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13年度開催結果


2001年 作文の部<中学生部門>入賞作品
宇宙科学研究所長賞

「出発前日のM家の会話」
今治市立日吉中学校1年  村瀬 有紗
 
  「俺の健康保持機、どこに入れた?」
 父がトランクをまた開けて言っている。母は最新の宇宙服を試着しながら答えている。
「宇宙船の中は要らないんだって聞いたでしょ。船の中では船内コンピューターが管理しているから、健康はみんな完全に維持されるのよ。」
 父は納得できないように、トランクを閉じると一人で保持機を探し始めた。
「旅行案内書を読んでいないのよね。私なんか、もう十回も読んだわ。」
 呆れたようにそう言う母は、この旅行を半年も前から楽しみにしていたので、十回どころか三十回は読んでいることを私は知っていた。
 それにしても「銀河流れ星・白鳥の夢」なんて、値段も期間も手頃なツアーをよく見つけてきたものだ。母は、もしかしたら今度の旅行で、老後の移住先を探すつもりもあるのかもしれない。
 火星に人間が移住したのが二世紀前、それから今までに五十の星に人間は移り住んでいる。今度の旅行ではその内、五つの星に立ち寄り、十の星の横を通ることになっている。きっと母はその時、それぞれの星の見学をするつもりだと思う。
 私は船中で、色々な国の子たちと友達になれるのを楽しみにしている。
 人類が多様性という在り方の価値を再発見したのが二百三十年前だけど、それから国という文化の独自性の尊重と、総人類の友好という目的を合わせることは、容易ではなかったらしい。しかし、その共存が安定して機能し始めたため、私たちは今三百の国に属する民族文化を尊重し合いつつ、地球人としての友情を確かめ合えている。
 でも、他の星に移住した人たちは、今、別の問題を抱え始めている。それは環境の変化に対応した生物学的反応が、それぞれの星の人間を地球人の姿から変えつつあるらしいのだ。
 やがて私たちは数百年後、宇宙の中で数百数千の星のさまざまな人類(異星人)の友好という目標を持つようになるだろう。
 私はアメリカの友達に電話した。
「ハロー、メイ。明日から行ってくるね。」
「元気でね。私なんか、明日から歴史の学習が始まるので大変よ。私たちの国のコンピューターって、そりゃあ意地悪で、厳しいんだから。アリはいいよね。宇宙船の中の学校は優しいっていうから。」
「とーんでもない。私たちの船のコンピューターのあだ名、知らないの。魔女っていわれてるのよ。私も気が重いのよ。」
 電話機と通訳機は、私たちのおしゃべりをしからないから、一時間しゃべってしまった。
 電話を切ると火星のケイから宇宙通信が入った。
「ハロー、アリ。元気?この間来た時言わなかったけれど、私今度X十星に移住するんだ。それでアリが乗る宇宙船を使って下見に行くことにした。また、船の中で会おうね。」
 私はうれしくて部屋中を飛びはねた。だって、また、親友のケイと旅行できるんだもの。
 父と母は、また何か言い争っている声が聞こえている。今度は宇宙服のサイズのことらしい。まったく大人って、いつも自分のことが一番正しいって態度を変えないんだから、困ったものだ。
  地球は人口調整がうまくいって、今二十億人が住んでいる。宇宙には一億人。地球の人口はこれ以上増えないけれど、宇宙では三十年後には二億人になるらしい。だからケイのように、星と星との間の移住もこれからどんどん盛んになるらしい、と聞いている。
 夜空を見上げると宇宙船の作る軌跡が白く尾を引いて、流れ星のようにいく筋も流れていく。明日からは私たちの乗る船も、あのように地球からは見えるのだろう。さあ、今夜はもう寝よう。
 夢の中で私は、もう天の川を横切ってはるかな星雲へ、どんどんどんどん近づいていった。


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