
 そうなのだ。音楽は宇宙の始まりを起源としているのだ。これから、この星に新しい生命が誕生するだろう。きっとその生命も音楽をつくり出していくに違いない。
 音は宇宙とともに時を超えて久遠に……。

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