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16年度開催結果


2004年 作文の部<小学生部門>入賞作品
宇宙航空研究開発機構理事長賞

「おばあちゃんへの招待状」
札幌市立富丘小学校6年生  菅原紗也香
 
  「トゥーポ、プルルー、トゥープポポー……。」
 ケンタウルスホルンが高らかに鳴りひびく。
 『銀河音楽祭』の開幕を告げるファンファーレだ。
 「いよいよね……。」
 わたしは、息をつめてステージに注目した。となりに並んだおばあちゃんも、ちょっぴりきんちょうぎみだ。
 と、ベガハープが澄んだ音色をつむぎ出した。やさしくこたえるアークフルート。カペラドラムの軽やかなリズムに合わせて、バイオリンが、チェロが、そしてクラリネットが、流れるように、歌うように、いくつも音を重ねていく。ホールにいるだれもが今、うっとりと演奏に聴き入っている。
 わたしはそっと、おばあちゃんを見た。しあわせそうな笑顔は、どこかほこらしげだ。そう、だって、この音楽祭のテーマ曲・交響詩『きぼう』を作ったのは、ほかならぬ、おばあちゃんなのだから。
 『銀河音楽祭・特別ご招待状』――おばあちゃんあてに宇宙メールが届いたのは、半年前のこと。どこもかしこも、太陽系で初めて開催されるという『銀河音楽祭』の話でもちきりで、なかなか手に入らないチケットにヤキモキしていたときだったから、おばあちゃんの喜びようといったらなかった。とこ ろが、メールを開いたとたん、そこにおどろきが加わった。なんと、音楽祭のオープニングを飾るテーマ曲に、おばあちゃんの曲が決まったというのだ。
 七十年前のおばあちゃんは、まだ若いピアニストで作曲家だった。夜空をながめるのが大好きで、星をモチーフに曲を作ることも多かった。交響詩『きぼう』が生まれたのも、宇宙へのあこがれからだ。
 そのころ地球には、今では信じられないくらいの悲しい歴史があった。戦争、テロ、憎しみ合い……。おばあちゃんも、いつも心を痛めていた。そんな地球に明るい未来をえがかせてくれたできごとが、国際宇宙ステーションの完成だった。たくさんの国の知恵と技術と協力とで実現したこのプロジェクトは、 宇宙に浮かぶ“平和のシンボル”になった。
 地球がいつまでも緑ゆたかな星であるように、人類があたたかい心を持ち続けられるように、そしていつか出会うかもしれないどこかの惑星の人たちとも友情を育てられるように……。おばあちゃんは、祈るような気持ちでピアノにむかった。新しい曲のタイトルは、とっくに決めていた。国際宇宙ステーションの日本の実験棟と同じ名前、『きぼう』だ。
 交響詩『きぼう』は、世界中で愛されるようになった。テレビやラジオやインターネットから流れた電波は、やがて宇宙に広がって、今では地球から六十光年はなれた惑星でも、おばあちゃんの曲は知られている。
 おばあちゃんの奏でるピアノの音は、星のまたたきに似ているかもしれない。そういえば、まだ小さかったわたしにも、星の話をいっぱいしてくれたっけ。エウロパの海に幻の竜がすんでいたり、北斗七星のひしゃくで虹のシャボン玉をすくったり、目玉焼き銀河が宇宙のファミリーレストランだったり……。ちょっとうそっぽいなと思いながら、どれも不思議で、いつも夢中になった。わたしがオリンポス天文台で働くようになったのも、やっぱり、おばあちゃんの影きょうなのだろう。
 『銀河音楽祭』の招待状は、宇宙へのあこがれをずっと持ち続けてきたおばあちゃんへの最高のプレゼントだ。
 さまざまな惑星から集まった人たちが、いろいろな楽器で、交響詩『きぼう』を弾いている。みんな心をこめて……。おばちゃんがこの曲を作ったとき、こんな光景を想像できただろうか。まもなく最後の楽章だ。
 「ブラボー! アンコール!」
 気がつくと、おばあちゃんとわたしは鳴りやまない拍手の中にいた。ホールのまわりでは、土星リングが万華鏡のようにあざやかな光のダンスを見せている。わたしはおばあちゃんの手を取って、ステージにむかって歩き出した。
★          ★          ★
 二〇〇四年七月、異星人との交信のニュースは、残念ながらまだない。けれども、地球で最初に放送された電波はもう、数十光年もかなたの宇宙にまで広がっているという。とすると、その電波をキャッチしている異星人も、きっとどこかにいるはずだ。もしかしたら、モーツァルトやビートルズの音楽に耳をかたむけたり、チャップリンの映画に笑いころげていたりして……。そんな“感動するココロ”を持った異星人となら、わたしはすぐに友だちになれそうな気がする。
「宇宙フェスティバルに出かけよう!」
 そう遠くない未来、こんな案内状がわたしのところへも届くかもしれない。


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