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13年度開催結果


2001年 作文の部<小学生部門>入賞作品
国立天文台長賞

「二万三千光年の旅の終わりに」
私立ノートルダム清心女子大学附属小学校6年  藤原 衣通子
 
  暗黒星雲の長いトンネルをつきぬけるとそこは雪国だった。いや、ヘラクレス座の球状星団M13の中だった。地球からおよそ二万三千光年の距離にある天体だ。ぼくたちは、銀河系家族旅行船ノア913号に乗って、天の河の船旅を楽しんできた。ついにその終着点までやってきたんだ。

 おじいちゃんが、一番にノア号からとび出した。つづいて、ぼく、それから、父さんと母さん。球状星団は、地球から見ると、たくさんの星が集まってボールのような形に見える。でも今は違う。降りつづく淡雪の中に立っているような感じだ。目の中にも、体の中にも、光の美しさがそのままつきぬけていく。みんな息をのんでたたずんだ。

 おじいちゃんが還暦を迎えたお祝いに、父さんたちは、銀河宇宙旅行をプレゼントした。でも、おじいちゃんは、もっと、真剣なことをこの旅行で考えていた。

 おじいちゃんは、これを単なる観光旅行にしないで、銀河の旅の途中で、よい星があれば、家族でそのまま移住しようと考えていたんだ。ぼくたちは、旅の途中で、そのことを聞かされ、驚いてしまった。

 おじいちゃんは、地球はもうだめだ。西暦二千一年に採択された京都議定書は現実に二酸化炭素の排出量を減らすことができなかったし、河川や海の汚れもひどくなる一方ではどめがきかない。こんなひどい星は捨てて、きれいで住みよい星をさがそう、というのだ。

 それから、いろいろな星を見て旅をしてきた。地球にない色や音、風変わりな地形や気象、見たこともない生物や植物があって、けっこう楽しい星もあったんだけど、おじいちゃんはどれも気に入らなかった。

 球状星団は、数万個もの年老いた星の大集団だ。その年齢は銀河系の年齢とほぼ同じ、百億年。銀河系のヒエダノアレイのような存在だ。

 おじいちゃんは、銀河系のこと、太陽系のこと、地球のこと、みんなの生い立ちを星にたずねた。星団の中の一つの星がそれにていねいに答えてくれた。そしておじいちゃんは最後に、自分たちは、一体どこに住めばよいのだろう、とたずねた。

 すると星は、こんなことを言った。

 「ここに来る途中、いっかくじゅう座のばら星雲を見たかい。散光星雲がバラに見えるのは、人間が地球でバラを育てたからだろう。実際には何億光年も離れている星々を結びつけて星座にしているのも、みんな地球での歴史や生活から生まれたものだろう。誰でも大切に思うものがないと幸せになれないんだよ。この私も自分と星団の仲間と、私たちをとりまくガスや遠くまで旅をしていく光をとても大切にしている。そうやって喜んで生きているんだよ。」

 おじいちゃんは少し考えていたけれど、ぼくらの方をふりかえって言った。

 「よし、地球に帰ろう。昔、貝ほりした干潟や小魚を採った小川をもう一度きれいにするぞ。一人でもあきらめないでがんばってみる。わしは、水遊びが大好きじゃった。すっかり思い出したよ。」

 おじいちゃんは、ひとつ友達にするような敬礼を星にすると、ノア号にきびすをかえした。


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