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25年度開催結果


2013年 作文の部<中学生部門>入賞作品
文部科学大臣賞

「科学技術の発展は終止符を打たない」
埼玉県 さいたま市立東浦和中学校2年  津久井 南帆
 
「銀河をぬけると、間もなく火星です!」というアナウンスで、ツアー参加者たちは窓の外に釘付けになった。火星のオリンポス山が見えてきた。エベレストの三倍の高さがあるこの雄大な山は、宇宙自然遺産に登録されてから、ますます人気観光スポットになっている。いよいよ火星に着陸するようだ。
 僕は宇宙旅行会社で働くツアーコンダクター。初めての宇宙旅行で舞い上がっているツアー参加者に、安全のため声をかけた。
「火星では、二時間の自由行動となりますが、宇宙服の装着を忘れないで下さいね。左肩のボタンを押すと、体にフィットする新型の宇宙服ですので、動き易いですよ。」
 みんな嬉しそうに火星散策に出掛けて行った。今のうちに、地球から乗ってきた宇宙船の点検をしておこう。宇宙船に異常がないか入念に確認するのも僕の仕事だ。特に異常はなし。即座に点検データを本部に連絡する。
 異常がなくて、ほっと一息ついていると、
「すみません、大変です!子供が家の鍵を船外に落としてしまったようなんです。」
 それは本当に大変だ!僕はすぐにその場所に向かい、何とか鍵を回収して、船内に持ち帰った。スペースデブリ除去隊の出動要請に至らなくて本当に良かった。
 トラブルも無事に解決し、次の見学場所である月へと向かう。月までの移動中に、昼食をとってもらった。みんな、初めての宇宙食をとても楽しみにしていたに違いない。最近の宇宙食は小さなタブレット型が主流。栄養バランスに気をくばった色とりどりの粒は、小さいけれど胃の中で膨らむので、満腹感が得られるとなかなかの評判だった。
 数時間後、月の近くにある科学技術庁の宇宙部に到着した。実は、ここが月への玄関口だ。あらゆる形の宇宙船がぴったりと接続可能な施設で、宇宙港的な役割も担っている。ここには、地球で起こる地震や火山活動などによる災害の予測を行う「災害予測センター」や、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスの観測、デブリや隕石対策、居住可能な小惑星の環境整備などを行う「宇宙環境センター」がある。しかし、中枢部は未公開で見学できないのが、残念なところ。
 そうだ……まだ、ツアー参加者たちに伝えていないことがあった。やはり、虹色の橋の前でみんな目を丸くして立ち尽くしている。
「月へは、このオーロラの橋で繋がっているんですよ。プラズマを利用したナノレベルの薄い膜で作られている橋で、見た目より丈夫ですから、安心して渡って下さいね。」
と説明した。何を隠そうこの橋は、別名「恐怖の橋」と呼ばれるほどスリルたっぷり。涼しい顔で渡っている僕も、初めての時は足がすくんだ。やっとのことで渡りきって安堵している参加者たちの表情を見ると、明日もこの橋を渡って宇宙船に戻らなくてはならないことを、今はとても言えない。
 充実した一日を振り返りながら、月の宿泊施設でみんなくつろいでいた。クレーターに建てられたこのピラミッド型の施設は、重い質量を持つ暗黒物質を利用することで、重力の小さい月でも安定している。最上階にある展望室から、僕はみんなと地球を眺めた。この美しい景色を見れば、誰でも地球や宇宙をずっと守っていこうと思わずにはいられないはずだ。宇宙旅行は火星や月などを旅する楽しみも当然あるけれど、普段は忘れている大切なことに気付く機会でもあると、僕は思う。自分達の暮らしている地球の美しさと、地球での生活の素晴らしさを再認識するための旅行でもあるのだと。
 ツアーも終わりが近づいた。月面散策の後、「これで、見学は終了です。私は宇宙船まで皆様をお見送りし、地球までの添乗員と交代いたします。ありがとうございました。」
 僕のあいさつに、みんな満足そうな笑顔で拍手をくれた。ひときわ大きな拍手をくれたのは、鍵を回収してあげたあの親子だった。幸せな気持ちになった。誰かの役に立てて嬉しいのは、どんな仕事でも同じだ。
 本部に戻ると、同僚の南帆さんに、
「キロボ君、帰ってきてすぐで申し訳ないけど、小惑星の下見をお願いするわ。」
と言われて、次の仕事に出掛けた。新しい見学場所の安全確認も、僕の大切な仕事の一つだ。ところで、未知の場所なのに僕は大丈夫かって?心配ご無用。僕には宇宙服さえ必要ない。なぜかって?それは……ロボットだから。僕は、二〇一三年に宇宙に来たキロボの進化型、キロボ三世。キロボは、若田光一宇宙飛行士と会話実験したロボットと言えばわかるかな。もちろん僕は、その時のキロボより何百倍も高性能だ。科学技術の発展は止まることを知らないからね。数十年前には夢でしかなかった一般の人々の宇宙旅行が実現したように、これからも宇宙開発と科学技術は発展し続けて行くだろう。無限に広がり続ける宇宙と、何だか似ている気がしないかい。

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