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21年度開催結果


2009年 作文の部<中学生部門>入賞作品
文部科学大臣賞

「いつくしみの星」
鹿児島県 鹿児島大学教育学部附属中学校2年生  野中 成淳
 
 幸せって何だろう?
 生きている喜びって何だろう?
 人類は、常に豊かさを求めて発展を遂げ、西暦二〇五〇年の今、地上は物で満ち溢れている。それでも何か物足りなさを感じているのは僕だけなのだろうか?
 地球の気温は年々上昇し、各地の気温は五十年間で約四度も上がった。海面が上昇して波で洗われた崖から古代ギリシア時代の石板が見つかった。
   北極星ノ方角ニ、我々トヨク似タ姿ノ人類ノ住ム星アリ。近頃マデ彼ラノ
   技術ハ最先端ナリ。サレド、目先ノ技術開発ニ追ワレ、今ヤ環境汚染ニテ
   滅バムトス。最後ニ残リシ男女十人、星ノ再生ヲ志ス。
 石板の文章はここで切れていた。この星がどうなったかを知りたい、誰もがそう思った。再生は成ったのか、あるいは滅びたのか。
 観測の結果、この星は意外にも太陽系のすぐ外にある星だった。すぐに探検隊が派遣され、僕は宇宙飛行士としてロケットに乗り込んだ。その中で僕はずっと考え続けていた。地球はどうなるのだろうか? あの星はどうなったのだろうか?
 あの星が近づいた。青くきれいな星だ。あの星は生きていたのだ! 隊員たちの間から歓声が上がった。星に降り立つと、早速、人々が迎えてくれた。十名から再出発した人口は、今や数え切れないほどに増えていた。僕らをその星の古老が案内してくれた。街には緑が多く、道路は舗装されていない。その道路を走っているのは、自転車とリヤカーだけだ。すれ違う人はみな、ところどころ補修されている古着を着ていた。店の看板は珍しいものがたくさんあった。『傘張り』『金物補修店』『古物商』などだ。破れた傘は傘屋が直し、穴の開いた鍋は鍛冶屋が穴をふさぎ、いらなくなった物は古物商が買い取る。この星では、何でもそれぞれの専門店で購入し、補修する。職人が大切にされているのだ。誰もが自分に誇りを持ち、生きがいを感じ、その表情は喜びに満ち溢れている。人も物も大切にされている。大量生産・大量消費がないから、スーパーマーケットもない。まるで江戸時代のような徹底した循環型社会だ。この星を再生させたのは、科学技術ではなかったのか! 「幸せとは?」「生きる喜びとは?」――僕の求めていた答えがここにあるような気がした。
 古老は、星立博物館に案内してくれた。そこの入り口近くに展示してある地層を見て、僕らは膝が震えた。二千年ぐらい前の地層に、コンピュータ、ロボット、鉄砲などの残骸が含まれている。彼は静かに語りだした。
 「約二千年前、この星は絶滅の危機にさらされた。自分たちの星や命に対するいつくしみの心のない人々が、技術開発に明け暮れて環境を破壊し、醜く殺しあったんじゃ。壊れた環境も、失った命も、元には戻らなんだ。生き残った十人の男女は再生のために再出発した。豊かさだけを求めて物を大量消費してきた過去を見直し、人、動物、植物、宇宙の全てをいつくしんだのじゃ。」 僕は彼に問うた。「でも豊かさを追い求めること自体は悪いことではないでしょう?」 彼は首を振った。「豊かさを追求するばかりじゃ、物が溢れる。すると、物を大切にする心、いつくしむ心が薄れる。物が溢れ使い捨てにされれば、人間の労働力も軽んじられ、人々は幸せになれんじゃろう。逆に、物が足りない、命がはかないということを知れば、それらをいつくしみ、大切にする心が生まれるのじゃ。」
 僕は、さらに質問した。「どうすればいつくしみの心を持てるのですか?」 いつの間にか博物館の外に出ている。彼は夜空を見上げながら答えてくれた。それは、宇宙の中での自分を考えることだ、と。
 「この広大な宇宙の中で我々がいきていけるところは〇、〇一パーセントもない。この星とこの命を恵まれたということ自体が奇跡なのじゃ。それが感じられると、かけがえのない星と命をいつくしむ心が自然に生まれるのじゃ。そのために、この星では、誰もが毎晩夜空を見上げる時間があるんじゃ。」
 帰りのロケットから見えた青くきれいな星『地球』。僕らの使命はかけがえのない地球の全てをいつくしみ守っていくことだ。地球が滅びるからという理由で仕方なくしてきた『自分勝手』なリサイクルを見直し、あの星のように徹底した循環型社会を目指していけるだろうか。古老の言った『いつくしむ心』という言葉が、僕の心の中で響き続ける。
 「宇宙から地球を見守る。」という言葉を聞いたことがある。僕ら探検隊の最大の収穫は、技術でも、未知の物質でもなく、人間がいつの間にか失っていた『いつくしみの心』を発見できたことだ。

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