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11年度開催結果


1999年 作文の部<中学生部門>入賞作品
科学技術庁長官賞

「いつの日か、ふたたび」
私立桐蔭学園中学校3年  小塚 明日美
 
  「エネルギーが、不足シテイマス」

 僕は絶望的な気分で、モニターを見つめた。一週間分あった栄養補給セットやカルシウムの注射薬もほとんど底をついた。信号弾だけはたくさんあるが、周囲は暗黒の宇宙が広がるばかりで、巡航シャトルすら見当たらない。

 火山爆発した地球からやっと逃れたのに、僕はこんな所で宇宙ゴミとなってしまうのか。

 ミイラになった自分自身を想像していたとき、通信画面が電波を受信した。誰かが僕に気付いて、特殊感応システムの電波を流してくれたのだ。波長をそれと同調させることで、僕のシャトルは火星区域へと運ばれていった。

 僕を助けてくれたのは、木星と火星の中間に位置する人工天体「イーグル」だった。イーグルは数ある人工天体の中でも特に大きく、直径五〇キロメートル、人口は二〇〇万人に達する。セキュリティも万全で、中に入るときにはIDカードが必要だ。巨大な正面ドアから1G空間に足を踏み入れた途端、僕の体にすさまじい重みがのしかかってきた。僕の故郷は地球なので当然1G空間だが、なにしろ一週間も宇宙空間を漂っていたため、重力の急変に体がついていけなかったのだ。エリック・グリーンという人が、「大丈夫か、タカオ」と言って助け起こしてくれなければ、僕はずっと床にはいつくばったままだったかもしれない。僕が地球出身だと知ると、歴史学者のエリックさんは興味深げな顔をした。

 今から五〇〇年前の西暦二一九九年、地球では世界規模の核戦争が起きた。それを期に全ての地球人は宇宙へ逃れ、そこで生活を始めた。僕の先祖を含む一部の研究者が再び地球に降り立ったのは、戦争の三〇〇年後である。僕も今回の火山爆発がおこるまでは、地中に残留する放射能濃度を調べるのを日課にしていた。

 エリックさんの出身星もたずねてみたのだが、それは僕が聞いたこともない星だった。軽重力で有名な星なのだそうだが、それならなぜ二日前にここに来たという彼が、平然としていられるのだろう。そうたずねると、彼は翡翠色の瞳に人の悪い笑みを浮かべ、

 「実はここだけの話なんだけどね、僕は宇宙人なんだよ」と言った。

 最初は冗談かと思ったが、エリックさんの顔は真剣だったので、僕は笑えなかった。

 彼曰く、地球には昔から、その美しさにひかれ他惑星から来た宇宙人が数多くいた。しかし、その姿は地球では見えず、宇宙に来て初めて見えるのだそうだ。僕が今エリックさんと話ができるのもそのせいだという。宇宙人は地球人に迷惑をかけずに生きていたが、地球人は川や海に猛毒を流し、オゾン層を破壊し、最後には核戦争で地球をめちゃめちゃにしてしまったのだ。人間と荒れ果てた地球に失望した宇宙人達は、次々と地球を離れていったという。

 エリックさんも人間に失望した宇宙人の一人だったが、まだ希望があるのではと考え、太陽系に残ったのだという。彼の母星の公転周期は二五年。ということは、三〇歳くらいにしかみえないエリックさんは地球だと三〇×二五=七五〇歳ということだろうか。

 「さて、タカオ。僕は地球で生まれたという君に聞いてみたい。地球をもと通りにするには、どんなことをすればいいと思う?」

 「僕の七〇〇年くらい前の先祖が持っていたメダルには、僕と同じ『タカオ』という名前の宇宙飛行士が描かれているんだ。彼が子供の頃は、たくさん星が見られたそうだよ。今の地球の空は赤茶けた塵で覆われて何も見ることができないけど、いつの日か、きっと地球にも星空を取り戻してみせるよ。空にある塵を取り除き、苛酷な環境に耐えられる強い草を植える。そうすれば空気中の二酸化炭素濃度が減り、地球の温度も低下する。僕一代の間では無理かもしれないけど、エリックさんが生きている間には、タカオ飛行士の子供時代より、もっときれいな星空を地球に取り戻させると約束するよ」僕がそう言うと、エリックさんは満足気な笑みを浮かべ、「よろしい」という風にうなずいた……

 気がついた時、僕は、イーグルの個室のベッドにいた。エリックさんが運んでくれたのだろうか。お礼を言おうと思い、受付で彼の部屋番号を聞いてみたが、返ってきた答えは僕を呆然とさせた。エリック・グリーンという歴史学者など、コンピュータ名簿には記録されていないというのだ。

 宇宙人のエリックさんは、僕の夢の中の幻にすぎなかったのだろうか。僕にはそうは思えない。彼は姿を誰にも見えないよう隠してしまい、僕が彼との約束をちゃんと守るかどうかを、どこかから見ているに違いない。名前にふさわしい、あの翡翠の瞳で。

 ……その頃、地球は夢を見ていた。いつの日かふたたび、自分が緑で覆われる夢を。


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