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12年度開催結果


2000年 作文の部<中学生部門>入賞作品
(財)日本宇宙少年団理事長賞

「さくら」
千葉市立末広中学校3年  川島 広子
 
  「ふう、あともう少しね。」

 さくらは、額に浮かぶ汗をぬぐうと、手足についた土を払って、畑を抜け出た。いつもどおりさくらの大好きな木の下で休息をとるためだ。木には青々とした葉が茂っている。
「白いきれいな花びらは散ってしまったけれど、あなたは今日も元気ね。」

 さくらはそう言うと木の陰に腰を下ろした。

 ここは火星の人工農園。かつて地球に住んでいた生物はみな火星で暮らしている。なぜなら、工場から出る有害物質や、極度のオゾン層の破壊で地球の生態系が崩れ、生きとし生けるもの全ての生命が危機にさらされ、人類は火星に避難するしか術がなかったからだ。これが起きたのは、さくらの両親の代であった。だからさくらは地球を知らない。知っているのは、この星に共に避難してきた数種の植物だけで……。
「あなたの名前は何て言うのかしら……そうだ後でおばあちゃんに聞いてみようっと。」

 そう言ってさくらは立ち上がると、残りの作業をするために畑へ向かった。

 おばあちゃんの家は、人工農園を右に曲がって三つ目の第三シェルターにある。
「おばあちゃん、こんにちは。今日は畑で取れた野菜を持ってきたんだ。それとね、おばあちゃんに聞きたいことがあってきたの。」

 そう言ってさくらはあの大好きな木のことについて、おばあちゃんに話した。
「おばあちゃんはあの木の名前を知ってる?」

 おばあちゃんはなつかしそうに目を細めると、
「あの木はね、梅っていうんだよ。」
「梅?」
「そう、あの木はね、私が地球を離れるとき、最後に見た木なんだよ。それでね、その梅の木が散った頃に咲く桜の花がね、とてもきれいで大好きだったんだよ。」
「桜って?」
「そう、お前と同じ名前の木だよ。私はさくらに、桜のように見る人を和ませられる優しい子に育ってほしかったから、この名前をつけたんだよ。桜が咲いている昔の地球は本当にきれいだった。」
「えっ? 地球ってきれいだったの?」
「そうだよ。」
「でも、お父さんや、お母さんは、すごく地球は汚かったって……だからこの火星にきたっていってたよ。」

 そうさくらが言うと、おばあちゃんは少し悲しそうな顔をした。
「昔はそんなんじゃなかったんだよ。あれは技術が進歩しすぎたんだ……。確かにみんなが豊かになったのはよかったけれど、もっお身近で大切なものを失なっていたことに気がつかなかったんだよ、私達は。だから、地球は汚かったんじゃなくて、私達が汚して死なせてしまったような、可哀相な星だったんだよ。」

 一度息をつくと、
「だから、この新しく移ってきた火星は、地球の二の舞にしてはならないんだ。これからはさくら達のような若い人達がこの火星を動かしていくんだよ。」

 さくらは、初めて本当の地球を知り、美しい星を心の中で描いた。また、おばあちゃんの言ったことに大きくうなずいた。おばあちゃんは笑顔になって、 「また桜を見られるような世界をつくっておくれ。」
「うんっ!!」

 その夜さくらは今日おばあちゃんから聞いた話を両親に話した。両親は昔の地球を知り、さくらと同様に驚いていた。
「ねぇお母さん、桜って知ってる?」

 さくらは昼間おばあちゃんから話を聞いたときからずっと気になっていたことを聞いた。
「えっ?」

 お母さんは記憶を探るような顔をして、
「小さいころ一度だけあるわ。ピンク色の花が咲くきれいな木で、とても印象的だったわ。」

 さくらは母のその言葉を聞いて、胸がいっぱいになった。そして同時におばあちゃんが望んだ世界をつくりたい。そして二度と過去の過ちをおこしてはならないと心に決めた。


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