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18年度開催結果


2006年 作文の部<中学生部門>入賞作品
(財)日本宇宙フォーラム理事長賞

「僕たちのエネルギー」
坂井市立丸岡中学校3年生  上坂 宣基
 
 誰にも地球を去ることは知らせなかったけれど、彼はやっぱり来てくれた。ここは南極の宇宙ターミナル。白い息と一緒に言葉が凍りついていく。
「君には本当に世話になったね。地球での思い出は僕の一生の宝物だよ。そしてN君、僕は君のことを決して忘れないよ。」
「ありがとうメテオ。いつまでも元気で。僕も君のことを決して忘れないよ。」
 すでに家族が乗り込んでいる隕石ロケットは発進準備に入り、かすかな唸りを上げている。(隕石ロケット。この巨大な宇宙船の特徴は隕石の重さを活かしたもので、質量そのものを推進力に換えるエンジンだ)
 思えば、僕たち家族が交換留学生として地球に来たのが五年前。社会学者の父と料理研究家の母が希望した留学だったが、僕も地球に来てずいぶん大人になれたような気がする。
 交換留学制度。互いの星の考え方を学び、交流を深めるために作られた制度だが、異なる文化を理解するには友情と忍耐とが試される。僕は地球に到着したその日に、N君とケンカになってしまった。
「N君それは違うよ。隣人を幸せにすることが一番に尊いことなんだ。力のある者は力のない者を助け、助けられる者は助けてくれる者を信頼する。強い者も弱い者も互いを必要としあい、その価値に違いはないんだ。」
「メテオ、それは君の星での常識だろう。地球では、人は自分をしっかりもって、自分を高めるための努力こそが一番大切なんだ。自分を鍛えて自分を強くする。自分の夢に向かって自分の足で歩く。これが地球では絶対に必要な事なんだ。」
 確かにN君の言うことは正しいことだと思う。でも努力だけが全てじゃないはずだ。強いだけが全てじゃいけないんだ。僕はうまく言い返すことが出来ずに黙り込んでしまった。
 そして、それからの地球での暮らしは、N君の言葉通りに驚きとストレスの連続だった。一日が競争で始まり競争で終わる毎日。自分の努力がいつも評価され、追いかけられているような緊張感。僕は恐れと不安とでクタクタになって、だんだんと無口になっていった。
 そんな落ち込んでいる僕に声をかけてくれたのもN君だった。
「空から落ちてきた宇宙人がそれ以上落ち込むなんて似合わないぜ。お前が元気じゃなきゃ退屈でつまらないや。どうでもいいけど早く元気を出せよ。」
 少し乱暴だけど、N君らしい励ましの言葉に久しぶりに僕は笑ったような気がする。
「N君、こうして丘に登って地平線を見ていると、故郷の星も地球も変わらないような気がするから不思議だね。」
「そうさ、星は違っても生物は星に暮らし、星に守られて生きていることに変わりはないからな。」
「僕たちの星では隣人を幸せにすることが一番大切なことだけど、それは僕たちが強い意志をもって決めたことなんだ。」
 ためらいはあったけど、僕は思い切って自分の星の歴史を話すことにした。
「昔、僕たちの星で戦争があったんだ。それは、少なくなった星の資源を奪い合うひどい戦争だった。そしてその戦争に使われたのが、科学技術と相手を力で支配する考え方だったんだ。それは『正義の戦争』と呼ばれているけれど、戦争が終わり残ったものは、荒れた土地とわずかな命、そして、すさんだ人の心しかなかった。」
 僕は一呼吸おくと、ゆっくりと話を続けた。
「そして、先祖は荒れた土地に涙を流して誓ったんだ。もう決して科学技術を争いに使わないと。その誓いは今も破られてはいない。たしかに星の資源は使い果たしてしまったけれど、今は心の力をエネルギーに変えることで僕たちは生きているんだ。友情の心は光のエネルギーに変わり、信頼の心は運動エネルギーに変換することが出来る。正義の心は熱源となり、勇気の心は電気へと変わる。科学技術も、技術を生み出す人間の努力もすばらしいと思う。でも、どんなに技術が進んでも、人を思いやる気持ちがなければ、それは空しいものだと地球のみんなに気づいて欲しいんだ。」
 僕の言葉に君は大きくうなずくと、僕たちはそれっきり何も話さなくなったね。僕はあのときの沈黙の中に、君の優しい心と地球を愛する君の強さを感じたんだよ。僕は信じるよ。一人ひとりの心の中に優しさがある限り、地球はいつまでも美しい星だと。
――隕石ロケットのエンジンの唸りが一段と高くなった。――
「メテオ、ここでお別れだね。」
「ああN君、ここでお別れだね。」
 地球での五年間。僕の大切な五年間。ありがとう地球、そしてありがとうN君。


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