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19年度開催結果


2007年 作文の部<小学生部門>入賞作品
(財)リモート・センシング技術センター理事長賞

「メディカル・ムーン -医りょうの星-」
鹿児島市立田上小学校6年生  野中 成淳
 
 ぼくには、ある願いがある。それは、科学の発達が人類の幸福のためにだけ使われるようになることだ。核兵器・環境汚染など人類に不幸をもたらすものでなく。
 ぼくが、三十代の頃に月立(つきりつ)宇宙病院に来てから二十年がたち、今ではここの院長だ。これまで多くの薬を開発してきた。中でも、最初に作った薬は、忘れられない。ぼくには、左手の小指がない。爆発の時に失ったのだ。それは、悲しい記憶の傷だ。
 二一〇〇年、人類は月への移住を果たし、月立宇宙病院も建設され、重要な医学基地になっていた。ぼくユウキは地球で医者をしていたが、当時、重要な任務があって月の病院に移った。その任務とは、当時治りにくいと言われていた、がん、白血病、糖尿病、脳卒中、心臓病を治すための薬を開発することだ。その仕事の中で、小指を失ったのだ。
 当時三十代だったぼくたちは、エネルギッシュだった。まず月の地下に実験室を作った。重力や温度の影響を受けないためだ。地球にはマントルがあるので中心部まで掘れないが、月は冷えて固まっているので中心部まで掘れる。月の中心は、全方位からの重力がバランスよく働いていて、無重力に近い。
 三千キロメートル掘ると、月の中心にたどり着く。機械を使って穴を掘っていた時、ノナマリンという地球にはない新しい物質が出てきた。それは、どんな固形物もゆう合させる、その時のプロジェクトにぴったりの物質だった。地球から金、白金、硫酸を運んだ。これで準備は整った。
 ふと病院の窓から外を見た。そこには、青い地球があった。それを見た時、ぼくは地球に残してきた家族を思った。弟はがんで入院していて、母も白血病だ。こんな人を一人でも治すために、ぼくは医者になったんだ。ぼくが薬を作れば、弟や母をはじめ、たくさんの人が救われる。
 薬を作り始めた。月の中心の実験室にノナマリン、金、白金、硫酸を運び込み、さまざまな器具を使って調合した。三年がたち、当初五十人いたスタッフもけがや病気で次々に脱落し、主要メンバーで残ったのは、ぼくユウキと親友のゲンキとコンキだけだった。三人とも全身傷だらけだ。それでも地球から、がんなどをなくしたかった。
 しかし、完成させるには、どうしてもこえなくてはならない試練があった。それは、ノナマリンと金は、ゆう合するときに爆発することが後になって分かったのだ。どの程度の爆発が起こるのか、見当がつかなかった。運を天に任せるしかないのか。
 機械化するという意見が出たが、そのための機械を開発して地中に埋め、ゆう合できるようにするには三年もかかる。その間に、一千万人の患者が死ぬ計算だ。そこで、会議を開いた。結論が出ずに時間が過ぎていった。
 「ゆう合の作業はぼくにさせて下さい。」
 そう言ったのは、ゲンキだった。ゲンキは話し始めた。ゲンキには、がんで死にそうな友達がいる。ゲンキががけから落ちそうになった時、その友達に助けてもらったのだ。命の恩人だ。その友達は余命一ヵ月と宣告されている。その命は、ぼくたちの新薬が間に合うかどうかにかかっていた。
 「だから、どうしても、助けたいんだ。」
 「だったら、ぼくも行く。ぼくだって、母や弟を助けたいんだ。」
 そして、ぼくとゲンキの二人で、薬の完成を目指すことになった。コンキは、管理センターで、ぼくたちを見守る。
 実験室に着いたぼくとゲンキは、さっそく金と白金と硫酸の溶けた液に、ノナマリンを入れた。その瞬間、バーンという音がひびいた。ぼくは死んだんだなと思った。
 気づいたら実験室にいた。見事、物質はゆう合し薬は完成していた。ぼくは生きていた。前には、ぼくをかばうように手を広げたゲンキが倒れていた。ゲンキは死んでいた。ぼくは、しばらく泣いた。でも、うかうかしていられない。ゲンキの死をむだにしないためにも、ゲンキの友達の命を助けなければ。
 ぼくとコンキはさっそく薬を地球に送った。ゲンキの友達、ぼくの弟や母が奇跡的に回復した。不治の病と言われていたものが次々に治っていった。地球上は、喜びの笑顔であふれた。五年後、がん、白血病、糖尿病、脳卒中、心臓病は地球から消えた。人類の平均寿命は百さいを超えた。それから、地球の人々は月のことを、「メディカル・ムーン -医りょうの星-」と呼ぶようになった。ぼくは、月立宇宙病院の院長になった。院長室には、もちろん、ゲンキの写真がかざってある。
 この地球上に病気があるかぎり、ぼくは薬を作り続ける。ゲンキのように自分の命をかけてでも人類に幸せをもたらすために。


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