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22年度開催結果


2010年 作文の部<中学生部門>入賞作品
文部科学大臣賞

宇宙を利用した未来のDJ メッセージ -今伝えたい想い-
東京都 東京都立小石川中等教育学校2年生  鈴木 梨紗
 
 「みなさん、おはようございます。『スペース・ネットワーク』のお時間です。明るく、楽しく、元気よく、DJリリーがお送りします。」
 時刻は午前四時三十分。日本列島に太陽の光が迫っているのが見える。
「いやあ。夏だね。今日も暑くなるかな? 早速一通目。ラジオネーム、いちごくんから。」
 今日も番組が軽快にスタートした。
「ちょっとここで朝一天気予報。関東地方は予報では曇りだけど、雲がないなあ。逆に晴れの北海道はちょっと怪しい感じ。」
 そう、ここは宇宙空間。私は気象衛星の中でDJをしている。
「それでは二通目。『リリーさん聞いて。八歳の娘の夏休みの宿題がおわらなくて。』」
 そういえば、ここに来て八年になるなあ。
 衛星軌道上のスペースデブリと呼ばれる『宇宙ゴミ』は宇宙開発が始まった頃から問題だった。そしてちょうど十年前に大規模な衝突事故があり、スペースデブリが大量に発生した。その結果、自動運転や地球からの爆破では対処しきれなくなり、衝突事故が多発し、システムの大混乱を招いて,更に新たなスペースデブリを発生させたのだ。このままでは衛星軌道上の利用は不可能になってしまう。そこで考えられたのが、人が直接乗り込んでスペースデブリを回避するという方法だった。そして、そのプロジェクトにデブリを研究していた私が抜擢されたのだ。
「さあ次のお便り。『私は放送一回目からのファンです。』わあ、ありがとう。」
 衛星内でのスペースは小さい。だから、私は一人で任務を果たさなければならなかった。スペースデブリとの衝突を避けるうえでの緊張は相当の体力を使う。だがそれにも限界がある。みんなの役に立っている、とは思っても景色の変わらない宇宙空間での孤独は厳しかった。そこで考えられたのがDJだ。これなら放送を通してみんなとつながれ、孤独感が減る。そして五年前から放送が始まった。「ではお待ちかね、プレゼントコーナー。」
 宇宙ならではにこだわり、いつも好評だ。今日は夏の必需品、宇宙でも使用可能な番組オリジナルのサングラス。番組も中盤、私の声も弾む。快調にテンポ良く進んでいく。
「さあ、次のお便りです。」
『ジリリリリリリリ……』
 その時、緊急警報が鳴った。
「皆さん、ちょっと待って下さいね。スペースデブリが接近しているようです。」
 スペースデブリの処理は観測したデータをインプットすることで、自動的に接近を探査して適切な方法をとって行われるのだが、稀に計算外の軌道の物が発生する。その場合、手動で対処をしなくてはならない。
「探査システムを作動させました。あっスペースデブリ確認。猛スピードで接近中。」
 大丈夫。あの大きさと数なら対処できる。探査機やレーザーの操作、回避操縦は今ではお手の物だ。次の瞬間、私は思いっきりレバーを引いた。

 「みなさん、もう大丈夫です。ビックリさせてごめんなさい。」
 全ての機械が正常に動いていることを確認して、通常放送に戻った。スペースデブリはほんの小さなかけらでも大きな被害になる。
「慣れっことはいえ、緊張しますよねえ。えっそんな感じに思えなかったって? 嫌だなあ。こうみえても気が弱い方なんですよ。」
 そう言いながら、私は何気なく開いたメールボックスの中を見て驚いた。そこには地球からの沢山のメールがあったのだ。
『もう、本当にどきどきしたけど無事でよかったあ』『泣きそうでしたよ』『これからも頑張って』
 いろいろな人が今放送を聞いてくれていて、その上心配してくれた。こういう瞬間があるからたまらない。機械の故障、通信トラブル、一人で泣いた夜もあったけれど。
「みなさん、メッセージ本当にありがとう。」
 宇宙にいても、みんなとつながっている。私は一人じゃない。
 「それでは、ラストのお便りです。」
 最後の原稿を読みながら私は考えていた。スペースデブリ対策が進んだらここの役割も終わる。もともと、最初から対策がとられていたらここにいない。そう考えるとちょっと複雑だし、不思議だ。ずっと続けたいような、それではいけないような……。
 「さあ、本日の放送はここまでです。今日も一日ファイトだ。」
 もうすでに日本列島全体が太陽の光に包まれている。今日も暑くなりそうだな、と思いながら私はマイクのスイッチを切った。

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