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19年度開催結果


2007年 作文の部<中学生部門>入賞作品
国立天文台長賞

「月面基地」
大阪教育大学附属池田中学校3年生  赤穗 知郁
 
 今朝、チカは目覚めると、早速、天体望遠鏡で月を眺めた。白い下弦の月が南の空に浮かんでいる。望遠鏡では月の『静の海』に黒い点がぽつんと見えるのだが、そこにはリエが滞在している月面基地がある。望遠鏡でその場所を眺めた後、パソコンを開くと、リエからのメールがついさっき届いていた。リエからのメールには、こう書いてあった。
「チカ、おはよう。月からは地球がきれいに見えるよ。月には空気や雲がないから当然だけどね。地球が半月、いや、半地球に見えるということは、地球から見える月も半月だね。今こっちは昼休みなんだけど、さっき日本が明るい方に出てきたから、そっちが朝になったのがよくわかるよ。いよいよ来週、月に来るんだね。楽しみにしてるよ。」
 リエとチカは双子で、二人とも小さいころから天文学者になりたくて、同じ大学で宇宙工学を研究し、そろって宇宙研究所に入所した。そして、世界各国が国際宇宙ステーションの完成後、共同で進めていた月面基地建設プロジェクトの日本チームのメンバーに選ばれたのだった。二人がチームに入った時、すでに月面基地の最初の建設は始まっていて、二人が宇宙飛行や月面生活の訓練を受け終わった時には、月面に長期滞在できる最初の設備ができ上がっていた。
 月面基地での各国からのメンバーの仕事は大きく分けて二種類あり、一つは基地の建設を進める建設グループ、もう一つは月面での様々な科学的観測の仕事をする研究グループである。リエとチカは研究グループの所属で、一人が月面で観測データをとり地球に送る仕事、もう一人が地球でそれを分析する仕事を交代ですることになった。
 国際宇宙ステーションには、毎週スペースシャトルが往復し、乗組員も半数ずつ二週間交代が普通になり、研究者は必要なだけ滞在できるようになっている。しかし月面基地は最近できたばかりで、ロケットも二ヶ月に一便しか行かないため、二ヶ月か四ヶ月滞在して交代する。日本の研究者は二ヶ月で交代し、地球に戻ったら健康診断の精密検査を受け、医学的なデータを提供することも任務の一つである。
 リエとチカは、リエが先に月に行き、来週で二ヶ月になる。つまり月へのロケットが飛ぶのである。チカはそのロケットに乗って月へ行き、リエと交代して、来週から二ヶ月間、月に滞在するのである。月ではロケットの帰還前の点検や燃料の補給に約三日間かかるので、その間に交代メンバーは仕事の引継ぎをすることになっている。リエとチカは初めて三日間一緒に月で過ごすことになるので、二人ともとても楽しみにしているのである。
 チカは来週の出発に向けて毎日忙しいが、初めての月旅行がとても楽しみで、疲れを感じることはなかった。でも長時間の飛行には体調を万全にしておくことが大切なので、健康管理にはとても気を遣っていた。食事、睡眠、運動、そして月から送られてきたデータの分析で毎日があっという間に過ぎ、いよいよ月へ行く日がやって来た。
 一方、リエは月に来てもうすぐ二ヶ月が経とうとしているのだが、チカがやって来て、地球に帰る日が近づいて来たと思うと、少し感傷的な気分になった。月に来たころ地球を見て感動したこと、電子メールでチカや研究所の人たちとやりとりしていると月と地球に分かれているのが不思議な気がしたこと(これは今でも変わらない)、初めて宇宙服を着て建物の外に出て月面を歩行したことなど、地球では想像できなかった体験ができた。月面基地では毎日のでき事をまとめて電子メールで報告することになっているが、リエはそれ以外に自分の日記もつけていた。いよいよ明日チカの乗ったロケットが地球を飛び立つという日、リエは二ヶ月前からの日記を読み返した。それは、三日間の仕事の引継ぎの合間に、チカにどんなことを話すか考えるためでもあった。
 いよいよチカの乗ったロケットが月面に到着し、二人は月面基地で再会した。二人ともつい昨日別れたばかりのような感じで、二ヶ月も離れていたという気が全然しなかったことに驚いた。それは二人が双子であるということもあるが、日々、写真や動画つき電子メールで会話をしていたためだろう。
 三日後、チカは、リエを乗せて宇宙に飛んで行ったロケットを見ながら、いよいよ始まる月での生活に胸がわくわくしてきた。地球では月は細くなり新月になる手前であったが、月から見た地球は逆にもうすぐ満月、いや満地球になろうとしていた。


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