「一般財団法人日本宇宙フォーラム」トップページへもどる 「宇宙の日」ホームページへ戻る
「宇宙の日」ホームページ

 

19年度開催結果


2007年 作文の部<中学生部門>入賞作品
文部科学大臣賞

「月と地球人の望み」
奈良市立伏見中学校2年生  猪川 真琴
 
 月まで五時間で行ける大型の高速ロケットが開発されると、地球人は月に無人の大工場を作ろうと考えた。環境に配慮しなくてすむからだ。月の環境も考えるべきだという意見もあったが、大多数の人間は地球環境が悪化せずしかも経済的なこの計画に期待した。そこで、月面の測量調査を行なうため、私達数名が測量ロボットへの指示・集めたデータの分析と地球への送信等の作業をすることになった。月面の激しい気温差をさけるため地下に作られた小さな基地の生活は、料理ロボットや多機能ロボット・パピコやペットロボット・ウサのおかげで快適だった。兎のぬいぐるみに本物の兎の観察データを入れた人工知能をつけて私が作ったウサは基地の人気者だが、ある日基地の外に逃げ出してしまった。すぐにパピコが追いかけて連れ戻したのだが、その時水晶の勾玉も拾ってきた。ウサが掘った穴の中で見つけたという。同じ頃、人工的と思われる広い地下空間を示すデータが見つかった。ISSの横に作った文化財保管庫にいた考古学者が駆けつけてきた。彼をリーダーに私達が地下空間に潜り込むと、そこはパルテノン神殿のような大広間だった。調和のとれた荘厳な凜とした美しさに皆息をのんだ。この大広間を中心にたくさんの広間や部屋があり、その中に膨大な数の本が置かれている部屋があった。本の背表紙に書かれている文字は、あらゆる言語を読めるはずの通訳ロボット・訳太(ヤクタ)でも読めなかった。だが、私が何気なく選んだ本は古い漢字で書かれていて、訳太がすらすら読めた。日本書紀のようだ。最後のページに「王の娘かぐやが地球で書き写す」と書いてあり、不死薬と印された紙に包まれた少量の粉薬が挟まっていた。かぐや姫? 誰が作ったの? 本物? 謎は山ほどあった。ただ、私達数名では調査しきれないほど巨大な地下宮殿だということははっきりしていた。
 地球から専門家が来て本格的な調査が始まった。絵・彫刻・機械仕掛の扉・宮殿の設計等、どれも高度な技術がないとできない物ばかりで、不死薬の信憑性が高まった。不死薬の製造法の発見に人類の期待が集まり、宮殿の調査と膨大な書物の解読に全力が注がれることになった。世界中の全ての国や地域から研究者がやって来た。この世紀の大発見からとり残されたら困ると考えた各国が、研究者を争うように派遣したからだ。調査が進むにつれ、世界各地の古代文字、ワープ装置の設計図や元素の周期表らしき物、ナスカの地上絵と同じ図などが見つかった。解読には世界中の知識が必要だった。謎の究明に全力を尽くしているうちに、研究者達は自然と協力し合うようになっていった。地球では長年争い続けている国々の出身者もいたのだが、月での研究はそんなことを全て忘れさせた。どの国にも属さずどの国の影響も受けず研究は進み、月の高度な文明が徐々に解明されていった。
 地下宮殿発見から五年後、やっと不死薬の材料らしき物がわかった。クロサイの角・日本のトキの羽・タイマイの甲羅・タカヘの卵・アムール虎の肝・百年に一回だけ咲く花の蜜。地球人は慌てた。必要な材料となっている動物は絶滅危惧種ばかりだ。このままでは製造法がわかっても材料が集まらない。それらの動物を増やさないと。花だってまだ特定されてはいないが、密林の奥地にでもあるのだろう。どの国も不死薬が欲しいため、全世界が一致団結して環境や生態系の保護に取り組んだ。戦争や環境破壊の遠因である貧困にも、様々な対策をたてた。月の技術も取り入れ、協力し、努力し、工夫した。十年ほどで、CO2排出量が産業革命前のレベルまで減り、世界中全ての地域で自然環境は驚くほど改善された。日本では絶滅したと思われていた野生のトキが発見され、手厚い保護によりその数は増え続けている。月には一時間で行けるようになり、月基地には研究室や会議室などが増設され、あらゆる分野の研究者が大勢集まり、活発な意見交換が行なわれている。月は最先端の学問をリードする学術都市になった。
 月での研究により、自然環境が改善されただけでなく、ワープ航法が開発され他の星との交流が始まった。細胞を活性化させる物質も発見し寿命が大幅にのびた。他にもたくさんの役に立つ技術が開発され、今も月では様様な研究がなされている。不死薬の材料の花を特定する研究も続いているが、地球人の関心は薄れている。月の文明が滅んだ原因がその花を巡る争いだったらしいとわかったうえ、人間は地球の生き物の中で特別な存在ではないと感じるようになり、他の動物を犠牲にして不死薬を作ってはいけないと思ったからである。月は多くの知識だけでなく、省みる心も与えてくれた。地球人は月に感謝し、かつ、それらをずっと貰い続けたいと願った。同じ誤ちを繰り返さないようにすれば、地球は宇宙一すばらしい星になるはずだ。地球人は明るい未来を築くために努力も協力もできるから。

もどる