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15年度開催結果


2003年 作文の部<中学生部門>入賞作品
文部科学省国立天文台長賞

「Welcome!! To The Mars!! 」
山形大学教育学部附属中学校2年生  植松 未知
 
  今、僕は南極の氷河の上。瞬間移動の順番を待っている。地球上で一番寒いここから平均気温マイナス55℃の火星へ僕は出発する。
 僕と母さんにツアー決定の手紙が届いた。
「お兄ちゃんずるい! 私に譲ってよ!」
 妹には何度もせがまれたが、宝くじを渡せるものか。火星ツアーは、三回目の今年からやっと一般公募の参加が認められたんだ。
 2003年の火星大接近の年に、火星から地球に初めてメッセージが届けられ、地球に手を振る火星人が望遠鏡で確認されたそうだ。それから十五年に一度、火星が接近するたびに招待状が届くようになったという。何枚もはがきを書いて、やっとゲットした火星旅行だ! 母さんときたら、当たりますようにと何度も神社にお参りに行っていたくらいだ。
 ヘッドホーンからアナウンスが流れてきた。
「……では、使用に関してのご注意です……」
 心臓がバクバクしてきた。倒れそうだ!
「手前のレバーを両手でおひきください。では、火星でお待ちいたしており……」
 やばい! あせって、片手でレバーを思いっきりひいてしまった。
 うわあ! 両手でレバーをひかなかった僕はすごいスピードで、すごい体勢で吹き飛ばされていく。息ができない。この瞬間移動機は火星製だ。本当に着くのか? 火星人の科学力は大丈夫か? 注意を守らなかったのに、遠のく意識の中で僕は火星をののしっていた。
「ガガガガッドォン!」
 ここはどこだ? 向こうにあかりが見え「Welcome!! To The Mars!」と書いてある幕が見えた。よかった。火星だ。ほっとため息をつきながら、火星スーツのスイッチをオンにした。地球と気温が違う火星に適応させる機能だ。スーツの中は適温だ。火星人は、クレーターの中で暮らしていて、一つ一つのクレーターは独立した都市になっていると聞いた。
 火星の科学力はなかなかのものだなあ。さっきの言葉を忘れたように僕は呟いた。
「地球の皆様。今年は地球大接近の年です。十五年に一度の友好を深め合いましょう。」
 アナウンスが流れた。僕もエレベーターでクレーターの地下に降りてみることにした。ドアが開く。ここは、デパートらしい。何が書いてあるのかわからない。火星スーツの内ポケットをオンにした。翻訳機能がついていて、火星語の達人になれる。火星製品は『自然体の友好』をポリシーに作られている。
 目の前をたくさんの火星人がゆっくり歩いている。こういっては失礼だが、顔はカタツムリのようだ。体も低温保護カプセルのスーツで……つまり、まるでカタツムリだ。
 ふと気づくと、僕の立っている売り場にはほとんど人がいない。やっぱり地球人は気味悪がられるんだ。火星になんか来なきゃよかった。思わず涙が出そうで、急いで天井を見つめた。……ン? 目の前に「新品」というカードが下がっていた。何だこれ? 新品コーナー? 向こうにも何かカードが下がっているぞ。
 僕は吸い寄せられるように火星人で賑わっている売り場へ向かった。「再利用」というカードだった。こちらは商品も火星人も押し合いへし合い。人で溢れ返っているのに、混雑特有の混乱や怒声がない? 目を白黒させてカードを見ていると、火星人にぶつかってしまった。とっさのことで僕は何も言えない。
「ごめんなさいね。心が足りなかったわ。」
 心が足りない? 何だ? それ。ぶつかったのは僕なのに。怪訝そうな僕ににっこり微笑んでゆっくり話し掛けてきた。
「お待ちしていましたよ。今年は地球大接近の年。2003年は心配したわ。近づいてくる地球で地球人同士戦争しているのが見えたから。それで、メッセージを送ったのよ。火星の二の舞はだめよ。心が足りないというのは火星ではよく使われる言葉なの。物は少なくても心は増やせるわ。」
そういうと、カプセルの中から本を出した。
「お詫びに、この本をあなたにあげるわ。」
 僕は本を開いた。火星の歴史の本だった。火星には資源が少ない。三百年前、その火星に大危機が訪れた。もう、残り少ない資源をめぐって戦いが行われたのだ。地球侵略というアイディアも出たらしい。一触即発のその時、長老プラニティアが背中にたくさんの資源を背負って現れた。騒然とする群集に長老は静かに語りかけた。声が響いた。
「クレーターの中じゃ。ごみ用のな。」
 それから火星人は変わった。何も捨てなくなった。ごみを再び蘇らせるため、科学者達も政治家も市民も全力を尽くした。いつしか、循環のサイクルができ、火星は全てのものがバランスを保つ全資源循環型惑星に変身した。
 僕は読むうちに、地球の未来といつの間にか重ねていた。地球も危ない。今こそ、立ち上がらなければ。僕の心に火星が赤く灯った。
 エレベーターの扉に映った僕の目は生き生きして見える。顔をあげると母さんが遠くで手を振っていた。母さんの目も輝いていた。


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