「一般財団法人日本宇宙フォーラム」トップページへもどる 「宇宙の日」ホームページへ戻る
「宇宙の日」ホームページ

 

26年度開催結果


2014年 作文の部<中学生部門>入賞作品
宇宙航空研究開発機構理事長賞

「振り子時計に耳を澄ませば」
埼玉県 さいたま市立東浦和中学校3年  津久井 南帆
 
 「ええっ! 身長制限があるの?」
 中学三年生の夏、衝撃の事実を知った。小さい頃からの夢である宇宙飛行士になるには、身長が一五八センチ以上必要なのだと。その現実は、生まれつき大きくなれない病気で治療を受けている私を、愕然とさせた。あと一〇センチなんて到底伸びそうにない。宇宙への夢は諦めるべきなのか……。
 あの愕然とした夏から八年。結局、私の身長は一センチしか伸びず、一四九センチ。けれど、私はまだ宇宙への夢を諦めていなかった。何とか夢を叶えようと模索する日々。そんな中、千載一隅のチャンスが訪れた。目に飛び込んだ『宇宙探険隊一期生募集』という新聞の見出しに、胸が高鳴る。更に私を舞い上がらせたのは、隊員に応募できる条件。それは……身長一五〇センチ以下であること。
 人よりも関節が柔らかいという特徴も有利に働き、一期生選抜試験に合格。私はチャンスを掴み、宇宙への切符を手に入れた!
 私達探険隊の一期生三人は、まず火星へと向かった。高性能なジャイロスタビライザーを搭載した宇宙エレベーターが、揺れることなく、私達を火星へと送り届けてくれた。扉が開くと、目の前に広がっていたのは、酸化鉄が創り上げた不思議な世界。足元には、消えかけているキュリオシティの轍。本当に宇宙にやって来たのだ。でも、感傷に浸っている場合ではない。私達は、宇宙探険の拠点となる基地へと急いだ。
「リーダー、そろそろ出発の時刻です。」
 仲間に声を掛けられ、気を引き締める。そう、宇宙探険の本番はこれからなのだから。
 いよいよミッション開始! 今回のミッションは、木星の衛星エウロパを観察し、サンプルを採取すること。入念な点検の後、私達は別々の卵型宇宙船に、身体を小さく丸めて乗り込んだ。この宇宙船は、子供用かと思えるほど小さいが、小粒でもぴりりと辛い最新鋭船。素粒子ニュートリノの利用が、光速より速い移動を可能にしたらしいが、超小型であることが実現化の必須条件だったようだ。私は小さいからこそ、この宇宙船を操縦する探険隊の一員になれたのだ。
 「エウロパだわ!」
 自動通信モニターから、仲間の興奮した声が聞こえる。生命が存在する可能性を秘めているエウロパ。この衛星は、科学者たちの好奇心を掻き立ててきた。噴き出す水蒸気が見える。幼い頃、科学雑誌で見た絵とそっくり。
「さあ、準備はいい? せーのっ!」
 私達は息を合わせ、宇宙船同士をドッキングさせた。プロペラのような形を作り、減速させるためだ。訓練の成果を発揮し、見事成功。私達はとうとうエウロパに到達した。ガリレオが望遠鏡でこの衛星を発見してから数百年。長い時を経て、今、人類がエウロパにいる。歴史の一ページに刻まれたこの瞬間を、私は一生忘れることが出来ないだろう。
 今回のミッションでは、船外活動がとても重要。そのため、動き易さが求められる私達の宇宙服に、酸素ボンベはない。代わりに、内蔵されたミドリムシ培養袋から酸素が供給される。特殊ライトで光合成が行われる仕組みだ。私達が順調にサンプルを採取することが出来たのは、この宇宙服のおかげでもある。
 任務が完了し、宇宙船に戻る途中だった。
「リーダー、危ない!」
 その仲間の声と同時に、接近した小惑星が、一寸先をかすめていった。衝突を免れてホッとしたのも束の間、自分の宇宙服に微小な亀裂を見つけた。早く対処しなければ、宇宙放射線で被爆してしまう! 使えそうな物は……私はとっさに一つの方法を思いついた。サンプルを保護した布の余りを水蒸気で濡らし、亀裂の部分を塞ごう。確か、濡れた布は放射線を遮る効果があったはず。一緒に応急処置をしてくれた仲間と、エウロパにも助けられ、なんとか窮地を乗り切ることが出来た。こうして、私は無事に帰還したのだ。
 久しぶりの地球。研修所のベッドに横たわり、思いを巡らせる。前は、身長が低いことがコンプレックスだった。でも、今は自信を持って長所だと思える。新しい何かと出会う時、短所だと思っていたことさえ、長所に変わることがあるんだ。新しいことだらけの未来には、こんな奇跡のようなことが、誰にでも起こるんじゃないかな。だけど、一番大切なことは、いつの時代も変わらない。それは、思いやりと助け合いの心を持つこと。人は支え合い、自然界のあらゆるものと共存している。地球を明るく照らす太陽があり、潮の満ち引きを導く月がある。そんな宇宙の『つながり』の中で、地球に生きる私達。ガリレオさん、あなたも遠い昔、こんな『つながり』を想像して、宇宙への憧れを抱いていたの?
 静かな部屋に、規則正しい振り子時計の音だけが響く。私はその音を、耳を澄ませて聞いてみた。「そうだよ」っていう声に聞こえそうな気がして。

もどる