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12年度開催結果


2000年 作文の部<中学生部門>入賞作品
審査員特別賞

「近未来」
八戸市立白銀中学校3年  石和 瑞穂
 
  ビビビビーッというものすごい音が、創(はじめ)の部屋に鳴り響いた。午前七時にあわせてあった目覚し時計の音だ。創は、耳をおさえながらスイッチを切った。そして、いつもどおりの朝が始まった。顔を洗い、朝食をとり、歯を磨き、制服に着がえるともう七時三十分。創は急いで家を出た。学校は家から少し遠く、バスに乗らなくてはならない。創は、バスが来る二分前にバス停に到着した。そのバス停は、地下鉄入口の近くにあり、高層ビルが立ち並んでいる所にあった。そのため、朝はたくさんの人であふれかえっていた。

 創はふと、目の前のビルの電光掲示板に目をやった。そこには、大きくこう書いてあった。『宇宙ニュース』創は首をかしげた。今までにこんなニュースが入っていただろうか。創は、しばらくそれを眺めていたが、『宇宙ニュース』とあるだけで、一向に変わる気配がない。『壊れてるのかなあ。』創がそう考えた時、画面がパッと変わった。そして、文字がどんどん流れていった。『昨日十七日、火星を訪れたアメリカ大統領は、火星人との交流を深めた後、午後は宇宙浴を行い、くつろいだ。』創は、思わず笑ってしまった。『誰がやったいたずらだろう。こんな大ウソを流すなんて』と思った。しかし、創の後ろを通って行く人達が、
「火星か、今年の夏は火星旅行もいいなあ。」
などと、おかしなことを話しているのだ。
「私は、火星より土星に行きたいわ。」
「でも、旅行費けっこうかかるんでしょ?」
「私は、この間木星に行ってきたばっかりよ。」

 創は、自分の耳を疑った。まわりを見渡せば、人という人が、そんな話をしている。
「どうなっているんだ?」

 創がそう言った瞬間、創の体は誰かに引っぱられるように勢いよく空に浮いた。思わず目をつぶってしまったが、次に目を開けた時には、真っ暗で岩場のようにゴツゴツした所に立っていた。ふと、後ろから光を感じてふりかえると、大きな星が見えた。それは地球だった。創は言葉を失ってしまった。『ここは、もしかしたら月ではないか?』と思ったが、どうすることもできずにボーッと地球を眺めていた。

 すると、地球から光る物がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。ロケットだ。それは、一瞬で創の前を通り過ぎて行ってしまった。
「驚いただろう?」

 いつの間にか目の前には、背の高い白髪の男が立っていた。
「どうだい、月から見る地球の眺めは?」

 創は、答える言葉がみつからなかった。頭の中が真っ白になっていた。
「信じられんかもしれんが、あんたがさっき見た電光掲示板も、さっきそこを通ったロケットも、全て六十年後の未来の話だ。あんたが、あと六十年生きれば、世界はここまで広がっている。」
「六十年後の未来?」

 創は、やっと口を開いた。
「あれが分かるか?」

 男は、銀色に光っている惑星を指さして言った。
「あれはまだ作っている段階だが、いずれあそこにも人が住むようになるだろう。」

 男は悲しそうな表情をしながら続けた。
「宇宙開発もいいんだが、地球のことをもう少し考えて欲しくてなあ。あの大陸を見てみろ。」

 それは、アフリカ大陸だった。その大陸に緑は全くと言っていいほどなかった。創が見ている景色は、六十年後の荒々しい地球の姿だった。
「あんたをここに呼んだのは、この地球を見せたかったからだ。今のあんたなら、未来を変えることができるかもしれないと思ったんだよ。そりゃ、宇宙開発も大事なことだ。だからといって、地球をほったらかしにしていいはずがない。異星人が来て、あの地球を見たらどう思うだろう?。どんなに優れた科学を持っていても、どんなにすばらしい言葉を並べても、自分達の星を大切にしないような地球人の何を信じてもらえるというのだろう?」

 男の真剣なまなざしと言葉は、創の心に響いた。確かに、あの荒廃した地球の前には、全てが無意味なように思われた。
「あなたは、一体誰なんですか?」

 創の問いに、男はぼそっと答えた。
「わたしは……六十年後のあんただよ。」

 そして、目を丸くしている創にむかって、さらに言った。
「こんなことをするのは、ルール違反かもしれないが、未来を変えて欲しいんだ。」

 男は、創の目をじっと見た。目で『頼んだぞ』と言っているかのようだった。

 次の瞬間、創はまた誰かに引っぱられた感じがした。目を開くと、創の家族が心配そうに顔をのぞきこんでいた。そこは、病院のベットの上だった。通学途中のバス停で倒れたらしい。

 病院の帰り道、創を乗せた車は、暗くなり始めた街の中を走っていた。創の目に、あの電光掲示板がうつり、はっとして目を凝らしたが、そこには、いつもどおりのニュースが流れていた。


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