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18年度開催結果


2006年 作文の部<小学生部門>入賞作品
日本科学未来館館長賞

「双子の星」
岩手大学教育学部附属小学校4年生  三船 恭太郎
 
 いよいよ今日だね。恭太、私は君と初めて会ったあの日を昨日のことのように覚えているよ。全てはこのワープボールから始まった。目を閉じ、半分に割れたワープボールを握ると、手の中で一瞬、青く光った。今から五十年前のあの日のように――。
 ぼくの名前はキョン。年は十歳。家族は両親とぼくの三人。ぼくの住む星の名は、スプリングスター。太陽と似た恒星の周りにある惑星の一つで、絶えまなく命が芽ぶく緑に輝く星だ。地球の子供と同じようにぼくも学校に通っていて、地球について学んだ。太陽系唯一の文明を持つ惑星で、たくさんの生物がくらしているが、環境破壊が進んだ危険な星なので、接触してはいけない。本来ぼくらの星と地球は、同じ時期に生まれた『双子の星』なのだが、地球はぼくらの星の存在を知らない。その地球に降り立った、第一号がこのぼくだったなんて、今でも信じられないよ。
 ワープボールは、移動に使う道具。十歳から練習を始めるが、気持ちを集中させ意志を強く持たないと動いてくれない。星の中で訓練が終了すると、親と共に遠くへの旅を許される。旅の目的は二つ。一つはこれまで育ててくれた親へのお礼。もう一つは星の外へ出て、宇宙の未来を考えるためだ。旅には、ぼくらの星の法律に基づいた約束事がある。旅先の星に着陸してはいけない。万一、事故で着陸してしまっても、生物を取ったりその星の文明に干渉したりしてはならない。相手を守るだけではなく自分達の星を守るためのルール。行く先の多くは太陽系。ぼくは火星を選んだ。忘れもしないあの日、出発の時がやってきた。
 ワープボールは緑に光った。光に包まれたぼくらが宇宙の闇を漂いながら振り返ると、ぼくらの星は手の中のワープボールのように小さく見えた。もうすぐ火星が見えてくるはずだが、目の前に現れた青い星、あれは地球だ。そこから記憶はとぎれ、気が付くと緑に囲まれた公園にいた。見なれぬ道具を押しながら近づいて来る人がいる。あわてて光を失なったワープボールをポケットにかくした。
 恭太、君のキラキラした瞳を覚えているよ。
「いっしょに遊ぼうよ。」
 君の瞳にすいこまれるように、うなずくぼく。あの道具は『自転車』という乗り物。君は乗れないぼくの後ろを支え、早口で自己紹介した。偶然にもぼくと誕生日が同じだった。夢中になって自転車をこぐぼくは、心配顔の両親、学校で学んだ地球のこと、旅の約束、全てを忘れていた。本当に楽しかった。今度はぼくが話す番だ。自分のこと、なぜ今地球にいるのか、そしてスプリングスターの話をした。
 「ぼくの星には移動用の乗り物がない。ワープボールの発明が早かったからね。だから、道路や燃料が必要ない。それは山、海、空気を守ることになった。自然環境は三百年位前の地球と似ている。ワープボールは瞬時に移動出来るから、時間に追われず広い星の中、皆散らばるようにゆったりとくらしている。ゆとりのある生活は、人の未知なる能力を引き出す。便利な機械の開発より一人一人が持つ特別な力を見つけることが大切なんだ。」
 君は初めて聞く話に驚きながらもぼくを信じてくれた。ただぼくらが抱いていた地球のイメージを伝えると、首を振り、地球人は今、破壊した自然を必死で取り戻す努力をしていると話した。君がぼくを信じてくれたように、まっすぐにぼくを見る君の瞳を信じた。
 「ワープボールの光は消えたままなのかい。」ポケットからワープボールをそっと取り出す。
「触ってもいいかい。きれいだね。」
 君がワープボールを太陽にかざしたその時、不思議なことが起きた。緑と青の光を放ちながら二つに割れ、君の手には緑色、ぼくの手には青色の半分のワープボールが落ちて来た。きっとこれで戻れる。こたえるようにワープボールはぼくの手の中で、青く明るく光った。
 「恭太、ぼくは星に帰り、本当の地球の姿を皆にきちんと話すよ。だから君もこの半分のワープボールを使って、ぼくらの星の話をして欲しい。もともとぼく達は双子の星に生まれた仲間なんだよ。皆が誤解をとき、お互いの星を分かり合うまで、最低五十年はかかるだろう。五十年後、ぼくの星に来てくれるね。」ぼくは恭太に手を差しのべた。
「ああ、キョン。君と会えたのは偶然じゃないね。約束するよ。五十年後、ぼくは必ず君の星へ行くよ。ぼくらは仲間だ。」
 ぼく達は固く握手を交わした。ぼくの両親もうなずきながら、見守っていてくれた。
 あの日からちょうど五十年。お互いの星の存在を認めたスプリングスターと地球は、今日、友好のための条約を結ぶ。恭太、君に残した半分のワープボールは今、緑に輝いているだろうか。もうすぐ君はあの日と同じ、キラキラした瞳で私の前に現れてくれるだろう。その時、私は君に言おう。
「ようこそ、スプリングスターへ。」


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