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27年度開催結果


2015年 作文の部
<中学生部門>入賞作品
日本宇宙フォーラム理事長賞

「見えないもの」
千葉県 千葉市立葛城中学校2年 外川 楓
 
 「見えないもの」とは何だろう。私は今、L2で小型シャトルをとめた。ここでは常に、地球と太陽が重なっていて、昼夜がないのである。分厚い窓の外は美しい故郷であり、死の世界でもある宇宙空間。ここなら目に見えるものは全て宇宙空間の中で、何らかの波長の光を出し続けている。私がプロジェクトマネージャーを任された暗黒物質可視化プロジェクトのミッションでは、いよいよ最終段階を迎えていた。
 ふと中学生のときに真剣に空想していた「見えないもの」のことを思い出した。宇宙空間で目に見える、いわゆる通常の物質は宇宙の総質量の4%ほどだという。他の96%は暗黒物質、暗黒エネルギーと呼ばれているどのような波長の光も出さない、まだ未知の存在だ。スローン・デジタル・スカイサーベイで得られたデータで銀河の分布や多さを見ているとどうしてもそう見えないのだが……。
 モニターの端に見える地球のアイコンから、地上の仲間が呼びかけていた。「周りの小天体に充分留意願います。どうぞ」「了解。こちらはL2にとどまり、準備を続けます。どうぞ」通信時のタイムラグを考えながら、電波に声を載せた。
 「ダーク」なものたちが空間をたくさん飛びかい溶け込んでいるはずなのに、その存在はわからないし、気付けない。私たちはかなり鈍感な生物なのだろう。今まではそれで良かったかもしれない。しかしここから先の人類は生き残っていくために宇宙の96%を占める「見えないもの」の謎を解いていかねばならない。人に備わった「知りたい」という欲は人類を滅亡させないための大切な本能である。地球のいる太陽系はいつか必ず終わるとわかっている今、宇宙の謎をひっ迫感を持って解明しないとならないのだ。宇宙には始まりがあり、必ず終わりを迎える。
 「見えないもの」の存在を認識できるのは、「見えるもの」に「見えないもの」が及ぼす影響を与えていると感じた時だ。ブラックホールは一点にものすごい質量を持つ穴だが、そこにたくさんの「見える」光や物質が落ちていくのを観測できるからこそ、そこにあるとわかるのである。
 時計を見ると、出発時間がせまっていた。管制棟からは「発進10分前。モニターにてカウントダウン開始」という声が届いた。
 アルベルト・アインシュタインの考えた式を計算し、紙の上でブラックホールの存在がわかった時のように、理論が先行して新事実を発見することもある。しかし私は技術を駆使し、直接宇宙の謎にせまるのだ。いよいよ人類史の新しいページをつくるのだ。
 どれくらい経っただろうか。「無事にエリアXに到着。」という信号を受信し、仲間が隣で「着いたんだ」と声を上げた。暗黒物質可視化プロジェクトでは、WMAP2によって作成された暗黒物質3Dマップに基づいて天の川銀河のはずれに近い場所「エリアX」へ自慢の観測機「ニューサーチャー」を送り込んだ。暗黒物質にはエリアによって分布にムラがあるが、今回は特に多いと思われるエリアXを選んだのだ。しかし送信されてくるデータに変化は見られない。どんな物質にも反応せずすり抜けてしまうのだろう。
 我々はバッテリーの消費を抑えるため、観測モードを終了させようとした。するとその時、ニューサーチャー内で非常に微量ながらも、総重量の変化と発光が確認されたのだ。暗黒物質候補感知用ガイガーカウンターの分析では、アクシオンという素粒子と似た性質と表示されていた。周辺をあわてて観測すると、重力レンズ効果によるゆがみがエリアX内で強くなっていた。あたかもそこに存在しないかのように、周囲の光やエネルギーを吸収しているのかもしれない。殆どの物質をすり抜け、周囲の空間もゆがめる。自らの存在を隠すかのようなその力を、ダークベール効果と呼ぶことにした。今回のエリアXの探査により解明された一つだと胸をはった。
 例えばX線、ガンマ線、可視光線など手当たり次第に飲み込まれる物質が様々な波長を発し、華々しく輝く様々があって初めてそこにあるとわかる。「見えているもの」の分布を整理してみると、「見えないもの」があることに気付けることがある。スローン・デジタル・スカイサーベイで宇宙の大規模構造が一目瞭然になったように。
 今回の可視化ミッションで、ダークベール効果が確認されたことは、この「見えるもの」「見えないもの」の対比がいかに宇宙解明で重要であるかわかったことでもあった。「見えるもの」と「見えないもの」はいつも対になっている。
 帰還中、金子みすゞの誌を思い出していた。青いお空のそこふかく 海の小石のそのように 夜がくるまでしずんでる、昼のお星はめに見えぬ。見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。
引用 金子みすゞ「星とたんぽぽ」より

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