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19年度開催結果


2007年 作文の部<中学生部門>入賞作品
宇宙航空研究開発機構理事長賞

「月でもらったプレゼント」
坂井市立丸岡中学校1年生  上坂 賢司
 
 いよいよあの丘を越えればこのプロジェクトの目的は果たされる。月の地表の温度は一二〇度。太陽からの宇宙線も宇宙スーツを突き抜けるほど強い。スーツの重さは地球の六分の一のはずだが今はまるで鉛のようだ。
 人類移住計画が始まって三年。移住計画には月面の詳しい地図を必要としたが、どうしても月の裏側の一ヵ所に不明な場所があったのだ。あの丘を越えればいよいよ地図が完成できる。調査隊を拒んでいた月の荒野も、ようやく僕たちを受け入れてくれたようだ。
「隊長。町です! 町があります! そ、それも町だけでなく……。」
 月に文明が存在しないことは子供だって知っている。どうやら調査隊の疲れはピークに達しているらしい。だが報告を受けた以上確認するのが僕の仕事だ。─トントン─。丘を登ろうとする僕は肩をたたかれた。
「とうとう見つかってしまったようじゃなあ。せっかく来たんじゃ。まあ家に来てお茶でも飲んで行きなさい。」
 僕の頭はフル回転で働いた。地球から平均三八万四四〇〇キロ離れた月は、二七.三二日をかけて地球を一周し、二九.五三日周期で地球から見た満ち欠けを繰り返す。これは間違いない。月の直径は地球の直径の約〇.二七倍で、その重力は地球の六分の一。これも間違いない。重さは……えーっと……。ともかく月に生物はいないし、文明も町もあるはずがない。僕は知識を総動員させて落ち着きを取り戻そうとした。
「よく勉強しとるのお。なかなか感心じゃ。じゃが自転と公転周期の関係が抜けておるぞ。」
 夢ではない。確かにいる。人間そっくり。いや人間以上に人間を思わせる、人間の見本のような生き物が。人なつこい顔。大きなお腹と白いあごヒゲ。宇宙スーツと思われる赤い服には白線で縁取りがされている。以前どこかで会ったような気もする。隣にいるのはトナカイ? ならば正解はサンタクロースか?
「わしらは月の裏側に住んでおる。月が地球を一回りする周期と、月が自転する周期は同じじゃろう。 つまり月はいつも同じ面を地球に向けていることになる。地球から観察しても月の裏側は永久に見る ことは出来ないのじゃ。それにわしらは恥ずかしがり屋じゃからのお。」
 僕はおそるおそる聞いてみた。
「あのお~~本物のサンタクロースですか。それとも宇宙人??」
「何をいっとる。わしの名前はセント・ニコラウス八世。正真正銘のサンタ星人じゃ。お前さんも昔わしらの世話になったことがあるじゃろうが。」
 僕の親類にサンタクロースはいない。友人にもいないし、クラスメートにもたぶんいなかったと思う。
「まあよい。知らないことは知ればいい。何事にも始まりがある。自然数が一から始まるのと同じようにな。」
 丘に登りサンタの町を見ると、子供のサンタ、若者のサンタ、老人のサンタ、様々なサンタが、帽子をかぶり例の赤いユニフォームを着て工場でくるくる回るように働いている。
「わしらの仕事は子供たちにプレゼントを配ることじゃ。だからクリスマスを控えた今は大忙しなのじゃよ。」
「わしらは恐竜時代から地球を見てきたが、最近の人間は純粋に他人に尽くすことを忘れてはおらんか。サンタ星人は全てを知り尽くした大人として生まれ、時間とともに知識を捨てて子供になる。つまり赤ん坊のように純粋になることが生きる目的なのじゃ。」
 赤ん坊になったサンタ星人は最後にどうなるか僕は聞いてみた。
「決まっておる。わしらは赤ん坊になると、シャボン玉に変わり、パチンとはじけて消えるのじゃ。」
 そう言うとニコラウスはうれしそうに笑った。
 考えてみると、今の地球には他人のために尽くすという考え方はとても少ないように思う。人類移住計画が生まれたのも「自分だけが」という考えが、科学と結びついて地球を汚してしまったからだ。
「わしは科学を用いてはいかんと言っているのではないぞ。進んだ科学だから残せる環境もあれば救える命もある。大切なことはやせ我慢よりも、少しだけ隣の人のことを考える余裕を持って欲しいということじゃ。世界はずいぶん変わるものじゃぞ。」
 確かに僕もそう思う。科学の発達が公害に関係したとしても科学には心がない。科学を用いる人間の心が全てを決めるのだ。
 月に住むサンタに教えてもらったこと。それは未来を変える大きな可能性なのかも知れない。僕はサンタクロースから素敵なプレゼントをもらったような気がした。


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