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17年度開催結果


2005年 作文の部<中学生部門>入賞作品
(財)日本宇宙フォーラム理事長賞

「そして私は」
北海道教育大学附属釧路中学校2年生  山本 華菜子
 
  「できるだろうか。」漆黒の髪をした女性の声が朦朧とした意識に響く。周りを見回すと果てしなく白い壁。金属製の風船の中にいるみたいだ。私は立ち、その女性の肩を叩いた。彼女は私が起きたことに気づき動揺している。「ここは何処ですか?」女性は沈黙したままだ。私は思わず「ちゃんと答えて。」と言ってしまい、後悔した。「ごめんなさい。」二人の声が重なった。私達は同時に吹き出した。
 彼女の名はヤーム、宇宙交流センターの職員だそうだ。ここが二〇~三〇年ほど未来の世界だと説明し、私にある使命を果たしてほしいとも彼女は言った。「球船で案内するわ。」ヤームが壁に手を触れると、球船はガラス張りの部屋となった。たちまち、青空と機械音、街の景観がなだれこみ、視界がぐるんと回った。建造物全てが島となって浮いているのだ。光の道がその島々を縫うように繋ぎ、その上を無数の球船が飛び交っている。瞬く間に表情を変える街は、さながら万華鏡のようだ。
 ヤームは街の中央に天高く伸びるタワーを指差して言った。「あれは宇宙科学のシンボル、オゾンセーバー。あれがなければ私達は大量の紫外線で死に絶えていたわ。」ヤームは話し始めた。度重なる環境破壊と戦争で地球はくたびれ、滅亡の危機に陥ったこと。銀河系の惑星が開発と地球物資の引き渡しを条件に地球を救い、新たな文明を爆発的なスピードで築いたことを。私は無性に悲しくなり、ヤームに尋ねた。「私は好き勝手に生きていた。私達は過ちを犯すの。」ヤームは「未来はあなた達しだい。」と言って私の手を握った。と同時に球船はカタカタと鳴り、停まった。
 外に出ると、空港とドームを融合させた巨大な施設が、まるで一つの生命体であるかのようにそびえていた。「今日は宇宙交流センターの創立記念日よ。」私達はセンターへと足を踏み入れた。施設内のホールは既に様々な宇宙人達が集っている。吸盤を付着させた緑色の男性や見事なロボットダンスを披露する金色の女性、誰もが笑顔で満ちあふれている。ヤームは私に最上階の立体プラネタリウム(疑似体験宇宙旅行)に行くことを告げ、使命の内容を語った。「宇宙、そして地球では国単位で並はずれた知能と核爆弾二発分の破壊力を秘めたロボット『獅子』を所有している。獅子はこのプラネタリウムに潜んでいて、今夜特定のオゾンセーバーを破壊することで戦争を始めようとしているの。私達の使命はそれを阻止すること。」私は信じられなかった。「嘘、じゃあ、ここにいる人達の笑顔はうわべだけなの?」「私達がそれを変えるのよ。」とヤームが言った。私は唇をかみしめてプラネタリウムに向かった。
 ゲートをくぐると、銀河が私達を包んだ。「誰だ。」低い声が響いたかと思うと、ギュンと体が引っ張られ、青く美しい地球が遥か下にぽっかりと浮いているのが見えた。美しさに見とれたのも束の間、背後に異様な気配を感じて振り返ると、三つ目の動物「獅子」がそこにいた。ヤームは「戦争はいけない。考え直して。」と獅子に訴えた。しかし獅子は、「お前がどう思おうが私は地球のために戦争を始める。」と言って身を翻すと飛び去った。がっくりと膝を落とすヤームに私は「早く獅子を追おう。未来は変わる。」と声をかけた。するとヤームの目に光が灯った。
 次の瞬間、私達は夜の街に浮いていた。時折花火によって照らされる夜の闇をひたすら、飛び続けた。心臓はどっどっと鳴り、酸欠のせいで私の疲れは限界に達した。諦めかけたとき、オゾンセーバーが目に入った。「私は行くんだ。」足を精一杯ふり上げ、気がつくと頂上に立っていた。
 獅子が私の目の前にいた。足下にはヤームがうつ伏せで倒れている。「ねえ、戦争が何をもたらすの。人々を傷つけてあなたは学んだはずよ。宇宙交流と科学の発展は心を壊すことなんかじゃない。夢を叶えるためにあるの。お願い、やめて。」私は獅子に心の底から呼びかけた。そして獅子をただ抱きしめた。獅子の心が私の中に入り、冷えた想いが熱くなっていくのがわかる。獅子は雄叫びを上げた。はるか彼方からもウォーと同じ雄叫びが上がる。それは過ちに気づいた獅子達の咆哮だった。私は獅子と共に泣いていた……。
 気がつくと朝になっていた。「夢だったの。」飛び起きるとヤームが椅子に腰掛けている。「おかげで使命を果たすことができたわ。本当にありがとう。私を、大人になったあなたを忘れないで。また会おうね。幼い私。」そう、ヤームは未来の私だったのだ。私は「戦争のない、宇宙と地球が手をとり合う世界を創り上げてみせる。『地球は私達子供が変える』また会おうね、ヤーム!」と言って大きく、大きく手をふった。ヤームはほほえむと透明になり、未来へと消えた。私は窓を開けて空を仰ぎ、降り注ぐ太陽の光に、目を細めた。


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