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15年度開催結果


2003年 作文の部<中学生部門>入賞作品
文部科学大臣賞

「ようこそ、火星へ!」
駿台甲府中学校2年  嶋田 修一郎
 
  たそがれ時。せせらぎのほとりには今日も、たくさんの人達が集まって来た。
「わー、優しく光っているよ。」
「まるで、光のじゅうたんだね。」
 ここ火星では、夏を控えたこの季節。夜、暗くなり始めると、今日もまた、光の舞いが展開される。光の帯を演出するこの発色体は、点滅周期をお互いに同調させながら、赤、青、緑、黄、紫の順に色を変える。光は、淡く優しい曲線の光の軌跡となって、一緒に来たぼくの祖父、両親、妹の瞳にも写っていた。
 発光体の主はここで生まれた「火星ホタル。」火星の固有種だ。美しく、はかない光の乱舞。蛍は競いあい、素敵な相手を見つけようと、短い命の限りを尽くし、全力で懸命に生きている。この光は命をかけた蛍のドラマだ。
 「見てごらん! 卵も光っている。」祖父が指差す。見ると、水草の茎には新しく産みつけられたたくさんの卵。「ここからまた新しい生命が始まるんだね。」ぼくはうれしくなった。
 蛍だけではない。10億年の凍った眠りから目覚め、命を取り戻した火星の自然は、火星に住む人間達も、優しく包んでくれている。火星上で育まれるたくさんの生命と、その生態系は、力強く、未来に向かって進んでいる。
 今から50年前の西暦2012年9月12日。20年目の「宇宙の日」、一つのニュースが世界をかけめぐった。「昆虫の卵を発見!」日本の探査機、「のぞみII」が持ち帰った氷の中に、大きさ2ミリ程の白い卵塊が保存されていたのだ。これが今や火星のあちらこちらで光の音楽を奏でる「火星ホタル」の最初の発見だった。
 その9年前の2003年。火星が地球に大接近するという宇宙イベントが起こった。この大接近のタイミングに合わせ打ち上げられた米国とE.U.と日本の探査機は翌年、火星の地下に多量の水が閉じ込められていることを確認した。
 2年後、クレーター底に着陸した探査機が、地下数十mの所で、ドリル先端で捕えたもの――それは巨大な地下湖への入り口だった。驚くべきことに、地下湖の水の中には休眠状態の多種多様な生物が生存していたのだ。
 翌年、宇宙科学は次の三事項を発表した。10億年前まで、火星に地球と同じ大量の海や湖が存在したこと。温度低下と共に水は地下に潜ったが、それまで繁栄した生物達の多くは地下水中で休眠し生き残っていること。太陽光を多く当てるだけで、大量のシアノバクテリアが酸素を産み出し、火星の大気環境を、人類が生息できる状態にできること。
 21世紀初頭。地球上では、悲しい領土争い、テロ、戦争が続いていた。しかし、宇宙科学は人類に大きな夢と希望を与えた。「火星」という新しい希望は、世界中の人の知恵と勇気を、このニューフロンティア計画に結集させた。火星という一つの共通目標を持った人間達は、世界の人達がお互いに協力し助け合うこと、夢を持ち続ければ必ずそれが実現することを、学んでいった。こうして、地球から争いが完全に消失し、世界人類の火星基地が誕生した。
 火星軌道。人工衛星の大きな赤外線鏡が太陽からの暖かい光を火星表面に向ける。地下湖や氷の中で休眠していたたくさんの植物、動物達も、ついに目覚める時が来た。彼等は、10億年間の眠りを取り戻すかのように、激しく酸素を産み出し、火星の大気を、生物にとって、安全な物へ変えてゆく。生まれる空気。溶け出す氷。輝く生命。再び、命を取り戻す火星。
 「間もなく、人間は火星基地ドームを出て、火星上を自由に動き回れるようになるだろう。」
 火星と地球との共存は、病気で苦しむ人類を救った。火星のカビからは、万能抗生物質が精製された。火星の微生物からは、様々なウィルスを退治する新物質が次々に抽出され、エイズもSARSも無くなった。数多くの抗癌剤も、ここ火星の生物から開発され、癌による死者数は、死者全体の1%にも満たなくなった。
 共存は、両方の星に自然を取り戻させた。環境を汚染することなく水素や酸素を産出するバクテリア。これらは、二つの星における燃料電池のエネルギー源に利用。もはや、人類は化石燃料を利用する必要がなくなった。
 ダイオキシン、環境ホルモン、プラスチックなど、地球上では分解できなかった地球のゴミを、次々に食べてしまう生物も発見。リサイクルでも、地球と火星との助け合いが実現。この火星で実現した人類の夢は、ますます大きく宇宙全体に広がっていくことだろう。
 「見てごらん」誇らしげに祖父が言う。祖父は1990年地球生まれ。両手に小惑星「しじみ」の命名証明書を持ちながら、「修一郎、ぼくの宇宙への興味は今のお前と同じだった。今では、火星に住むなんて当たり前のことだけど、その頃は夢だった。しかし、宇宙への希望と勇気が、全世界の人の力を結集させた。世界の人達の協力と平和の象徴。人を思いやる優しい心の象徴。それが、この火星なんだ!」今、ぼくは、胸を張って言うことができる。「火星に、ようこそ!」


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