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17年度開催結果


2005年 作文の部<中学生部門>入賞作品
国際宇宙連盟(IAF)会長賞

「ジョバンニの銀河・それぞれの宇宙」
札幌市立手稲中学校1年生  菅原 紗也香
 
  「おばあちゃん、見て。お月さまが赤いよ。」
 かわいい声にさそわれて空を見上げると、大きな満月がのぼっていた。
「まあ、ストロベリー・ムーン!」
 夏至のころの赤い月をそう呼ぶと知ったのは、もう五十年も昔のことだろうか。わたしの脳裏に遠い日の記憶が、あざやかによみがえってきた。
 ――ジョバンニが旅をした銀河は、どんな世界だったのだろう。宇宙って、いったいなんだろう。
 たしか、そんなテーマだったと思う。小学校最後の国語の授業。わたしたちは、宮澤賢治の童話『銀河鉄道の夜』をめぐって、話し合いをしていた。
 すばる望遠鏡が見た神秘的な星雲、偏光顕微鏡の中の岩石標本、映画に描かれた宇宙人、青い地球……。教室のあちこちで、いろいろな宇宙のイメージが飛び交っていた。
「宇宙といえば、やっぱりイチゴだよね。」
「ええっ?」
 わたしのひとことに、みんながけげんそうな顔を向けた。
「いくら給食のデザートがイチゴだったからって、サヤったら……。」
 ミウのあきれ顔に一瞬、しまったと思ったけれど、わたしにはあのとき、暗い宇宙にぽっかりと浮かんだ真っ赤なイチゴが見えたような気がした。そう、イチゴが主人公のスペース・オデッセイ……。
「あのね、あの一粒には、宇宙のエネルギーがぎっしり詰まってるって感じるんだよ。」
 大地に根をはるイチゴ。やさしい雨が緑の葉をしげらせて、太陽の明るい光が実を赤くする。甘酸っぱい香りを運ぶのは、風だ。あの小さな金色のタネは、数え切れないくらいの星をながめたことの証拠にちがいないし、半分に割ったときの白い断面図は、新しい星が生まれる瞬間のかたち……。
「イチゴが星になっちゃうなんて、やっぱり、サヤは童話作家を夢見て正解だよ。」
 ミウが楽しそうに、わたしをつついた。
「そういえば英語には、ストロベリー・ムーンということばがあるわ。夕日のような色をした月を指すの。みんなの大好きなイチゴを夜空に重ねるなんて、なかなかステキよね。」
 いつのまにかそばに立っていた先生が、うっとりとした調子で言う。宇宙は案外、わたしたちの身近にあるものなのかもしれない。
「うちのおじいちゃん、メロンのもようを見るたびに、火星にはこんな運河があるんだぞって言うんだ。古いSF小説に書いてあったらしいけど、ちょっと興味がある。ねぇ、火星に行ってみたいと思わない?」
 マミの発言に、教室がドッと湧いた。
「火星には、氷の平原があるって聞いた。もしかしたら、生き物が閉じこめられているんじゃないかな。昆虫が入ってるコハクみたいにさ。」
「生命体なら、エウロパやタイタンの海だよ。有毒ガスを分解するってやつ。あっ、地球の深海底にも似たような生物がいた。あれって、環境のために役立てられないかなぁ。」
 こう話すのは、リョウとハルだ。 「ミロの絵を知ってる? あそこに描かれた人物って、ぜったい宇宙人だよな。」
「なぁ、無重力で背負い投げをしたら、どこまで飛んでいくと思う?」
 笑わせ役のカズとアイチに続いて、シンがまじめな顔で言う。
「ぼくたちのからだも、元をたどれば宇宙から飛んできた物質でできている。植物も動物もみんな……。だからさ、地球という星も、宇宙全体から見れば、ひとつの細胞って考えられないかなぁ。」
 みんながうなずくのが見えた。
 宮澤賢治は『銀河鉄道の夜』に、どんなメッセージをこめたのだろう。わたしたちの話を聞いたなら、こんなはずではなかったと、にが笑いをするかもしれない。けれども、ジョバンニの銀河の旅は、みんなの心が宇宙のように果てしなく広がっているということを、わたしたちに教えてくれた。
 宇宙を思うこと。それは地球の未来を考えること。そこにくらす生命を見つめること。そして、ひとりひとりが夢を持ち続けるということ。そう気づいた、あの日の授業だった。
「おばあちゃん、イチゴ、もうすぐだね。」
 庭先で実った小さな粒が、ピンク色になっていた。ハイテク農業のおかげで、いまではほとんどの作物が、太陽の光の届かない場所でもおいしく育つようになった。でも、イチゴだけは別。宇宙のエネルギーを一身に浴びて赤くなる……。
「このイチゴが熟したら、摘みたてを持って、なつかしい友だちに会いにいこうかしら。」
 あのころのままの好奇心でいっぱいのみんなの笑顔が、また、浮かんできた。


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