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23年度開催結果


2011年 作文の部<中学生部門>入賞作品
国立天文台長賞

未来へのバトン
岩手県 岩手大学教育学部附属中学校3年  三船 恭太郎
 
 赤々と燃える聖火を両端から支える二人。地球とクラースナヤ星の友好の証でもあるこの聖火は、酸素を作り出す特殊なトーチによって運ばれてきた。僕は地球側の最終聖火ランナーを映し出した画面を見ている。宇宙服の中の表情は見えないが、手は少し震えているようだ。いよいよ点火。眩しさに目を細める。ソラ、君もこの光を見ているだろう。
 二〇六一年、世界初の宇宙飛行が成功した年から百年を経た今年、第一回宇宙オリンピックが開幕した。参加星は僕の住む地球と、ソラの住むクラースナヤ星の二つ。これから十日間にわたり、スポーツや音楽、文学、数学、科学、様々な分野で二つの星は競い合うのだ。
 赤色矮星の惑星、クラースナヤ星に生命体の存在が明らかになったのは十年前、僕が五歳の頃だ。ある事故がきっかけだった。百数名を乗せ地球を飛び立った宇宙船が消息を絶った。乗客は地球と宇宙ステーションを往復している研究者や、宇宙ツアー客たちだ。
 訓練を積んだ宇宙飛行士や裕福な人だけが宇宙へ、という時代は既に過去のこと。人工重力を発生させる技術の開発で、様々な職業や年齢の人々が宇宙へ行く時代に変化していた。またこの宇宙船は当初の目的、「手軽に宇宙観光」以上の効果を地球に与えた。
 宇宙から地球を眺めた人々は、この青い美しい星に生まれたことを素直に喜び感謝した。ある人は自らが地球環境を破壊したことに気づき、嘆いた。またある人はこの星の中で、尊い命を奪い合う戦争が起こっていることに心を痛めた。瑠璃色に輝く地球は、物体のみならず、人の心をもひきつけたのだ。なんとかしなければ。多くの人が自分にできる小さな一歩を踏み出した。その一歩が誰かの背中を押し、また新たな一歩に。病んでいた地球は徐々に回復へと向かった。それと平行して、宇宙開発に関する研究は各国で順調に進み、宇宙は研究や技術を切磋琢磨する場になった。
 そんな折の事故。スペースシャトル・コロンビア号以来の不安なニュースに、世界中が沈んだ空気に包まれた。有人の宇宙船は暫く飛ぶことはないだろう。宇宙開発もこれまでか。悲観的な見方が相次ぎ、地球と宇宙の間で積み重ねてきた歴史が巻き戻されるように感じた人も多かった。誰もが宇宙に行ける時代の到来は、果たして良かったのだろうかと。
 当時五歳だった僕が理解できたのは、宇宙船が大変だということだけ。心配でたまらず外に飛び出した。降り注ぐような満天の星は、僕に何かを伝えるように思えた。あっ、なんて明るい流星。火球だ。星のことを教えてくれたのは父だ。宇宙船が無事でありますように。尾を引き流れる火球に祈った。大丈夫だよ。今囁いたのは誰? 星しか見えないのに。
 そう、星は知っていたのだ。エンジントラブルを起こし軌道を外れ、救難信号を発信した宇宙船が、クラースナヤ星に誘導され無事に着陸していたことを。クラースナヤ星は数年前に存在が確認されたが、生命体はいないだろうと考えられていた。しかし実際には海もあり雨も降る温暖な気候の美しい星だった。高度な文明と知能を持つクラースナヤ星人は、いち早く宇宙船のSOSを受信し、クラースナヤ星のデータを送った。警戒心を抱かせず、丁重で且つ好意的な姿勢で。
 後の会見で船長は語っている。「未確認生命体への接触に不安がなかったわけではない。しかし、彼らから見れば我々もまた、未確認生命体。彼らの勇気ある決断に感謝している。我々とよく似た、クラースナヤ星管制官の穏やかな笑顔が不安を取り去ってくれた。そして彼の名前も。もちろん意味は異なるが」と。
 モニターを通し、両星で記念すべき交信をしたのは、クラースナヤ星の管制官アースと船長である僕の父、ホシノ。だが、十年後のこの日が、宇宙オリンピック開催というもう一つの記念日となり、さらには自分たちが聖火を灯す大役を務めることになろうとは、二人とも想像していなかっただろう。
 眩い聖火の前で、肩を組み笑顔で大きく手を振る父とアース。僕は日頃反抗ばかりしていることを少し反省し、父を誇らしく思った。そして、僕の胸にも熱い何かが灯るような気がした。アースの息子ソラ、きっと君も。
 事故以来、親交を深めた父とアースは、宇宙の未来と夢を、ときには反抗期を迎えた互いの息子のことを語り合った。「何を考えているのかさっぱりわからん。あいつらは異星人か。だが異星人でもこうしてわかりあえるさ」二人は高らかに笑った。
 クラースナヤ星の共通語と日本語で唯一同じ響き、同じ意味の言葉がある。それは君と僕の名前、ソラ=空。僕は夜空を仰ぎ、宇宙の友に呼びかけた。「ソラ、聖火のように未来へ続くバトンをつなぐのは僕たちだ」星が一つ震えながら、でも僕に応えるように輝いた。
 見上げた宇宙(そら)は果てしなく、広い。

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