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19年度開催結果


2007年 作文の部<中学生部門>入賞作品
(財)日本宇宙少年団理事長賞

「天ゆく月」
交野市立第三中学校2年生  岡田 哲志
 
 「ふーっ。締め切りはいよいよ来週か。明日中にはこの原稿をポストにいれなければならないな。」
 実はこの原稿というのは、月面基地計画案コンテストに応募するためのものだ。書き始めた頃は、セミが鳴いていたのに、今はすっかり秋だ。その時ふと机の端にあるメモ用紙に目がとまった。それは懐かしいことに、案を考え始めた頃のメモだった。
                        月面基地計画案
 月面基地は大きく分けて、三つの棟を考えている。栽培棟、医療棟、研究・居住棟だ。
 栽培棟・・ベジーネ(米と野菜を掛け合わせた物)、ダイージ(宇宙の肉と呼ばれるぐらいたんぱく質が豊富な豆類)をここで栽培。これはつい最近僕が品種改良を重ねた上やっとできた植物だ。太陽の光だけで育つので、栽培が簡単で、しかも味も抜群だ。今後地球や月、他の天体でも栽培が普及していくだろう。
 医療棟・・医療施設はもちろん、健康管理のための運動施設「地夢ーン」が設置されている。ここでは室内の重力を自由に調節でき、またその人にあった、適切な運動ができるようになっている。
 研究・居住棟・・ここの特徴は会議室だ。会議といっても、遠く離れた相手とも3D立体映像で写しだされるため、向き合って会話しているような臨場感あふれる会議ができる。ここならきっと星の数ほどのアイデアが生まれるはずだ。これは僕の友達のMr.カグヤ氏が開発した自慢の機種だ。
 「考えをまとめるのに結構苦労したけど、自分では満足かな。おやこれは何だろう?」
 僕はふとメモの裏側を見た。そこには、平安時代の安倍仲麿と藤原道長の歌が書いてあった。そういえばこれは、自分の好きな月にまつわる短歌を書いたんだっけ。
    天の原ふりさけみれば春日なる
           三笠の山にいでし月かも(安倍仲麿)
    この世をばわがよとぞ思う望月のかけたる
           こともなしと思えば(藤原道長)
 昔の人はいろんな思いで月を眺めていたんだろうな。今はどうだろうか? 嬉しい時も悲しい時も、いつでも地球上のどこでも月だけは肉眼ではっきりと見ることができる天体だ。またそういえば昔は月明かりで本も読んだと聞いたなあ。最近は忙しくてあまり月を見ることもなかったっけ……。
 その時僕は自分の案の中に大切なことが抜けていることに気がついた。そうだった。僕たちは空に月があることをあたり前のように過ごしているけれど、地球の人類と月は昔からとても深く関わっていたんだ。月を頼りに生活をし、また月にいろんな思いを託し、心の支えとして生きてきたのだ。今まで僕は月に対し物理的に役立つことしか考えていなかった。僕の月面基地計画案も同様だ。もちろん月面基地を建設することは、人類の発展に役立つだろう。しかしそれによって、地球から見た月の姿が変わってしまうのは本末転倒だ。そこで僕は、月面基地計画案の中に地球と月の環境をずっと守り続ける『月景観・環境保存法』という案をぜひ取り入れるべきだ、と考えついた。原稿をもう少し書き加えないとだめだな。僕はさっきのメモに月景観・環境保存法の概要をまとめた。
●月面基地はできるかぎり地球から見た月の裏側に建てる。表側に建てる必要がある場合は、太陽の光の屈折による変化率を3%以内となるように設計する。また基地から出る光が直接地球に影響を及ぼさないようにする。
●地球から見た月の様子が変わらないようにするため、月の表側に建物を建てる場合、その屋上は月の砂を敷き詰める。
●月を観光する場合、周囲から見るのはよいが、着陸は禁止とする。
●月は地球の環境を観測し、また地球は月の環境を観測しあう。お互いに、そのデーターを交換し合い、環境を保護するのに役立たせる。
●月で働く人は、地球の環境を理解し環境保全に取り組んでいる人とする。なぜなら自分の住んでいる地球の環境も理解できないなら、他の星の環境を守りながら仕事をするのは無理だからだ。
 これでよし。これで月の景観や環境は保てるはずだ。科学の力は、人類を発展させるのに大きく役立った。しかし、そのために多くの地球の自然が破壊されたことも事実だ。自然がつくったものは人間の手でつくることはできない。だから、この自然をありのままの形で後世に残していくことも、これからの科学の役割だろう。
 そういえば今日の月は、十三夜だ。世界中の歌人や詩人や科学者が眺めた同じ月を、久しぶりに僕もゆっくり眺めながら、原稿を書き加えよう。


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