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24年度開催結果


2012年 作文の部<中学生部門>入賞作品
宇宙航空研究開発機構理事長賞

考えることの必要性
兵庫県 明石市立大久保北中学校2年 寺嶋 康祐
 
 ある日、僕は宇宙船の中にいた。なぜかはわからない。船に乗っていた星人によると、僕は宇宙オリンピックの選手に選ばれたらしい。競技内容はとても簡単。火星にある酸化鉄から鉄を取り出すというものである。僕は、学校でやった還元の実験を思い出した。道具一式は用意してくれるというのでお願いした。妙に親切だなぁと思ったが、そのときは気に止めなかった。しばらくすると、窓にはもう赤い星が間近に迫っていた。
 まもなく火星に到着した。渡された宇宙服を急いで着た。翻訳機能付きの電子辞書をもらって船を降りた。酸化鉄の砂漠には、僕と同乗した星人の他に、三人ほど星人がいた。少し待っていると、頼んでいた道具が届いた。ガスバーナー用の燃料までもらったが、火星には空気がないことに気付いた。どうしようかと考えていたとき、僕は、何メートルか先に燃えさかる炎を見た。近づいてみると、それを使って酸化鉄を還元している星人がいるのが見えた。僕は、声をかけた。
「こんにちは。」
 反応がない。少し考えて、宇宙には音がないのだと気付いた。そこで、電子辞書に言葉を打ち込んで、その星人に見せた。日本語のままだったが、意味は理解できたらしく、その星人も電子辞書に文字を打ち込んだ。見せてくれた画面には、日本語でこう示されていた。
「こんにちは。よかったらお隣どうぞ。」
 なんと心の広い星人だろうか。僕の持っているガスバーナーを見て、僕が困っていることに気がついてくれたのだ。僕は、その星人に深く頭を下げて隣に座った。ガスバーナーの火は、僕の心まで温めてくれる気がした。その火を使い、火星上の酸化鉄から大量の鉄を取り出すことができた。燃料が底をつきかけたとき、突然、電子辞書のランプが赤く光り出した。画面には、
「制限時間終了です。船に戻ってください。」
とあった。
 船の前まで来ると、地図らしき紙を渡された。よく見ると、赤い印が一つ書いてあった。ここで、鉄と硬貨を交換すればよいのだという。交換した硬貨の枚数で、勝敗を決めるのだという。火星の地図を読むのに苦労しながらも、赤い印の示す場所に着いた。そこには、小さな建物があった。中では、一人の星人が品物の整理をしていた。看板には、「交換所」とあった。ここで間違いはなさそうだ。僕は、中にいる星人に、
「すいません。鉄と硬貨を交換していただきたのですが。」
と打った電子辞書を見せた。
「はい、わかりました。」
 その星人は言った。僕は、声が聞こえたことに驚いた。
「珍しいですね。硬貨と交換してくれだなんて。ここに置いてある硬貨は、どの星でも使われていないのに。」
 オリンピック専用の硬貨なのだからだろう。このときまではそう思っていた。しかし、僕に硬貨を渡すとき、その星人は言った。
「この硬貨は特殊な金属でできていてね。使い方によっては、たった一枚で星をいくつも破壊できるんだ。軍事利用をたくらむような星人には、絶対に渡してはいけないよ。」
 そう言われてみれば、僕は主催している星人の目的を知らない。交換所の星人は、人の本心を読む力を分けてくれた。僕は、小さくうなずいて、船の方へ歩き始めた。船に近づくにつれ、小さな声が聞こえてきた。この競技を主催している星人の心の声だ。
「しめしめ、うまくいった。俺たちが、宇宙征服を進めていることも知らないで、選手たちはどんどん硬貨を持ってくるだろうなぁ。いくつくらい星を塵にできるか、今から楽しみだ……。」
 まさかとは思ったが、本当ならそれを放っておくことはできない。しかし、どうすればよいのか。僕が悩んでいたとき、主催している星人の後ろに、突然何かが現れた。よく見ると、酸化鉄の還元のときに出会った心の広い星人だった。と次の瞬間、主催している星人は、ばたりと倒れた。
 後から聞いた話によると、あの心の広い星人は、つい一ヶ月前まで交番で働いていたのだそうだ。倒れた主催していた星人は、警察病院でまもなく意識を取り戻したという。
 心の広い星人に、地球まで送り届けてもらった。家に帰った僕は思った。何も考えず、人の言いなりにばかりなっていると、国や世界をも滅ぼすことになりかねないのだと。


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