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23年度開催結果


2011年 作文の部<中学生部門>入賞作品
文部科学大臣賞

走れ!次郎
北海道 釧路市立山花中学校3年  神生 桃李
 
 「第888回太陽系トライアスロン、スタート!」
 スターターの声と共に、僕はエアロシャボンに包まれたバイクを漕ぎ始めた。
 太陽系トライアスロン。水星から冥王星までの区間で、バイク・平泳ぎ・マラソンを、銀河系の全ての星の代表が競う歴史的大会だ。
 ちなみに、地球代表の僕は、酸素がないと困るので、空気のシャボンに包まれながら、競技に参加することを特別に許可されている。
 スタート地点である水星は、何千年か前に中心部に鉄芯が埋まっていることが発見され、現在はその鉄芯を利用して、金属製品を製造する工業地帯になっている。このバイクも、水星製だけれど、磁石が使われているので、水星に引き寄せられて大変だった。
 次郎は漕いだ。
 第一水分補給所である金星は、元々とても熱い星だった。しかし、今はその熱エネルギーを寒い星に送っているので、どちらも快適に生物が住める温度になっている。金星人の一日は、僕ら地球人の244倍もあるので、金星人はとてもマイペース。水分補給で、大幅なタイムロスをした。
 次郎は漕いだ。
 たった今通り過ぎた僕の故郷・地球は、大昔には温暖化という危機に陥ったそうだが、当時の人々の努力の甲斐あり、緑と青が美しい宇宙一の星として銀河遺産に登録されている。
 次郎は漕ぐのをやめ、泳ぎ始めた。
 バイクを乗り捨てた火星は、昔はひどく寒かったけれど、金星のエネルギーで星が温まり、山も川も甦ったので、火星人達も長い眠りから目覚め、バイクを片付けてくれている今に至る。
 次郎は泳いだ。
 第二水分補給所である木星では、風が強く熱かったので、手早くドリンクを受け取った。木星は、木星人以外は長く滞在することがまだ不可能なので、強い風と高温に耐えられるスペーススーツを、水星で研究中とのことだ。
 次郎は泳ぐのをやめ、走り始めた。
 選手の家族等が応援に駆けつける土星では、星の胴体を取り巻く輪の上で、僕のお母さんが手を振っているのが見えた。こまのように回転し続ける土星は、永久機関として他の星にエネルギーを送り続けている。
 次郎は走った。
 たった今通り過ぎた天王星は、濃い霧に包まれていて、競技終了後は霧を利用した、レーザーショーが行われる予定だ。天王星の輪は、五百年前までただの岩石で出来ていると思われていたが、実は宝石の原石であることがわかり、多くの星から億万長者を夢見る若者が集っている。
 次郎は走った。
 たった今通り過ぎた場所には、大昔まで海王星という星があったが、開発の途中で爆発し、宇宙の塵となってしまった。
 次郎は走った。
 ゴール地点である冥王星は、宇宙開発を進めていく中、志半ばで亡くなった偉人達の墓になっている。
 宇宙開発で得た利益は、人類にとって非常に大きなものだ。しかし、その裏には何億人もの犠牲がある。そのことを、全ての星に住む者が忘れないように、このトライアスロンでは、太陽系から外されたこの星を、あえてゴール地点としている。
次郎はゴールテープを切った。
 ……え? 僕は結局、優勝したのか?
冥王星はね、普段は立入禁止になっていてね、年に一度しか入れないんだ。
 そう、このトライアスロンの時だけ。
 僕は、海王星の開発途中に爆発に巻き込まれてしまった、父さんの墓参りのためにこのレースに参加したんだ。
 だから、順位なんて、どうでもいいんだ。
 次郎は、メダルを握り締めた。

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