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14年度開催結果


2002年 作文の部<中学生部門>入賞作品
文部科学省宇宙科学研究所長賞

「ここは銀河中央駅」
つくば市立竹園東中学校2年  宮本 綾乃
 
「シューッ。」
列車が停止する軽い振動で僕は目が覚めた。いつの間にか居眠りをしていたらしい。
「終点、銀河中央駅。お乗り換えの方は……。」地球語の後に宇宙共通語のアナウンスが続く。地球駅からの直行便から一人降り立った僕は、呆然としてしまった。周りは生まれて初めて見る異星人ばかりだ。全身から満月の夜の空の色の光を放っている者。おとぎ話の妖精のような羽と触角をゆらゆらさせながら通り過ぎてゆく者。いったい何星人なのだろう。
「☆◎□∴○……。」
頭のてっぺんをツンツンとつつかれた。見上げると3mはゆうにあるだろうと思われる異星人が僕を見下ろして何か言っている。銀色の髪が足下まで伸びて、肌は、そう、晴れた日の湖のような緑だった。僕は地球語以外話せないから、何も答えられずにいると、彼(?)は一瞬戸惑ったような目をして、長い服の裾を引きずって、ゆっくりと立ち去った。
「インタープリターも持ってないのかい?」
振り返ると、壁際の人目につきにくい所に、小柄なおばあさんが背中を丸めて座っていた。
「ほら、これをあげるよ。つけてごらん。」
そう言うと小さな球状のイヤホンのようなものをくれた。それを耳の穴に装着すると急にあらゆる音や文字が地球語で飛びこんできた。耳から直接脳に刺激を与えて、音声も文字も翻訳する最新型のインタープリターだ。
「ありがとう。あの、僕……。」
「人はどうして旅に出ると思うね?」
僕の言葉を遮るようにおばあさんは言った。しわくちゃの土色の顔に似合わない、大きくて好奇心の強そうな薄紅色の目をしている。
「お前は、これからどこへ行くんだい?」
どこへ? そうだ、どこへ行こう……。気がつくとおばあさんはいつの間にかいなくなっていた。でも、不思議なことに僕はちっとも怖くはなかった。むしろ、人に圧倒されて気がつかなかった銀河中央駅の美しさに見とれてしまった。幾重にも重なったドーム状の高い天井。そびえ立つ支柱。この駅が銀河系で最も古くて美しい建物だとは聞いていたけれど……。基調は白なのに、冷たい感じはしない。見る角度や光線の加減で微妙に色が変化するのだ。僕はそっと柱の一つに手を触れてみた。ひんやりとして気持ちいい。

どこからともなく、5歳くらいの子供達が30人程現れて、僕を取り囲んだ。
「お兄ちゃん、誰? どこ行くの?」
みんな金色の髪に金色の肌、緑の大きな目をしている。服も金色でしっぽがはえている。
「君達こそ誰? どこへ行くの?」
「僕達は……誰かな? ……どこへ行くのかな?」
どこかな?と子供達は顔を見あわせている。
「えーとね、僕達ブルジョアなんだ。」
そうそう、ブルジョア、とみんな繰り返す。
「ブルジョアってどういう意味?」
子供達は口々にどういう意味?と繰り返す。その時、子供達の後ろから、やっぱり金ピカの大人の異星人がやって来て声をかけた。
「さぁ、みなさん、行きますよ。」
行きます、行きます、と言いながら子供達は2列になって歩いて行ってしまった。あの子達も僕も大して変わらないな、と僕は思った。どこへ行くのか、どうしたいのか、自分が何なのか、わからないんだ……。

昨夜、僕は家出した。生まれてから14年間、僕は自分が地球人だと思っていたのに、母さんはゼータ星人だったのだ。僕は地球人の父さんとのハーフということになる。
「母さんは地球人にしか見えないよ!」
「地球人の親族やご近所の人達に嫌われたくなかったのよ。だから整形をしたの。」
異星人同士が結婚する時に、どちらかに合わせて整形するのは決して珍しいことじゃない。でも、母さんが? 本当はどんな姿なの?
「あなたに言っておきたいの。15歳になったら、あなたにもゼータ星人特有の……」
「そんなこと、聞きたくないよ!」
母さんの言葉を途中で遮って、僕は自分の部屋へ駆け上がると、バックパックにありったけのお金と着替えをつめ込んで、皆が寝静まった頃、こっそり家を抜け出した。母さん、どうしているだろう。サタンへ地質調査に行っている父さんに連絡しただろうか。15歳になったら、僕はどうなってしまうんだろう。

「人はなぜ旅をすると思うね?」
さっきのおばあさんだ。いつから居たんだ?
「ほら、これを見てごらん。」
そう言うとおばあさんは右手の中のいくつものビー玉を見せた。そのビー玉はおばあさんの手から宙に浮いて、くるくると回り始めた。
「これが銀河系。この青くて小さいのが地球だよ。そして、これがお前の母さんの星。小さいけれど、とても美しい星さ。そこに住む人達の心と同じようにね。」
僕はそのビー玉をじっと見つめた。薄紫色に光る星。母さんの瞳の色だ……。思わず涙がこぼれそうになって、僕はまばたきした。
「行ってごらん。自分で確かめるといい。」
僕は唇をかみしめた。そうだ、行ってみよう。母さんの生まれ故郷へ。そして確かめてこよう。僕がどこから来たのかを。おばあさんの質問の答えが今ならわかる。人が旅に出るのは、戻る所があるからだ。そう答えようとした瞬間、おばあさんは消え、僕はまた人混みの中に立っていた。でも、もう迷わない。 ここは銀河中央駅。あらゆる旅の始まる場所。これから僕は、ゼータ星行きの列車に乗る。


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