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19年度開催結果


2007年 作文の部<中学生部門>入賞作品
(財)日本宇宙フォーラム理事長賞

「かぐや -みんなの願い-」
福島市立北信中学校2年生  菅野 翔未
 
「KAGUYA、KAGUYA。」
 満月の夜、窓辺で一人まどろむ私の前に、突然月うさぎが現れた。
「私は翔未(なるみ)よ。カグヤじゃないわ。」
「でも、あなたの名前は未来に羽ばたくって意味でしょ。今がその時です。さあ、かぐや一緒に月に行きましょう。」
 月うさぎがそう言いながら、赤い目をクリクリさせ、興奮して私の腕に跳びのって来た。
 月うさぎの名前はコム。深呼吸をして落ち着くと、困惑する私に語り始めた。
 五十年前、地球から一つの月探査衛星が打ち上げられた。名前は「かぐや」。
「かぐや」によって、月の謎が明らかとなり、世界各国の宇宙開発計画が勢いを増した。
 アメリカでは月を火星探査の中継基地に、ヨーロッパでは水星探査のミッションに、日本は月に宇宙天文台を造り、新しい星を次々に発見。月は宇宙開発第一ステーションに発展。各国の協力で宇宙開発は順調に進んだ。
 しかし最近、宇宙法を無視し新しい星の所有権争いや異星人とのトラブルが多くなった。
 月うさぎコムは話を続けた。
「かぐや、明日月の地下都市で開かれる月うさぎ集会に参加してください。その様子を全宇宙に中継して、人間に宇宙平和を呼びかけるのです。忘れられた宇宙開発最初の志を思い出してもらえれば、宇宙平和は実現できます。」
 そう訴える月うさぎコムの赤い目から、大粒の涙がポロポロと落ち、キラリと光って夜空に散った。
 はるか昔から私たち人間と月の結びつきは密接で、月は夜の暗闇を明るくしてくれる大切な存在だった。しかし今、月の光が人の心に与えた純粋な宇宙への憧れやロマンは、科学の力で進んだ宇宙開発で忘れ去られてしまったのだ。月に住むうさぎやかぐや姫の話も。
「でも、なぜ私がKAGUYAなの?」
「それは、五十年前の月探査衛星にあなたのマサキお爺さまが託された「月への願い」を読んだからです。」
 月探査衛星「かぐや」は、たくさんの人の「月への願い」を載せて打ち上げられていた。
「お爺さまは何て願っていたの?」
「全宇宙が平和でありますようにと……。」
「科学者だったマサキお爺さまらしい言葉ね。」月の光が笑みのこぼれた私の顔を照らしだす。
 マサキお爺さまは、地球の環境破壊をくい止め地球を滅亡から救いだした科学者の一人。
「これからは、科学技術の進歩に合わせた、人間のモラルの進歩も忘れてはならないよ。」と、いつも私に話してくれた。
「いいわ。行きましょう。私で役に立つのなら。お爺さまの思いを伝えてみるわ。」
「ありがとう!」
 嬉しくて月うさぎのコムが、私の顔にほおずりをした。そこから一筋の光が放たれ、月までたちまち延びていった。すると、その光に沿って月から金色の宇宙船が私を迎えに降りてきた。
 何年かぶりの月は宇宙開発が進み、月面の姿はすっかり変わっていた。岩石を採掘するため、クレーターの形が変わってしまったのだ。月うさぎの地下都市は、そのクレーターの三十キロ下にある。まるでカッパドキアのような穴が上下左右に巡らされていて、不思議な造りだ。超合金で造りだした冷たい月面基地とは違い、月の光のような温かみがある。
 私は今晩、コムの部屋に泊まることにした。コムの話をいろいろ聞きたかったからだ。
 月うさぎは、昔から地下都市に住んでいたけど、宇宙開発が進んでからは、ますます月面に姿を見せることは少なくなり、姿を変える月面の姿を見守るだけだったと、コムが話してくれた。初めてアポロが月面着陸を果たした頃の人間の月への夢や願いが、どんどん忘れられ、姿を変える月を見るのが、コムにはどんなに辛かったことだろう。
 翌日、私は宇宙放送で全宇宙に訴えた。
「皆さんは、子どもの頃月にどんな願い事をしたか覚えていますか。人間は科学の力を信じるあまり、自分自身の力を過信してしまうことがあります。そんな時、月を見上げて子どもの頃の願い事を思い出してみてください。「夢や願い」を実現するには、自分の努力はもちろん必要ですが、その「夢や願い」が大きければ大きいほど、多くの人の協力が必要です。皆さん、今みんなが望む宇宙平和のために必要なのは争うことではなく、みんなで助け合い、協力することなのです。」
 私がありったけの声を振り絞り叫び終えた瞬間、コムが私に抱きついてきた。モニターは割れんばかりの共感の拍手をおくるたくさんの星の人々を映し出していた。大成功だ。
「KAGUYA万歳!」
 コムがピョンピョンと月うさぎダンスをした。
 嬉しそうなコムを見ながら私は呟いた。
「KAGUYAはみんなの願いだったんだよ。」


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