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20年度開催結果


2008年 作文の部<中学生部門>入賞作品
日本科学未来館館長賞

「花びらによせて」
木更津市立木更津第二中学校3年生  吉田 祥子
 
 「立ち止まらないで。先、行くわよ。」
 そう言われて、私はハッとする。眼下に広がる地球の美しさに、見とれている場合ではなかった。
 月に派遣され早三ヶ月。時差や新しい人間関係にも慣れてきたこのごろ。私は先輩と共に、日本区域に建てられた研究施設へとやって来た。取材のためだ。
 私達は宇宙記者団の一員。地球に住む人達へ、宇宙に関する実情を調べ、報道するのが仕事だ。私と先輩は、その中の月広報部に所属している。
 前を歩く先輩の姿は、颯爽としていて美しい。これぞキャリアウーマン、という感じ。それに比べて私は、先輩についていくことだけで精いっぱい。今回の取材も、私が勉強するためについて行かせてもらっているのだ。
 取材の相手は、研究施設の所長。四十歳にもいかない年齢。意外と若いことに私は驚いたが、さすが先輩、何にも動じない(個人的にはもう少し、動じてほしい)。
 一通りの質問が終わると、先輩はトイレに行ってしまい、部屋には嫌な沈黙だけがただよっていた。所長と二人きり。
 早く来い、先輩来いーー! と念じていると所長が口を開いた。
 「新人さん、だそうですね。月から見た地球は、とても綺麗でしょ?」
 私がはい、と答えると、所長はにっこりと微笑んだ。
 「僕もそう思っています。こっちに来てからずっと、見る度にそう感じるんです。飽きないのかって、よく言われるんですが。」
 そう言って所長は、苦笑した。
 きっとこの景色を見たら、皆、ゴミなんて出したくなくなりますよーー。そう言う所長の目は、真剣だった。
 先輩が戻ってきて、所長と共に廊下へ出た。あとはお礼を言って、帰るだけだった。だが、先輩の目が、ある一点の場所しか見えていないことに気がついた。
 あれは何ですか、と先輩は訪ねた。私と所長はその指の先を見て、何のことを聞いているのかわかった。屋外に、ドーム型のビニールハウスがある。
 あれは桜の木です。と所長が答えると同時に、先輩は走り始めた。私もその後を追いかける。それにしても速い。先輩と私との間がどんどん開いていく・・・・・・。
 少し体力をつけよう、と私が考えていると、前に先輩の背中が見えた。追いついたのだ。
 「あんた、カメラ持ってるよね?」
 先輩が言った。撮れ、と言うことらしい。言われなくても、そうするつもりだった。すぐに動かなかったのは、見とれていたから。
 無我夢中で撮り、私の気が済んでカメラをしまうと、先輩はふり返った。そして私もふり返る。いつの間にか、そこには所長が立っていた。
 「ソメイカグヤ、という品種の桜です。先週満開になったんですよ。」
 屋外にあると思っていたドームは施設と廊下でつながっていた。静かに舞う花びらは白く発光しているように見えた。ドームごしに見えるのは、水の惑星。
 何で私達が取材してるか、わかる? と、先輩は聞いてきた。私が曖昧に答えていると、笑って教えてくれた。
 「私はね、宇宙と自然と生物の素晴らしさを、教えるためだと思う。神秘的なところも。そして地球を再確認させるのよ。自分達も同じ宇宙にいるっていうこと。同じ神秘の中にいるって、教えてあげなきゃいけないの。」
 そうしないと、また壊し始めるから。呆れたように笑う先輩は、やはり美しかった。
 帰り際、いつものように先輩の後ろを歩く私は、ふと訊ねてみた。この景色、見ていて飽きますか、と。
 「飽きるよ。早く月が見たい。」
 先輩はいつもの調子で、そう答えた。
 地球は蒼く輝き、白い雲をまとっている。そこに住む人々が月に希望を抱くように、私達月の住人も、地球に希望を抱いているのだ。と、いつか知ってほしいと思った。
 ソメイカグヤの花びらによせて。


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